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第12話「変革期から安定期へ」



 サクラスターの初ライブが終わって数ヶ月が経過し落ち着いた時期。ちょうど1期生が加入して一年が経過した時のこと。


 YOURSTUBEにあるフルライブ運営の公式チャンネルにて一つの動画が投稿された。定期的に投稿されるフルライブ運営が作った番組動画である。


 この番組動画では3Dアバターで撮影されている。表情はもちろん体の動きまでトレースされるのが基本だ。


 今回投稿された番組動画タイトルは『これぞフルライブ!~改めてメンバー紹介にて候~』というものである。


 オープニング映像が流れた後、司会のテーブルが映される。番組の司会を務めるのは青空みちる(演者:時野梓紗)と魔女屋オルエン(演者:橋渡凛)だ。


「――はい、始まりました! 皆さん、こんばんはー! 本日の司会を務めるフルライブ0期生、青空みちるです!」

「えー同じく、0期生の魔女屋オルエンです。本日は青空みちるのサポートという形で進行のお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします」

「よろしくお願いしまーす!」


 拍手が湧き起こる。カメラの視点が切り替わると、ひな壇の場所に用意されたそれぞれの豪華なソファーに0期生、1期生が座っていた。


「いやあ、こうして見ると事務所も大きくなったなあって感動するよね」

「そうだな。しかも今は社長が海外で活躍するフルライバーを選考中だし、こっちでも2期生の計画が順調に進んでるからね、これからもっと大きくなるさ。スタッフはもちろん、メンバーの把握も難しくなるかもしれないな」


 現在、フルライブ・プロダクションはフルライバーが増えたことで事業利益が拡大している。それにつれてスタッフも増員され、スタジオや事務所の規模を拡大する話まで出ている状況である。理想的な経営を行なわれていると言ってよい。


「ホントだよねえ……ああいや、感動してる場合じゃないわ。

 ゴホン! ええとですね、本日の企画を説明します! 内容はですね、今カメラの前でフルライバーが全員映っていますが、彼女たちにですね、改めて自己紹介と自己アピールをしてもらおう! というのが本日の企画内容になりますっ! イエー!!」

「「「イエーイッ!!」」」


 みちるの声掛けにフルライバー達が全力で答える。


「元気があってよろしい! さて単に自己紹介する、というだけでは面白さが少しばかり足りません。

 そこで! こちらが自己紹介をするライバーを指定すると同時にもう一人のツッコミ役となるライバーも指定します。また、ライバーが自己紹介時には一般に広まっている自分のあだ名、ニックネームを口にしつつ自己アピールを行なってください! そしてツッコミ役は各自の適切なタイミングで最適な質問を行ないましょう! 以上! がんばれッ!!」

「「「はーいっ!!」」」


 皆の元気のよい返事を聞いて、オルエンが前に進みスタジオの中央に出た。


「さあ、みちる。まずはお手本ということでやってみよう」

「……え?」

「清楚クイーンとか原点にして頂点とかの言葉をぜひ使ってほしい」


 オルエンの手招きに戸惑いつつ、みちるは周りを見渡した。ひな壇側にいる皆が期待の目をしている。

 みちるはコメカミをさえながらオルエンがいる中央に進み出た。


「オルさんって私を雑にかまうのが好きだねえ……」

「そりゃだって、クイーンだからさ」

「クイーンなら敬うもんじゃろがーいっ」


 みちるが肘でチョンチョンとオルエンをつつく。それを見てフルライバーもてえてえやかわいいやらと言いながらほっこりしていた。

 オルエンは笑いながら。


「ちゃんと敬ってるさ。やりかたが独特なだけで」

「もう……ちょっと待ってね、考えるから」


 困り顔になったみちるを見てオルエンが頷く。


「ちなみにこの番組を見ているだろう未来の2期生諸君。面接試験では似たようなことを要求すると思うから存分に参考にしてくれ。応募に迷っている場合、ぜひこの番組を見てこの人と一緒に仕事をしたいと思ってくれると嬉しいな。みんなを頑張らせるからさ」

