二十二、孟子謙の死
孟子謙は無事嫌疑が晴れ、一刻も早く若㬢に会うため、馬を走らせていた。
孟子謙の後ろには王浩が送った王家の護衛の者たちもついてきていた。
陛下と謁見した際、ほどんど者が孟子謙を擁護していた。しかし、ある一部の高官たちは、直接は非難しないものの、遠回しの言い方で孟子謙をなんとか排除しようとしている魂胆が見え隠れしていた。
孟子謙はその者たちの顔ぶれを見て、誰がその者たちの背後にいるのか目星をつけていた。
(私を陥れようとしたのはあの方しかいない・・・しかし、私はあの方に目を付けられるようなことは何一つないはずだ・・・そこまで深い親交もない・・・となると・・・もしかして若㬢に・・・)
孟子謙は頭の中に悪い考えがよぎり、若㬢のことが心配でたまらなかった。
(大丈夫。私があの方を疑っていることは知られていないはずだ。まずは若㬢に会って安心させたい)
孟子謙がそんなことを考えながら、馬で駆けている時だった。
ある気配を察知し、孟子謙は身体を後ろに反らせた。目の前には矢が飛んできていた。
孟子謙は矢が飛んできた方向に顔を向けた。すると同時に三本の矢が飛んできていた。
(これは避けきれない!)
孟子謙は咄嗟に剣で矢を振り払った。王家の護衛の者たちも孟子謙の左右に立ち、警戒した。
(なぜ私を殺そうとする。目的は何なのだ?)
孟子謙はこのまま突っ切ろうと考え、手綱を引っ張った瞬間だった。矢が馬の脚を狙って飛んできた。
矢は馬の脚に刺さり、馬が大きく反り返った。その反動で、孟子謙は振り落とされそうになっていた。
王家の護衛は馬から降り、孟子謙を受け止められるよう、急いで着地地点に滑り込んでいた。
孟子謙が宙に浮いている時だった。一本の矢が孟子謙の腹部に飛んできた。
孟子謙はそのまま王家の護衛に受け止められながら、地面に落ちた。
「孟将軍!」
孟子謙は身体がしびれる感覚を感じた。
(これはまずいな・・・毒が塗ってあったか)
孟子謙は腹部に刺さっていた矢を力ずくで抜いた。
矢が抜けたと同時に口から血を吐いていた。
孟子謙は意識が朦朧としはじめていた。王家の護衛の腕をつかみ、最後の力を振り絞って、一言だけ告げた。
「どうか・・・若㬢を・・・・守ってくれ」
孟子謙はそのまま王家の護衛の腕の中で息絶えた。
「すぐに、旦那様に知らせてくれ!」
王家の護衛の者の一人が全速力で馬を走らせ、王浩のもとへと急いだ。
他の者は矢の飛んできた方向へ向かい、孟子謙を狙った者を捜索したが、見つけることができなかった。
「旦那様ー!」
王浩の目の前に息を切らしながら、護衛の一人がやってきた。
「旦那様!孟将軍が何者かによって暗殺されました!」
「何だと!どういうことだ!」
王浩は護衛の息を整わせ、孟子謙の身に何が起こったのか説明させた。
(なぜ子謙は殺されたのだ?子謙が死んで得する奴は誰もいないはずだ。なぜだ・・・)
王浩は突然の友の訃報の知らせに頭が混乱していた。ほんの一刻前まで朗報で喜んでいた若㬢にどう伝えればよいか悩んでいた。
(正直に全てを伝えるべきだろうか・・・)
王浩はまだ自分も動揺している中、全てを包み隠さず話そうと思い、若㬢のいる思敏の部屋に重たい足を運んでいった。
孟子謙が暗殺された事実を知った若㬢は、思いの外、冷静に話を聞いていた。しかし、だんだんと生気を失った顔になっていっていた。
(なぜ、あの人が殺されなきゃいけないの?あの人が何をしたの?もしかして私のせいなの?)
思敏は無言で涙を流す若㬢を抱きしめることしかできなかった。




