十六、守り抜こうとした宝
「玲莉お嬢様?春静?」
王家の門番たちは玲莉たちが来ることを知らず、慌てて王浩に報告しに行った。
(皇太子殿下は陛下から許可をもらったと言っていたけど、まさか父上には知らせてなかったの?)
玲莉と春静はとりあえず王浩の部屋に向かってた。
王浩の部屋に向かう途中、従者が二人を追いかけてきた。
「玲莉お嬢様、旦那様と奥様は蘭玲お嬢様と話をしております。あとで旦那様と奥様が部屋に来るそうですのでお待ちください」
玲莉は従者の言葉に従い、一旦春静と共に自分の部屋に向かった。
(父上たちはどんな話をしているのだろう・・・もう姉上がこの家に戻って来ることはないのかな)
玲莉は感傷的になっていた。
「お嬢様、皇太子殿下はお嬢様に甘いのできっと後宮の中でもお会いすることができますよ。現にこうやってお嬢様は王家に戻っています。一生出られないと言われている後宮から」
たしかに玲莉は李義にお願いをすればなんでも叶えてくれそうだが、今回は部屋が使えない上に、玲莉の宮を整えいるため、王家に戻ってきただけだ。状況的に王家に戻ることができたが、これから先はきっと王家には戻ることはないだろう。
「戻らなければよかったな。もうこの家には帰って来られないと思うと、悲しいな」
玲莉は泣きそうな顔になりながら、部屋の戸を開け、寝台にそのまま寝転がった。
「父上!」
部屋の戸が開いたので、玲莉はてっきり王浩が来たと思って寝台から飛び起きたが、そこにいたのは劉翔宇だった。
「翔宇殿下?どうしてここにいるのですか?」
「玲莉が王家に帰っていると聞いてね。後宮ではなかなか会えないから、急いで会いに来たよ」
劉翔宇の後ろからは黄飛が顔をのぞかせ、玲莉に挨拶をしていた。
爽やかな笑顔で登場した劉翔宇だったが、玲莉の顔を見つめながら、急に真剣な表情になった。
「黄飛、春静は下がってくれ」
黄飛と春静は劉翔宇に言われた通りに部屋を出て行った。
王浩、思敏、蘭玲は重苦しい雰囲気だった。王浩は険しい表情をしていた。
蘭玲はいつも通り堂々としており、思敏も蘭玲にどう声をかければいいのかわからなかった。
「蘭玲、私のせいだ。私が、玲莉に会いに行くことを快く承諾したから・・・今は晨明も後宮にいるからもっと警戒すべきだった。本当に申し訳ない」
王浩の表情には後悔が滲み出ていた。
「父上、起きたことはどうしようもありません。私は後悔していません」
王浩と思敏は蘭玲の言葉に驚いていた。
「後悔してない・・・?どういうことだ」
「父上、母上、もう私はここには戻りません。王家の長女として家名を傷つけかねない行動としてしまい申し訳ありませんでした。私はあの夜、建明が玲莉を眠らせて、襲い、無理にでも婚姻しようとしていたことを知っていました」
「ははは、蘭玲、何を言っているんだ」
王浩は蘭玲が言っていることが受け入れられなかった。しかし、蘭玲の表情を見る限り嘘をついているようには見えなかった。
「蘭玲、どういうことか説明してくれる?」
思敏は冷静だった。
蘭玲はあの日の出来事について語りはじめた。
春静を下がらせ、厠に行った後、玲莉の部屋に戻った蘭玲は香の匂いに違和感を感じた。
(この香・・・催眠草が混ざっているわね・・・ということは誰かが玲莉を襲おうとしているということね・・・晨明殿下?いや、建明ね)
蘭玲はわかっていながらわざと香を焚き続け、深い眠りに落ちた。
蘭玲は一瞬だけ意識を取り戻したが、目は思うように開けることができず、体は動かなかった。
しかし、自分に何が起きているかだけは理解できた。
(やはり・・・建明だったのね・・・)
「玲莉、玲莉・・・」
目の前の建明は玲莉の名を呼び続けていた。
(玲莉が襲われなくてよかった。あの子はこの国の聖女で私の可愛い妹なのよ。この国の皇后になるべき子なのよ。玲莉の代わりに建明は私が支えるわ)
蘭玲は再び深い眠りについた。
「あの子はこの国の宝です。父上、母上、心配しないでください。私は建明と夫婦になっても良いと思っていたのです。それに、あの時、私があの部屋にいないと、また、玲莉の身に危険があるかもしれません。これで良いのです・・・ただ、父上、母上、兄上、逸翰・・・玲莉にもう会えないかと思うと・・・それだけが心残りです」
「お前というやつは・・・」
王浩は涙ながら蘭玲を抱きしめていた。思敏も蘭玲の頭を優しくなでながら、涙を流していた。