「「「頑張らせるんかいっ!」」」

「ハッハッハ!」


 フルライバーの何人かがつい反応して笑ってしまうオルエン。そうこうしているとみちるがよし、と気合を入れていた。それを見てオルエンは画面の中央になるようにみちると自分の位置を微調整する。


「では、よろしくお願いします!」


 オルエンの合図からみちるが自己紹介を始める。


「こんそらー! フルライブ所属の0期生、原点にして頂点とも言われてる青空みちるです! よろしくお願いしまーす! えーと基本的なあだ名はクイーンです! 他にも清楚クイーンとか腹ペコクイーンとかテヘペロ☆クイーンとか、とにかくクイーンと言われることに慣れてきましたー。

 だから最近、個性なんてどっからでも生えてくるんだなーって実感が凄いです。昔、個性が足りないとか抜かしていた私はなんだったんでしょうね……」


 元気な様子から急に悟りを開いたように腕を組んでぼやく彼女に『みちるちゃんはとても個性的だよ』『完璧なアイドルだよ』の声が外野から溢れた。ツッコミ役のオルエンはうんうんと頷いている。


 ちなみにみちるの内心は『個性がないとかちっさいことで悩んでたのが懐かしいなー。個性が出たら出たで大変だよ、ホント』というものである。そして自分に敬意を払ってくれる同僚のフルライバーには同じように敬意を払っていた。


「えーと……得意なことはですね、歌です。オペラをやっていたのでそっち方面の歌い方は特に自信があります。ちょっとやってみますね」


 ラーラーラー、と高音ながら太い感じの声が発声される。まさにオペラ歌手とも言うべき声であった。その歌い方で軽くアカペラを披露していった。


「というわけで、アピールは以上になります! では――」

「はい待った! みちる、最後に定番の女王様ロールプレイでアピールしてみよう。スタッフー!」

「あ、強制なんですね、そうですか……」


 すると映像に歌舞伎の黒子(くろこ)のような覆面キャラクターが映し出された。これはスタッフが画面に映ったほうが良いと判断された場合に登場する、スタッフ用の3Dアバターである。あえて声を出さないことが持ち味になっている。今回は男性スタッフが担当だ。


 そのスタッフがスイッチのついた棒状の道具を持っていき、片膝をついて献上するようにみちるへ捧げると、彼女は何か言いたげにしながらそれを優雅に受け取る。そして画面を確認しつつ、棒に備えられたスイッチを押すと鞭を振る音が鳴った。


「ええ……? あ、振ったらちゃんと画面で反応するんだ……技術すごーい!」


 みちるが確認のために棒を振るうとその動きに対応して映像の鞭が反映される。すると動画の画面には違和感なく綺麗に鞭を振るう青空みちるが映し出されていた。彼女はそれに自然と満面の笑み浮かべた。しかしふと興奮が冷めて真顔になる。


「てかなんでこれが……? 私、スタッフに訊かれたときに特にいらないって言ったはずなんだけどなー?」

「そりゃあ私が用意しといてって言ったのさ。さすがフルライブの精鋭、私の期待以上のものを仕上げてくれて誇らしいよ」

「ねえオルさん? そろそろキングメーカーとかクイーンメーカーって名乗ったりしたほうが良くない?」

「じゃあよろしくお願いしまーす」

「スルーされるの!? もうもうもう……っ」


 みちるがわざとらしくプリプリしながら準備をしていく。オルエンはニヤニヤしながらちょっと画面の隅に移動する。みちるに中央でしっかり演技してほしいからだ。


 みちるの集中が終わると、演技が始まる合図として大きく鞭を鳴らした。


「――傾聴せよ! 我が愛する下僕達よ!」


 みちるが表情を嗜虐心が含まれた尊大な色に変化させる。さらに立ち姿も背筋を伸ばして見下ろすような雰囲気を作っていく。


「我こそはフルライブが誇る頂点にして女王:青空みちるである!

