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 ザカライアはその光が何かわかったようで、くるりと向きを変えて逃げようとした。


 だが、それよりも早く光の中から手が伸びてきてザカライアの首根っこをむんずと掴んだ。


「は、離せ!」


 ザカライアはその手から逃れようとジタバタと藻掻くが、一向に逃げられないようだ。


 やがてその光が消えて、ローブをまとった男性と女性が姿を現した。


「ザカライア。まったく好き勝手ばかりしおって…」


 ザカライアの首根っこを掴んでいる男性が呆れたような声を発する。


「本当に…。あなたを放置した私達も悪いけれど、だからといってこの状況を見過ごすわけにはいかないわね」


 魔法使いのザカライアがここまで成すすべもなく、捕らえられているなんて、相当な魔力の持ち主なのね。


 そういえば、二人共何処となくザカライアに似ているような…。


 そう考えた所で、二人はザカライアの両親なのだと気が付いた。


 だけど「好き勝手ばかり」とは、一体何をしたのかしら?


 口を挟むわけにもいかず、じっと見守っていると、ザカライアの母親が小さな小瓶を取り出した。


(あれは何かしら?)


 私が見る限り空の小瓶のようだけれど、一体何に使うのだろう?


「ザカライア。お前が閉じ込めていた魔法使いは既に私達が救出した。それと、お前が中身を書き換えた本についてもな。お前にはそれ相応の罰を下さねばならん」


 ザカライアの父親はそう告げると、背中を向けているザカライアの向きを変えた。


 逃げるのに失敗したザカライアは気の毒になりそうなくらい、真っ青な顔をしている。


 ザカライアの母親は小瓶の蓋を開けると、小声で呪文を唱えるとザカライアに視線を向けた。


「ザカライア」 


 母親に名前を呼ばれたザカライアは、父親に首根っこを掴まれたまま、直立不動の姿勢をとる。


「はい、お母様」


 ザカライアは返事をした途端、「しまった!」という顔をしたが、既に遅かった。


 ザカライアの身体は小さくなりながら母親の持っている小瓶へと吸い込まれていった。


 ザカライアの身体が小瓶に入るなり、ザカライアの母親は小瓶の蓋を閉じた。


 小さくなったザカライアは、小瓶の中から両手を瓶に打ち付けるが、びくともしない。


「そこでしばらく反省していなさい」


 母親が小瓶にフッと息を吹きかけると、小瓶は何処かへ消え失せた。


(まるで「孫悟空」のお話みたいだわ)


 あれは閉じ込められたのはひょうたんだったけれど、名前を呼ばれて返事をすれば吸い込まれてしまうのは一緒ね。


 だけど、中身を書き換えた本って何かしら?


 そこで私は、この「シンデレラ」のお話もザカライアが書き換えた物なのかもしれないと思い至った。


 一仕事終えたザカライアの両親が私の方へと向き直った。


「こんにちは、アナベルさん。いえ、ドロシーさんと呼んだほうがいいわね」 


 ザカライアの母親に話しかけられて、私は困惑を隠せなかった。


(どうして私がドロシーと呼ばれるのかしら?)


 戸惑っている私にザカライアの母親は柔らかく微笑んだ。


「ごめんなさいね。あの子ったらストーリーを変えるだけでなく、登場人物まで入れ替えてしまったの。だから、あなたはアナベルではなくてドロシーなのよ」


「ええっ!」 


 ザカライアの母親の言う事が、にわかには信じられなかった。


 ストーリーを変えただけでなく、登場人物まで入れ替えるなんて…。


 そんな事が出来るのだろうか?


 驚いている私にザカライアの母親は申し訳なさそうな笑顔を見せる。


「私達はこのお話の登場人物ではないの。あの子ったらお話の中にまで入り込んでしまったの。だから、私達はこのお話の世界から出たら、お話を元通りに直すわ」


 お話を元通りに…。


 そうなると、コリンはこの世界から消えてしまうって事?


 そんなのは嫌だわ!


 それに元の「シンデレラ」のお話になれば、お義父様は死んでしまうし、お母様も私達も不幸な結末を迎えてしまう。


 エラは私達の不幸を平然として見ている人物として世の中に伝えられるのだ。


 それだけはどうしても避けたい。


「あの、お願いがあるんですが…」


 私が声をかけると、ザカライアの母親は「何かしら?」と首を傾げた。


「ザカライアがストーリーを変えてしまったのは悪い事なのかもしれません。でも、私達はそのストーリーの中でとても幸せだったんです。だから、私がドロシーに戻っても、今の家族の関係はそのままにしていただけませんか? お願いします!」


 私は立ち上がって、ザカライアの母親に頭を下げた。


 下を向いているので二人の表情はまったくわからない。


 そのまま頭を下げている私の視界に、誰かの足が近付いてくる。


「頭を上げてちょうだい」


 優しく肩に手を添えられて、私は頭を上げた。


 そこには優しく微笑むザカライアの母親の顔があった。


「確かにあなたの家族はとても幸せだったみたいね。わかったわ。このお話は別の「シンデレラ」のお話として残しましょう。だけど、あの子が入れ替えたアナベルとドロシー、クリストファーとブライアンは元に戻すわね」


 ザカライアの母親の言葉に私は小さく「え?」と声を上げていた。


 なんと、クリストファー王子とブライアン様も入れ替えられていたらしい。


 だから、あんなにもクリストファー王子であるブライアン様に心を惹かれたのだろうか?


 そう考えている間にザカライアの両親は光に包まれて消えていった。


 その光の眩さに目を閉じた瞬間、私の意識も遠くなった。




 ふと、目を覚ますとそこはベッドの中だった。


(ここは、ドロシーの部屋? …いえ、私はドロシーなんだから、別に可笑しくはないわね)


 メイドに手伝ってもらい、支度を終えて食堂に向かうと、そこには両親とアナベル、エラ、コリンが待っていた。


「遅かったな、ドロシー。それでは朝食にしようか」


 お義父様の声で給仕がされて、いつも通りの食卓の風景が広がる。


「ドロシー。今日は午後からクリストファー王子がいらっしゃるからな。アナベルはチャールズ様が、エラにはブライアン様が来られる」


 私達三人は顔を見合わせて、フフッと微笑み合う。


 先日の舞踏会でそれぞれお相手を見つける事が出来たのだ。


「結婚相手が見つかったのはいいが、嫁に行ってしまう事を思うと寂しくなるな」


「大丈夫ですわ。私達にはまだコリンがおりますから。コリンがお嫁さんをもらうのもきっとすぐですわ」


 お母様が優しくお義父様に笑いかける。


 今日も一日、楽しい時間を過ごせそうだ。





  ー 完 ー



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