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むりやりサインさせるってアリですか!?~つきつけられたのは雇用契約書でした~  作者: 佐藤ヒロフミ


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9話 お風呂に乱入って、アリですか!?


「……よしっ」


 今日の私には目標があった。

 上手くいく確証もないけれど、これからの為にはやるしかない。

 その目標は何かって? それは……。


 ユノさんと仲良くなること!


 ……ね? 上手くいく確証なんてないでしょ?

 ずっと隠れていてもいいし、雑用もサボっていい。これはライラさんに言えないけど。

 でも、最低限の会話くらいはしたい。

 ユノさんは私を見る度、何故か敵意のある視線を向けてくる。

 ライラさんやリースさんに対しては無感情というか、無関心って感じの視線なのに。

 その謎も解きたい、出来れば誤解も解きたい。あれば、だけど。


「ユノさーん?」


 まずは家の中の食堂……いない。

 彼女の寝室……も、いない。というか使ってるのかな……これ。すごく綺麗だけど。

 次は倉庫、いない。中庭にも……いない。

 そして厨房…………。


「あ」

「…………」


 リースさんがつまみ食いをしていた。


「お、お腹空いちゃって……あはは」

「……晩御飯の分は、残しておいてくださいよ?」

「う、うん……っ、ヴィーナちゃんは? ヴィーナちゃんもつまみ食い?」

「…………違います。ユノさんを探してるんです!」


 美味しそうに食べているのは見ているだけで楽しいし、見ているとお腹が減ってくる。

 でもここで同意したら、まるで私まで食いしん坊と思われてしまう。それはちょっと嫌だ……。


「ユノちゃんかー。探しても見つかるかなー? あむ」

「ハムまるかじりしながら言わないでください」


 とにかく厨房にはいないみたいだ。他を探そう。

 食べ続けるリースさんを見て、止めたほうがいいのかもしれないと思ったけれど。

 美味しそうに食べる彼女を止めるなんて、私には出来なかった。


「ユノさーん!」


 家の中をうろつきながら声を上げる。

 たぶん近くにはいるはず……たぶん。


「なになに……うるさいなぁ……ふああぁ」


 ガチャリとドアが開き、姿を見せたのはライラさん。

 眠っていたんだろう、大きなあくびをしながら顔を覗かせる。

 ……いったい、一日どのくらい寝てるんだろう?


「ライラさん、ユノさん知りませんか?」

「ユノちゃん? 知らないなあ……アタシ今の今まで寝てたし」

「ですよね」

「それに、探して見つかる相手じゃないと思うんだけど。あの子とかくれんぼしたら次の日の朝までかかるね」

「流石にその前にやめませんか?」


 だけどライラさんが言うことにも一理ある。もちろんかくれんぼの話じゃない方だよ?

 私はユノさんの素性を詳しく知らない。知らないけど、あれだけの身の隠し方はただのかくれんぼの達人ってレベルじゃない。

 素人の私じゃあ、見つけることなんて出来ないかも。


「あの、ライラさんも手伝って――」

「パース、おやすみー」


 バタン、とドアが閉まった。

 ……ま、まあいいんだけど? 元々私だけで探すつもりだったんだから……。

 それに私が個人的にユノさんと仲良くなりたいだけ。だから、人に頼るのは間違ってる…………。

 …………んだけど、少しくらいは考えてほしかったな……。


「思うんだけど、ユノちゃんっていつもシルフィちゃんと一緒にいるじゃない? ここを探しても意味ないんじゃないかな」

「教えてくれるなら堂々と教えて下さいよ!」


 ドアから片目だけを覗かせて助言してくれた。嬉しいけど、嬉しいけど……っ!

 言い終わったと同時にドアも閉まっていった。

 でも、確かに。この前のデ……デートだって、呼んだらいきなり現れてたし。

 そりゃー見つからないはず。といっても、この家にいたとしても見つけられる気がしないけど。


 というわけで、やってきたのはカルディラ商会の屋敷。

 何度か足を運んだことがあるけれど……やっぱり、大きいなあ……。

 鉄の柵で囲われた大きな屋敷は、それだけの財力を持っているという誇りの証。


 門番の人に通され、屋敷の中に足を踏み入れる。

 メイドさんに先導してもらいながら、シルフィさんがいる部屋に案内される。


「ヴィーナ、どうしたの? 珍しいわねこっちに来るなんて」

「こんにちは、少し用がありまして……」

「なに?」


 持っていたペンをペン立てに突き刺して、机の上に肘を置いて聞く大勢に入ってくれる。

 ……普通に聞いてくれることが、こんなに感動するだなんて……。

 って、いけないいけない。シルフィさんは忙しいんだし、手短に済ませないと。


「ユノさんと会いたいんです」

「…………わざわざここまでやってきた理由は、ユノと話したいから?」

「え? ええ、そうですけど……?」


 何故か部屋の空気が冷えた気がした。

 でも多分気の所為、今日どっちかというと暑いし。


「……ふーん、まあいいけど。ユノ」

「なに?」


 何処となく不機嫌になった感じがしないでもないシルフィさんが呼んでくれた。

 呼ぶと同時にいきなりシルフィさんの隣に現れる。

 やっぱりここにいたんだ……。


「ヴィーナが話したいんだって」

「…………わたしは話したいこと、ない」

「そう言わない。あたしじゃなくてあんたを尋ねてきたんだから、話してきなさい」


 ……なんか、言葉にトゲがありませんか?


「……わかった」

「ん。じゃあ二人とも外で話して、あたし忙しいの」


 まるで追い出されるかのように部屋の退出を促された。

 長い廊下に、たった二人。

 ユノさんは隣に立ってはいるけれど、目を合わせようとしない。

 というか体全体を私から背けてる、といった感じだった。


「『あ』」

「え?」

「はい話した。帰る」

「え? ウソですよね、あのっ!?」


 そんな子どもみたいな終わらせかたある!?