 我が声に魅了されし者は膝を折れ! 我が愛を下賜され耳を震わせよ! 

 今日の声が届いたものは幸福者である! しかと耳に刻み込め!」


 さらに大きく鞭を鳴らして息を吸うと、尊大さを一転させて笑顔を作る。


「うむ、良きかな良きかな! アーハッハッハッハッハッハ!」


 みちるが豪快な笑い声を上げ、しばらくしてタイミングよく切り上げた。

 沈黙が流れてひと時を置いて、ひな壇にいるフルライバー達から「うおー!」という称賛の声がスタジオの中に鳴り響く。


 その瞬間、みちるは鞭を投げ捨てて顔を赤くして両手で顔を覆った。落ちた道具はスタッフが回収し、オルエンはとても満足げな顔で胸を張っている。


「いやー堂々としたとてもよいロールプレイでしたね。さすが声優の訓練していただけあって凄い。ありがとうございました。じゃあ――」

「待ていっ! オルさんもやるんだよ逃げるな!」

「しょうがないなー」

「ってやる気満々かいっ」


 赤面したままのみちるが中央から少しずれ、代わるようにオルエンが真ん中へ。オルエンが軽く咳払いをすると、軽く腰に右手を置きながら挨拶を始めた。


「皆さん、こんばんは。はじめましての方ははじめまして。フルライブ0期生の魔女屋オルエンです。よろしくお願いします。

 えー世間ではですね、まこと不思議なことに哲学の魔女と呼ばれることが多いです。過分な評価、ありがとうございます。私としては別のあだ名である凡人の魔女ですとか、適当系魔女ですとか、そういったあだ名が一番に出てきてほしいところ――」

「はいはいはい! ツッコミますツッコミます!」

「みちるはしょうがないなぁ~、どうぞ?」


 オルエンがわざとらしくぶーと不満げにしている。赤面から落ち着いたみちるはやや険しい顔になっている。


「いや不思議そうにしないで? あのね、凡人とか適当とか捏造してはいけませんっ。そういうこと言われてないでしょあなた……って“そんなバカな!?”と言いそうな顔でカメラ目線になるんじゃないのっ。むしろ“お茶目な賢人”とか“フルライブの相談役”とか参謀役とかそっちのあだ名の方が――」

「やだいやだい! 魔女屋オルエンは時代の流れに乗っただけの普通の女なんだい!」

「えーい! 駄々をこねるなこの賢い魔女さんがっ!」

「ぐぁあああ!?」


 ツッコミするようにみちるが軽くプッシュをすると、オルエンわざとらしく吹っ飛ばされるような立ち振る舞いをする。それを見たフルライバーは笑っている。けっこう頻繁にみられる二人のじゃれあいだからだ。


 しばらくそうこうしてからオルエンが咳払いの所作をして中央に戻り、一礼する。


「えー、お見苦しいものを失礼しました。納得はいきませんが、そういうものだと受け流そうと思います。こういう時こそ大人の特権を使うのが賢さというものです。

 それから……得意なことでも言いましょうか。趣味のこととも言いますね。私はですね、趣味でジークンドーを嗜んでいます。やりこんでいるのとは違いますが、それを少しお見せしようと思います。じゃあスタッフー?」


 彼女の声に黒子アバターで画面に映っているスタッフを中心に用意が始まった。

 間を縫ってみちるが疑問の声をかける。


「じーくんどー? って何?」

「……武術のジークンドーだけど、知らないのかい?」

「ぶ、ぶじゅつ??? 全然わからなーい」

「……そうか、もう何十年も前の映画だからな、私くらいの年代から本当に知らない人も増えるのは仕方ないのか……そう考えるとたまたま知った私は幸運――あ、ありがとう。じゃあみちる、この板を両手で持ってこう構えてくれ――ってこれ建築資材の板じゃあ……まあいいか、このくらいなら大丈夫だな」

