二十二、最後の別れ
王浩は孟子謙にある事実を伝えた。
「そんなはずはない。私が着いた時には何も起こっていなかった。南の軍部の者たちもいつも通り訓練をしていた。私は嫌な予感がしたんだ。若㬢の身に何か起こるのではないかと。それで、急いで孟家に向かったのだ」
「しかし現に、南の軍部の者は曽の軍と戦っている。子謙の配下の者たちはもう一度南へ向かってもらっている。幸い、魏が勝利をおさめ終結しそうだが、お前に対し非難の声が上がっている。曽の間者だとも言われはじめている。このままでは、お前と若㬢の身が危ない。子謙に限ってそんなことはないとは思っているが、何か恨まれるようなことしたのか?相手はお前を嵌めた上、孟家を全員殺したのだぞ」
孟子謙には思い当たることが何一つなかった。
ふとある疑問が頭をよぎった。
「そういえば浩、若㬢はなぜ無事だったのだ?なぜ王家にいるのだ?」
王浩も帰って来たばかりで、全ての事情を聞いたわけではない。
王浩は従者を呼び、思敏に客間へ来るよう伝えろと命じた。
「奥様、旦那様が客間へお呼びです」
若㬢は震える手で思敏の手を握り、あの事は二人には言わないで欲しいと懇願した。
思敏は温かく微笑みながら、頷いた。
「思敏、すまないが、若㬢が王家に来た経緯を話してくれないか?」
思敏は男から襲われた事実を除いて、全て若㬢に聞いた通りに話した。
「なるほど、危険を感じてあの隠し通路から逃げてきたのか。若㬢に教えていてよかった」
思敏の話を王浩も孟子謙も疑うことなく信じた。
「思敏、迷惑をかけたな。若㬢が頼れるのは思敏だけなのだ」
「孟将軍、若㬢は私にとって大切な友です。私も夫も力になります」
王浩も孟子謙を見て、深く頷いた。
「浩、思敏。本当に感謝する」
孟子謙は深々と頭を下げ、声を殺しながら、泣いていた。
孟子謙は何かを決意した面持ちで、王浩と思敏に向かってこう言った。
「今から陛下へ謁見する。このまま王家にいたところで、王家の皆にも迷惑をかけてしまう」
王浩は慌てて止めた。
「子謙、今陛下に謁見すれば、お前の不利になる。陛下は慎重で感情に支配されない方だから、すぐには罰したりはしないだろうが、誰がお前を苦しめようとしているのかわからない状態では危険だ。孟家を襲撃した者を特定してからでもいいのではないか?私たちは子謙と若㬢が落ち着くまでここにいても構わない」
王浩は思敏に同意を求め、思敏も歓迎していた。
「浩、思敏、ありがとう。しかし、お前は丞相という立場なんだぞ。私がここにいるとお前は立場を失うかもしれない。私は友をそんな目に合わせるつもりはない」
決意の揺るがない孟子謙に対し、王浩は静かに、わかったと一言だけ述べた。
「浩、思敏。迷惑をかけないと言いながら、こんな事をお願いするのは矛盾しているかもしれないが・・・若㬢の事だけは守ってほしい。私はもう若㬢に会えなくなるかもしれない。若㬢はもう楚に戻ることもできない。家族もいない。若㬢のことを頼めるのは二人だけだ。どうがお願いだ。若㬢のことを頼む」
孟子謙は椅子からおりて、跪き、床に頭をつけ、懇願した。
王浩と思敏は顔を見合わせながら、無言で頷いていた。
「わかった。約束しよう。若㬢のことは私たちが守る。最後に若㬢と二人だけで話してこい」
「ありがとう・・・」
孟子謙は立ち会がり、若㬢に心配かけないよう、心を落ち着かせてから、若㬢のいる部屋へ向かった。
「旦那様、無事孟将軍の嫌疑が晴れました!さすが陛下です。周りの話を鵜吞みにせずに、孟将軍が誰かによって惑わされていたと判断し、一刻も早く孟家を襲撃した下手人を捕らえ、処刑するよう命じました。孟家も陛下の計らいで、別の屋敷を用意してくださるそうです」
王浩は安心した様子で、思敏と若㬢にも伝えるように言った。
(よかった・・・。陛下は公明正大なお方だ。子謙の話も聞いてくれると信じていた)
紫睦からの報告を思敏と若㬢も聞き、二人は抱き合いながら喜びあっていた。
この喜びが一刻もせぬうちに、悲しみに変わるとは誰も思いも寄らなかった。




