六、新たな恋敵!?
冬陽は玲莉がさらわれた経緯と、集落にいる理由は玲莉の追跡がここまでしかできなかったことであることを伝えた。
見るかぎり農業を中心とした集落に見える。手分けして捜せばそれほど時間もかからずに玲莉が見つかりそうだった。しかし、このような集落はよそ者を警戒するため、皇太子殿下がいても、必ずしも協力的だとは限らない。
「一軒一軒訪ねていくしかないようだな。玲莉が変な男に連れて行かれてないといいが。もしも玲莉に何かあったら・・・」
王浩は玲莉のことが心配で、居ても立っても居られず、今にも捜しに行きそうだった。
「旦那様、お嬢様が心配なのはわかりますが、夜も更けてます。明日、朝まで休みましょう。旦那様、きっと大丈夫ですよ。自らの力で敵から逃げるような強いお嬢様です。自分の身を守る術は身につけているはずですよ」
王浩の心配はぬぐい切れていないが、玲莉が自分の力で敵から逃げたことを聞いて、玲莉の力を信じることにした。
劉翔宇と李義は王浩に向かって、頭を下げ謝っていた。
「私がついていながら、玲莉が簡単にさらわれてしまいました。私が勝手に玲莉をそばに置いたばっかりに・・・。王丞相、必ず玲莉を捜し出します。玲莉が見つからなければ、その時はこの命をもって償います」
王浩は劉翔宇に対し、怒り覚えていたが、劉翔宇の拳は自分への怒りで震えていた。
それを見た王浩は怒りの気持ちがおさまっていた。
「王丞相、私も同罪です。玲莉を妻にすると言いながら、守り切ることができませんでした。玲莉を失うくらいなら皇太子殿下の地位などいりません」
王浩は二人に対し、
「殿下たち、落ち着いてください。お二人のせいだけではありません。玲莉もお二人と過ごすことを嫌がっていたわけではありません。正直に申しますと、お二人を許せない気持ちを抱いていましたが、同時に玲莉のことを本当に愛してくれているのが伝わりました。玲莉が見つかった後、どうするかは玲莉の判断に任せます。王家に帰りたいと言えば、王家へ戻りますし、殿下たちと一緒にいたいというのであるならば、玲莉のことは殿下たちにお任せします」
王浩は劉翔宇と李義の肩を少し強めに叩き立ち上がり、王浩についてきた者たちが用意した仮小屋に移動した。
冬陽と寒松がぐっすり寝ている中、劉翔宇と李義は玲莉のことをずっと考えており、一睡もできなかった。
建明と黒風はある屋敷の前にいた。
「殿下、家に戻られてどうしたのですか?」
建明が向かった先は自分の家でもある北誠王府だった。
建明は黒風の問いかけに答えず、無表情で屋敷の中へ入っていった。
建明は一直線に父李誠明の部屋の前に来ていた。
建明は大きく深呼吸をして、声をかけた。
「父上、私です。お話したいことがあります」
部屋の中からは上機嫌な声で入れと言う父親の声が聞こえた。
建明は意を決して部屋の中に入った。
玲莉は眩しい日の光を感じ、目が覚めた。
右を向くと知らない二十ぐらいの男が横になって寝ていた。
(誰?どういう状況?私何もされてないよね?)
玲莉は起き上がって自分の体を確認したが、特に何かされた様子はなかった。
(傷が消えてる・・・もしかして無意識のうちに・・・ということはこの男の人にも見られたの?)
玲莉は深くため息をつきながら、隣で寝ている男をじっくり見ていた。
(それにしてもアメフトかラグビーしているのかっていうぐらいにいい体つきだな。体つきは暑苦しいのに顔は爽やかイケメンだ。それにしても、私はなぜここにいるんだ?)
部屋の奥から四十は超えていそうな女の人が現れた。
「景天、いい加減に起きなさい。あら、あなたは・・・」
「うるさいな。おっ、目が覚めたか?」
景天という男は目をこすりながら、玲莉の顔をじっと見ていた。
玲莉は警戒しながら、はいと答えた。
「景天、隠さなくていいのよ。まさか、こんなに綺麗な子がいたなんて。それにしても綺麗な瞳ね。珍しいわ。赤い瞳なんて。それに・・・」
玲莉は思わず目を隠した。
(忘れてた。私の瞳は見られてはいけないのだった。どうしよう・・・)
「母さん違うよ。薬草を取りに行っていたら、倒れていたんだ。息はあったけど意識がなかったから、家に連れて帰って来たんだよ」
玲莉は景天の話を聞きながら、さらわれて逃げていたことを思い出した。
玲莉は目を隠していた両手をつかまれ、顔を上げると目の前に景天の顔があった。
「なぜ隠す?綺麗な瞳じゃないか」
赤い瞳を見ても驚かない親子に玲莉の方が驚いていた。
「怖くないのですか?それに、この髪・・・ここだけ白髪なのも気にならないのですか?」
「別に怖くはないさ。その髪も似合っていると思うが」
景天は母親に同意を求め、景天の母親も綺麗だよと言った。
玲莉は景天親子の言葉に心が軽くなったのを感じた。