「……? 映画? な、なんだ? なにをするんですかこれ???」


 スタッフが持ってきたものは厚さ三十ミリの建築資材の板だ。板の端部分にはセンサーがついており、配信画面に映るようになっている。3D映像の方も建築資材の板そのものだ。


 オルエンに促されるまま、みちるが板を持って構えを取っていく。最終的に両手に持った板を付きだすような形だ。ここまでやっているが、みちるはまだ何をするかピンと来ていない。

 

「ちなみにジークンドーってどんな感じだと思ってる?」

「言葉だけだと特殊なダンスだと思ってますっ。映画で有名になった特殊なダンス的なやつかなって」

「ダ、ダンス?」

「ぶじゅつって舞うと技術の術って漢字で書きそうじゃない?」

「……ハッハッハ!」


 オルエンに大きく笑われたみちるは困惑する。そしてオルエンはちょっとはたくような感じで拳を鳴らした。


「よし、じゃああえてステップを組み合わせてやるか。さ、力を入れて構えて」

「う、うん――」

「そうそう、それで大丈夫だ」


 オルエンがジークンドーのステップを踏み始める。本来ならここまで派手なステップは踏む必要はないが、演武なので視聴者にわかりやすく表現しているのだ。


 そこに至ってようやくひな壇のフルライバーとスタジオ内のスタッフが『ヤバくねこれ?』と思った。その緊張が張り詰めた瞬間である。


「ストップストップストーーーーープぅうううう!?」


 やっぱあかん、と思った社守さくらがひな壇から高速で駆けよっていき、オルエンとみちるの間に割り込んだ。そしてそのままみちるを守るように仁王立ちになる。オルエンは驚き、みちるは困惑を深めた。


「オルちゃん! それはあかん!! やっちゃダメなやつ!!」

「え~あ~……いや怪我はしないからさ?」

「いやいやいや!? 男の先生の動画で見たけどストレートリーダーをやるつもりでしょ!? あれはちゃんと準備しないと駄目ですっ! 何もわかってない女の子には危険すぎる!」

「おおー正解。なお、正しくはストレートリードだ。えーでもなあ……みちるの驚く顔が見たいしちゃんと凄いものだって知ってほしいからさ? だから――」


 辞める気がないオルエンを察して、さくらがみちるからサクッと建築資材の板を奪った。


「さくらがやります! めっちゃ怖いけど!!」


 そしてみちるがやっていたように板を前に出して構えた。そして何が行なわれるかを知っている彼女はへっぴり腰でビクビクしている。画面には映っていないが滝汗も浮かんでいた。


 そこでオルエンはさすがに苦笑いになった。浅慮だったと思い直したのだ。


「ごめんなさい。少し配慮が足りなかったみたいだ。技のやりたがりは武術家の悪い癖だな。なら男性スタッフにやってもらう……男性ならもう少し派手でもいけるか。スタッフー? 板の持ち手になってくれー」

「え?」


 さくらが驚いた顔になる。みちるはあまりわかっていない、というか困惑中だ。オルエンはさくらにウインクした。


 周囲の皆はさらに『これほんとにやばいんちゃうか?』と言わんばかりに見守っている。


 黒子(くろこ)キャラで配信画面に映っているスタッフが来るとオルエンが構え方を指示する。先ほど違い正面ではなく板を斜めにする。わかりやすく言うなら下から突き上げる軌道で板に丸い物体が当たるように調整し直したのだ。


