十七、遅すぎたプロポーズ
玲莉は自分を見つめたまま固まっている劉翔宇に怪訝な顔をしていた。
「翔宇殿下、私の顔に何かついています?黄飛さんと春静を追い出しといて何も話さないなんて」
劉翔宇は玲莉の言葉に笑みをこぼした。
「すまない。つい見とれてしまって。後宮に戻るとまたしばらくの間、玲莉と会うのが難しくなるから。今のうちに目に焼き付けておこう思ってね」
玲莉は照れながら、劉翔宇から目を逸らし、もう見ないでくださいと言って手で顔を隠した。
「本題だが、玲莉、玲莉を楚に連れて行く準備が整いそうだ」
「えっ?」
玲莉は状況がつかめなかった。
(どういうこと?そもそも私は楚に行きたいたいだなんて一言も言ってないのだけれどな)
「翔宇殿下、私は楚には行きません。私は皇太子殿下のことが好きなのです。皇太子殿下とずっと一緒にいたいと思っています。だから・・・」
劉翔宇は何も言わずに玲莉を抱きしめた。
「ちょっと、翔宇殿下」
玲莉は劉翔宇の力に抵抗することができなかった。
(なぜ俺のことを思い出してくれないのだ。俺の秀英に対する気持ちは強くなっていくのに、秀英は俺から遠ざかっていく・・・)
劉翔宇は玲莉を解放し、玲莉の両手を握り、自分のことを思い出してほしい一心である言葉を告げた。
「・・・なぁ、秀英。結婚しないか」
「・・・えっ?」
玲莉はその言葉に聞き覚えがあった。
(何?前にもこんな場面があったような気がする。あぁ、あれはたしか翔宇が私にプロポーズしてきて・・・翔宇?なんで?)
玲莉の頭の中に前の世界での翔宇と過ごした記憶が走馬灯のように駆け巡っていた。
「秀英、愛してる」
そう言って、劉翔宇はゆっくりと秀英の唇に自分の唇を重ねた。
玲莉には唇を重ねている相手が誰なのか理解した。
(なぜ、私は翔宇のことを忘れていたのだろう)
玲莉は目を閉じて、涙を流していた。
劉翔宇は玲莉が記憶を取り戻したのではないかと思い、玲莉からそっと唇を離した。
「秀英・・・もしかして」
「・・・翔宇。今まであなたのことを忘れていてごめんね。やっと思い出した。あなたは私の幼馴染の高翔宇ね」
「秀英!」
劉翔宇はうれしさを爆発させ、玲莉を抱きしめた。
しかし、玲莉は複雑な表情をしていた。
(翔宇のことをやっと思い出せたけど、今の私の心の中にいるのは皇太子殿下だけ。皇太子殿下を裏切ることはできない)
玲莉は喜びながら自分を抱きしめている、劉翔宇を引き離した。
「秀英、どうした?」
「翔宇は私を追ってきたのよね?ということは・・・」
「そうだ。前の世界での高翔宇はすでに死んでいる」
「もしかして私のために?」
「当たり前だよ。秀英に会うためなら命なんて捨てるよ。だからこうして俺たちはまた会えたんだ」
それを聞いてうれしい玲莉だったが、やはり今の玲莉の心の中には李義しかいなかった。しかし、自分の命を犠牲にしてまでこの世界に来た翔宇に自分の想いをどう伝えるべきかわからなかった。
「翔宇・・・私・・・」
「秀英は心配しなくて大丈夫だから。俺がなんとかする。父上も秀英に会ったら喜ぶはずだ」
劉翔宇は玲莉が秀英としての記憶を取り戻し、自分が秀英の幼馴染の高翔宇であることを思い出してくれたことが何よりもうれしかった。そのためか、玲莉が複雑な表情をしていることに気づかなかった。
劉翔宇は記憶を取り戻した玲莉は楚についてきてくれる確信していた。しかし、玲莉の気持ちは違った。
劉翔宇は興奮している自分を落ち着かせるために、大きな深呼吸をした。
「秀英、近いうちに李誠明が後宮を攻めてくるだろう。それに乗じて私は魏の皇帝に秀英を楚へ連れて行くことを嘆願する。必ず承諾するだろう。そのまま秀英を楚に連れて行く。もうすぐ冬になる。雪の降る中、魏から楚の向かうのは厳しくなる。なるべく早く事が進むようには促してはいる」
(なぜ翔宇がそんな情報を知っているの?促しているってどういうこと?)
劉翔宇は玲莉の頬の触れ、髪を耳にかけながら、笑みをこぼしていた。
「よかった、秀英が俺を思い出してくれて。やっと想いが通じた。秀英、前の世界では夫婦になることが叶わなかった。でも、この世界で出会えて、夫婦になることができる。俺はこの瞬間を待っていたんだ」
玲莉はうれしそうに話す劉翔宇に自分の本当の気持ちを伝えることができなかった。
「その・・翔・・・」
玲莉が話そうとした唇を劉翔宇が塞いだ。
「いろいろ話したいことはあるけど、もうそろそろ王丞相がこの部屋に来る頃だろう。秀英は蘭玲が後宮入りするのと同じ日に戻るのだろう?明日、また来る」
そう言うと、うれしそうに微笑みながら部屋を出て行った。
「玲莉お嬢様、翔宇殿下と何かありましたか?」
春静はにやにやしながら玲莉に話しかけたが、玲莉の微妙に暗い表情に、劉翔宇との間に何かが起こったことを理解し、苦笑いしながら話題を変えていた。
「春静、私はどうしたらいいのかな・・・」
話しが見えない春静は困っていた。
「春静、父上たちが来たら起こして」
玲莉はそのまま寝台に寝ころんだ。