 しかし目の前からユノさんが姿を消したのも事実であって。

 ようやく話が出来るようになったかと思ったら、一方的に打ち切られてしまった。


「………………帰ろう」


 ここにいても出来ることはない。

 帰り際に言われた、メイドさんの悪気のない『お早いお帰りですね』に心を打ちひしがれながら、私は家に帰るのだった。


 家に帰ってきて、浴場へ。

 なんか今日はいっぱい歩いて疲れたなぁ……。

 中にはまだ誰もいないみたい、早く汗を流してさっぱりしよう。


 湯気に包まれた浴場に足を踏み入れ、体を洗う。

 ……なんか、今日は無力を感じるしかない一日だったなぁ。

 ううん、ダメダメ。こんなネガティブな気持ちは、汚れと共に洗い流してしまおう。


「……よしっ」


 体は綺麗、心も綺麗……になった、たぶん。

 後はゆっくり浸かって、温まってリフレッシュしよう。

 ……と、その時だった。湯船に片足を差し入れた途端、背後に気配が。

 ライラさんかリースさんかな? と思ったその瞬間――私の後頭部が誰かの手によって掴まれた。


「っ!?」


 振り返る暇もなく、体を押し倒される。

 押し倒された先は……湯船の中。


「ごぼごぼごぼっ!?」

「…………っ」


 し、死ぬっ! 死んじゃうっ!!

 い……いったい誰が……っ!?


「……怒られた」

「ごぼごぼ!?」


 ユノさん!? という声は水の中で声にならなかった。


「ちゃんと話さなかったことを、怒られた……っ!」

「ぼぼぼっ!!」

「あ、ごめん」


 後頭部を押さえる手を何度か叩いてギブアップのサイン。

 ようやく水面に浮かぶことが出来た私は、全力で呼吸をする。


「けほっ……! すぅーはぁ……けほけほ……っ!!」

「ごめん、お風呂だってこと忘れてた」

「わ、忘れてた……?」


 ま……まあ、解放してくれたし……良いの、かな? たぶん……?

 ……にしても。


「……あの、もう少し前、隠したほうが……」


 いくら女同士とはいえ、もう少し恥じらいというものを、ですね……。

 だけどユノさんはきょとんとした顔で小首を傾げる。


「何故?」

「何故って……恥ずかしくないんですか?」

「別に。羞恥心は、邪魔になるだけだから」

「……邪魔? 邪魔って、いったい……」


 というか。

 というか、というかですよ?

 ユノさんの素顔をじっくり見たの、初めてかも……っ!?

 前に食べている姿を見たけれど、あの時はこんなにじっくり見れなかったし……!

 お湯を弾く柔肌、私を見る彼女の青い瞳は、いつものような敵対心剥き出しの視線じゃない。


「……なんでもない」

「そう、ですか」

「先に言っておくけど、わたしは貴女が嫌い」

「それはなんとなく気付いてましたけど……どうしてですか?」


 ユノさんは返事をすることなく、離れていく。

 ……やっぱり話は終わりなのかと思ったけれど、離れたのは体を洗うためだったみたいだ。

 素早く体を洗い終わり、湯船に浸かる私の隣に無言で腰を下ろした。


「わたしにとっての特別は、シルフィ。彼女がいるから今のわたしがある。でも……彼女の特別は、ヴィーナ。貴女」

「そう……ですか?」

「そう。わたしはずっとシルフィを見てきた。そのわたしが言うんだから間違いない」


 説得力があるんだか、ないんだか。

 どちらにしても、それは……。


「嫉妬……やきもちですか?」

「かも。だからわたしは貴女を好きになれない」

「でも、私は皆大切です。ライラさんもリースさんも、シルフィさんもユノさんも」

「何故? まともに話したこともないのに」

「何故って……仲間だから、じゃないですか?」

「……仲間」


 初めて聞いた単語のように、口の中で紐解くかのように呟いた。

 その言葉がユノさんの体の中に浸透してくれればいいんだけど……流石にそこまではわからない。


「とにかく、わたしはヴィーナが嫌い。協力はするし、助けもする。でも嫌い」

「助けてくれるのは、やっぱりシルフィさんの命令だからですか?」

「もちろん。それじゃ」


 ざばり、と湯船から上がって浴場から出て行った。

 ……一歩前進なのか、それとも進んですらいないのか。

 兎にも角にも、思うことは一つだけ。


「初めてこんなにいっぱい喋ったかも……」


 私もお風呂から上がろう。そろそろのぼせてきた。

 嫌われていてもいい。出来れば嫌われていないほうがいいけど。

 それでも、話すことが出来たのなら、それだけで……今は満足しておこう。

 脱衣所で体を拭こうとしていた、そんな時だった。


「ヴィーナ!!」

「し、シルフィさん!?」


 バターン、と勢いよくドアを開き、シルフィさんが脱衣所に入り込んできた。

 思わず自分の裸を手で覆い隠す。


「ユノと一緒にお風呂入ったんだって!?」

「え、あ、はい。ついさっき」

「ズルい!!!」


 ズルい?

 何がズルい? と考えている間に、ポイポイとシルフィさんは服を脱ぎ捨てる。


「あたしとも入りなさい!」

「え、あの、私出たばっかりなんですけど……」

「うるさい、いくわよ!!」

「あ、あの、あの、ああああぁぁぁ……!」


 またも浴場に引きずられていく。

 そんな私を、ユノさんは膨れながら物陰から見ていて……。


「…………やっぱりヴィーナ、嫌い」

三歩進んで二歩下がる。


読んでいただきありがとうございます。


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