 男性ならもう少し派手な技でいいだろう、というオルエンの判断だ。


「じゃあいくぞー」


 準備が整って声をかけると、オルエンが呼吸を整えて派手なステップを踏んでいく。そしてしっかりと勢いを作ったところで――


「っシャオラァッ!!」


 掛け声と共に放たれた技はステップで勢いをつけた右のショベルフックである。ボクシング風に言うなら踏み込んでからのボディを狙う右アッパーのような技だ。


 拳が板にあたると、柔らかい物のように堅い建築資材が真っ二つになった。パカーンという木材の炸裂した音だけが鳴り響くと、そこから静寂が作られる。


 一呼吸を置いて、オルエンが満足げに笑みを浮かべる。


「よしよし、なかなかきれいに割れたな。あ、ひょっとしてこれにサインとか書いたらサービスになるかな?」


 黒子さんは固まっている。視線だけが何度もオルエンと割れちゃった板を見ている。みちるは目ん玉ガン開きで硬直している。なお、社守さくらは『当然だよね』と呆れるような顔を作っていた。

 

「「「「「板が割れたぁあああああああ!? 嘘ぉおおおおおお!?」」」」


 そしてひな壇からはきれいに大合唱が起きた。


 するとみちると黒子さんは放心してその場でへたり込んだ。二人は緊張が途切れたのと技のやばさがより体感できたのかもしれない。ひな壇にいたフルライバーと画面に映らない何人かのスタッフは割れた板を見るために駆け寄っていく。スタッフの一部は実写で映すために別カメラを持ち込む始末だった。


 ガヤガヤと板のところで騒いでいる場を抜け出し、カメラに映らないところで社守さくらが魔女屋オルエンを軽く叱っている。


「見なさい、みちるちゃんの反応を。あれが一般人なのっ」

「いやあ、持つくらいなら簡単だと思ったんだけどなあ……」

「前もって言ってないと危ないです。反省しなさい」

「はい、反省します。それと、うっかりをカバーしてくれてありがとう」

「えっへん。どういたしまして」


 お互いに笑う。さくらのほうは追加でドヤ顔のウインクである。そんな二人がみちるの目に入って『隠れてるけどやっぱり地味に仲がいいよねえ』と思いつつ、彼女はよろよろとした足取りで立ち上がり皆に呼びかけた。


「み、みなさーん。申し訳ないですけど、指定のお席についてくださーい……。収録が終わったらたっぷり、見ましょう、ねー」

「「「「あ、すいませーん」」」」


 みちるの号令に皆が素直に従って戻っていく。みちるは上がり切った心拍数を落ち着かせようと深呼吸をする。割れた板はスタッフが回収していった。


 そうしてオルエンが中央に戻る。


「はい、以上が魔女屋オルエンの自己アピールです。

 先ほどお見せしたジークンドーは研鑽もまだまだだし、初歩の初歩ともいえる練度です。ですが少しでも心に残り、ジークンドーはもちろん武術全般に興味を持ってくれたら幸いです。

 そしてフルライブの2期生になるだろう皆さんへ。私はですね、この3Ⅾライブの技術を使ってここでしかできない表現の演武ができないかなーと思っています。配信者として活躍したい人はもちろん、武道や武術の嗜む方が来ないかなーと楽しみにしております。過ぎた理想かもしれませんが、例えるなら3D格闘ゲームのアイアンナックルやあるいは路上拳闘のような2D格闘ゲームのような、演武の表現です。やってみたいと思った方はぜひ、第2期生のオーディションにご参加下さい。

 以上となります。ありがとうございました」


 オルエンがお辞儀したところでひな壇から拍手が起きた。

 ようやく再起動したらしく、みちるが話しかける。


「――はい。お疲れ様でした……じゃなくて、なんちゅードッキリさせるんだいっ」

「ああん、怒らないでくれよみちる陛下」

「映像だけで伝えきれないだろうけど、編集で割れた実物をしっかり映してくれるようにお願いします……ええと、ちょっと広告を挟んでから他のメンバーの自己アピールを始めさせていただきますね? みんな板に興味津々なのよ、そりゃマジかと疑うわい」

「ハッハッハ」


 オルエンは楽しそうな様子で、みちるは疲労が滲み出ている感じだ。


「というか武術って格闘技のことだったの? 言われればそういう言い方もあるなあと思い出しはしたけどさー」

「格闘技とはちょっと違うな。あっちはスポーツ性、競技性を優先したものだから、興行的なものも関係するし、命のやり取りまでは想定しないから」

「じゃあ武術は?」

「そりゃあ命のやり取りを想定するよ?」

「さあ、ここでインパクトのある言葉で言い換えてみよう!」

「そうだな――“基本はパンチや蹴りで金玉や両目を破壊して相手の戦闘能力を奪う! それが出来ないならパンチで肋骨を叩き折る! 崩れたところにトドメの一撃! これぞ武術の神髄なり!”――みたいな感じでどうかな?」

「そんな危険なものをドッキリ風にやらせるなー!」

「ああん! 折檻はなりませんよみちる様―!」


 みちるがわざとらしく怒ってオルエンを画面外へ押し、オルエン面白がって吹き飛ばされるような振る舞いをする。さらにみちるが小道具の鞭を振り回してオルエンを叩く仕草をすると、彼女は気持ちよさそうにそれを受けるというじゃれあいが発生していた。


 そこでスタッフからカットの声がかる。これをAパートということで収録をいったん終了し、休憩を挟んでBパートを収録ということになった。


 なお休憩中にオルエンは改めて謝っていた。みちるは『しかたないなー』と呆れるよな感じで許していた。




   ■   ■




 休憩後、落ち着いたので収録再開である。映像的にはフルライブ運営からの短い広告が挟まってからのスタートである。


 司会は変わらず青空みちると魔女屋オルエンだ。


「はい! Bパートでーす! こんな切り方想定していなかったんですが、気を取り直してね、フルライバーの自己アピールとツッコミを見ていきたいと思いまーす!」

「思いまーす。では先鋒は誰になりますか?」

「そうですねー。ここは王道ということでサクラスターのお二人から参りましょう!」

「ではお二方! お願いしまーす」


 オルエンのダウナーな言い方で呼ばれ、社守さくら(演者:雪藤美子)と彗星ルカ(演者:黒染千鶴)がひな壇から中央へと移動していく。途中、二人は内緒話をするようにやり方を相談しながらだ。


 二人の挨拶が始まる。


「じゃあ私からですね。どうもこんさくー! フルライブ0期生、アイドルVチューバーの社守さくらでーす! 隣の彼女とはユニット:サクラスターを組ませてもらって案件や他の会社へ出張させてもらっています。よろしくお願いしまーす!」


 さくらがカメラに向かって笑顔とウインクを作りながら両手を振る。


「ええとですね、さくらの愛称はですね、アイドル巫女さんとか、かわいいの王道ですとか、頑張り巫女娘さんとか、そういったことが多い感じですね。特に特徴的なあだ名はありませんのでこれからも頑張って素晴らしい愛称で呼ばれることを――」

「はいはいはーいっ」

「……ええ、呼ばれるこ――「へいへいへーいっ」って、な、なんですかルカさん……?」


 さくらが怪訝な表情でルカを見ると、彼女は腕を組んでニヤニヤとからかうような笑顔を見せつけている。思わずさくらはちょっと睨んだが、すぐにそれは気まずそうな表情へと切り変わった。


「社守さくらさん、あなたはなぜ隠すのです?」

「か、隠してなどおりませんっ」

「いいえ。あなたには立派な二つ名があるではないですか。そう……寝取られ大好き女という――」

「てめえっ! そこはエロゲーマスターにしとけよ! なんでひどいほうを紹介するんだよぉおお!?」

「インパクトは大事っ。これ、フルライブの方針だからね」

「くぅうううううう……っ!?」


 さくらが頭を抱えて思わず座り込んでしまった。勢いのまま性癖を語り散らしたあの黒歴史配信が頭の中で蘇ったからである。


 なんとか恥を頭から追い払い、さくらはキリっと力強く立ち上がる。それを見てルカはついニヤニヤしてしまう。


「さ、得意なことや好きなことを話しなよ?」

「……えーとですねー、得意なことは……配信としか言いようがないですね。色々なゲームをプレイしたり、リスナーの皆さんと一緒にプレイすることが好きですねー。これからもそういう企画を出し続けることが出来ればなあと思っています」

「はい。正統派アイドルの回答、ありがとうございまーす」


 ルカの適当な拍手にさくらが不審な顔を作る。


「ルーちゃんなんか、不満そうな顔をしてるね?」

「そりゃあ社守さくらと言えば“寝鳥竿”の大演説だろ? そういう熱意のある物に対する説明が得意です、というアピールが足りないなあと思ってね? さくらはそう思わないのかなーって?」

「エロゲーを引っ張るなあ……」

「だってあの演説すごい好きだもん私。好きを好きと言い切るあの演説はね、もう心に響いてしょうがないんだよ? もっと堂々としなさいな」

「……あ、ありがとう」

「それはそれとして性癖の解放はほどほどにしなよ? YOURSTUBEさんからアカウントが爆破されちゃうよー?」

「あれは事故なんだよ! 解放なんかしてねえよ! YOURSTUBEさん! 本当に見逃してください! あれは必要不可欠なお祈り……いえ! 道徳! そう大切な道徳の時間だったんですぅ! 信じてくださぁいアイアムアぁトラストォっ!!」

「アッハッハッハ! かわいいなーもう!」


 怒った顔から困った顔になり最後は自信を持ちすぎている胡散臭い宗教の教祖のようなキマり顔に変貌して、社守さくらは堂々と宣言を行なった。なお、最後の英語は感性に任せた適当すぎるもので正しいかはわからない。


 百面相に変化していくさくらを見てルカは思わず大笑いである。そうしてひとしきり笑ったところで役割を交代した。


「じゃあルーちゃんもやりますかね――みなさんどうも! フルライブ0期生のアイドルVチューバー、彗星ルカです! ルーちゃんは~?」

「今日もかっこいい~!!」

「ありがとうございます! さて、そんなルーちゃんですが、愛称やらあだ名のほうもですねー、なかなかかっこいいと言いますか、切れ味のいいものが揃っています。お気に入りとしてはクレイジー歌姫、極道シンガー、熊狩りVチューバーですね。リスナーのみんなのセンスにはとっても感謝してまーす! いつもありがとー!」

「待って待って待って?」

「どうしましたか、さくらさん?」


 キョトンとするルカ。さくらはちょっと頭痛がしているような感じだ。


「クレイジーわかる、極道わかる……でもね、熊狩りってなんぞ??? 私も初めて聞きましたよそれ?」

「あー私ってさ、ニート時代があったって言ったじゃない?」

「うんうん。Vチューバーになる前でしょ?」

「そう。その時にねえ、おじいちゃんの狩りについていったり仕事の見学をさせてもらったりしてたんだよね。それで熊の駆除現場や処理……熊の解体って言ったほうがいいか。それによく参加してたからその話をリスナーにしたことあるのよ、それが原因でしょ」

「待って? まさか熊を狩ったの?」

「罠のお手伝いはしたー。熊の処理と解体も参加した―。お肉は思ったよりおいしかったー。銃は持たせてもらった―。ライフル撃つのはさすがに駄目だったー。ほんっとーに……残念だった……」

「最後の口惜しさが本気だこの人……」

「テヘペロっ☆」


 かわいらしい感じで舌を出してウインクをするルカ。さくらはそれを見ながら内心、いつか熊を狩るだろうなと確信していた。

 ルカが表情を戻して言葉を続ける。


「というわけでルーちゃんはですね。こういう3Dライブの映像表現ではですね、ガンアクションっぽいものをなにかしら表現するのも面白そうって思ってまーす。こういう私達と一緒にお仕事するのは魅力的だという方は、ぜひ2期生のオーディションに参加してくださいねー」

「よろしくお願いしまーす」

「よーし。じゃあ最後にちょっとアカペラで歌っておくか。さくらもやるぞ」

「はぁい。了解しましたぁ。クイーン・リスペクトならやらざるを得ない」

「そういうこと。アーアーアー――♪」


 声の調子を合わせながら相談して披露する曲を選ぶと、二人は息の合ったアカペラを披露し、スタジオ内で拍手が沸き起こり終了した。


 さくらとルカの挨拶が終わると、次は期生の綿雨ハクイと青風亭カレンの二人の組み合わせで挨拶があった。二人も『恋愛諦め系配信モンスター』と『清楚のフリもできないお笑い芸人』などと呼ばれる二人である。充分なインパクトを残したアピールを終えてひな壇へと戻った。


 そして最後にクロル・エ=アップルスミス(演者:坂田真衣)とシルヴィア・ブラックフェザー(演者:長船羽月)の組み合わせである。


「じゃあ最後に私達ですね~」

「どっちからするー?」

「じゃあクロルからしますよ」


 クロルが中央に出て、挨拶が始まる。


「萌え萌え萌えー! みなさんこんにちはー! フルライブ1期生のクロル・エ=アップルスミスでーす。えーとですね、クロルの二つ名はアルコールソムリエです。雑談や歌枠が中心ですが、定期的にリスナーさんとの飲酒雑談も開いていますので、お酒が好きな方はぜひ好きなお酒を持って配信に来てくださーい♪」

「はーいありがとうございます。というか訊きたいんだけどさクロル、あんたって利き酒とかできるの?」

「いやできると言えるほど得意じゃないよ? 安酒と高級酒の違いはたぶんわかるけどね」

「よかった。これは本当に酒カスじゃないわ」

「クロルの体質じゃあ酒カスのままだと美人になれねーんだわ、アッハッハ! はい、じゃあシルヴィーいってみようか」

「ガワも中もかわいいってのはズルイ女だなーもう」


 ニコニコとしながらシルヴィアが前に出て、クロルが少し控えた位置に戻る。


「バッサバッサー! 貴方の心に安らぎを! フルライブ1期生のシルヴィア・ブラックフェザーです! みなさん、今日からよろしくお願いしまーす! 二つ名は特にありませんが! これからがんばってカワイイカワイイと言われながら、みんなのように二つ名を――」

「ストーップ! シルヴィー!」

「ええい止めるな! 止めるな!」

「いや、シルヴィーにはきちんと“どすこいシルヴィア”とか“相撲取りおばさん”とか二つ名はあるでしょうが」

「おばさんはやめろー!? こんなかわいいロリ系お姉さんにおばさんなんて失礼だろうがてめぇ!」

「逆にそれが好きなリスナーさんがいるのはクロル知ってるぜ? 同期の配信を見るのはフルライバーの義務ってやつだからね」

「怒ったかんなー? よしじゃあ相撲で勝負だ。負けたらおばさんだけは撤回しなッ」

「どすこいはいいのかよww」

「どすこいはギャップ萌えに必要だからしょーがないんだよぉお!」


 そうしてあれよあれよとなぜか二人で相撲を取る準備を整えていく。そしてシルヴィアが綺麗に四股を踏み終わって相撲が始まった。


 そしてあっさり寄り切りで勝負がついたところで二人の出番が終了する。その後は適当にお題に沿った話題でトークを広げていき、御笑いに包まれながら番組は終了した。


 なおこの番組がYOURSTUBEにある公式チャンネルに投稿されると、ツブヤイターでは『魔女屋オルエン』『ジークンドーの魔女』『剛拳の魔女』というキーワードがトレンド入りする。そのことにフルライブ関係者の全員が納得して頷いていた。






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