Lv外-3 来た!その2
おねえはベッドに腰かけているようだ。その辺りにいた胡桃ちゃんとのやり取りが無い事から、一族の宝は独自詠唱でも発動させて透明人間になったのだろうと勝手に解釈し自分自身を落ち着かせている。
出来るかは、知らないけど。
鼻歌を歌うおねえは、何やら取り出しているようだ。ブリスター包装を破る音が間断なく聞こえてきている。
「え~、まず。電源を入れ……アプリを入れ~の……ネットワークの設定……や、やれるのか? この私に……うふふ」
なんか、テンション爆上げのおねえ、一人芝居打ち始めた。
それに、手順を口にしだしたら年を取った証拠だよ。気を付けて。でも、そのおかげでおねえのしようとしている事がまるわかりなのは幸いだ……
「次に映りを確認する」
ウツリ?ウツリってなんだ?
「電源お~ん、お?……お~。すっごい綺麗に映るじゃん!!」
おねえ楽しそう。っていうか。あんた……綺麗に映るって……隠しカメラかなんか仕込む気か?マジで?ほんとに?え?引くよ?マジ引き、ドン引きですけど……
ちょっと束縛がキツイ、ウチの長女。キレやすく、カッとなる性格。でも、それ以上に家族を大切にする昔のヤクザみたいな姉。……いや、いい意味で。でも、ここまでやるのか?怖いわ、ちょと……おにい可哀そう。私、日本に逃げる時は手助けするよ……
「あ~。なんか疲れた。ちょっと寝ていくか」
おい!ふざけんな! 私、いつまでここで、ドアに耳着けていなきゃいけないのよ。
「っと、その前にトイレに行ってと」
……!来る!!
「ふ、ふふふうんふふふんふふん」
はなうた、近・づ・い・て・く・る~。
私の潜むバスルームのドアが開け放たれた!!
私は内側に開くドアの影に隠れている。お姉なら、トイレのドアは閉めない、はず、そっちに賭けた。
おねえはやっぱり、案の定、想定通り、バスルームのドアを閉めることなく用を足している。ここで閉める様なら私のおねえは、この6年で、家を出てから世間様にもまれて大人になったと思うだけだが、そうでは無かった。
何も変わらなかった。奴は、おねえは、いつも家のトイレを開けて用を足して家族から怒られていたから。さすがに大きい方は閉めていたけど。
相変わらず、鼻歌とジョーって音は続いている。
おねえのおしっこの音、聞きたくねぇ~。
ガラガラガラガラ、ビシッ。
サッサッ
モソモソ
ジャー。
説明要る?
「あれ? 口紅?」
し、しまった。口紅一つ取り忘れた。
おねえは、手を洗いながら鏡を見ていたのだと思う。その下に展開していた。私達の化粧道具の一つ取り忘れた。
痛恨のミス
「私、持ってたかなぁ? こんな色」
いや、持ってたよ。そう思え!
私はドアの影から呼吸すら止めて、今の、現状の成り行きを音声のみで見えちゃいないが見守っている。
「え? 女? うそ? そんなはずないか、ハハハ」
能天気に笑うおねえは、そのまま鼻歌を継続したまま私に気付くことなくドアを閉めてベッドに戻って行った。
疑えよ、じゃぁ、誰のだよ。いや、そんな感じだから助かったよ。
「なんか、良い匂い」
おねえ、おにいの枕の匂いに悶えている。知りたくないよ、姉の性癖なんて。
しばらくしたら、おねえ、おにいのベッドで爆睡し始めた。
寝ごとうるせぇ。
私、意を決してドアをそ~っと開けて、おねえの寝るベッドに近づくと、私の足首を掴む手が!
「ぁ!」
声出ちゃった。小さく。
声出るわ。怖いよ。胡桃がいつも寝るベッドの下から手を出してきていた。手を引いて引きずり出す。
「ちょっと!」
私達の後ろからおねえの声が……見つかった!
「私の分は?」
寝ぼけてやがる。まぎらわしい。
行くよ!私はスーツケースをベッドの下から胡桃ちゃんと同じ要領で引きずりだした。隣にいる胡桃ちゃんに目で合図して、ドアを開け、私達は廊下へと逃げた。逃げ切った。
「胡桃ちゃん、驚かさないでよ」
「だって、もう駄目だと思ったんだもの」
涙を滲ませる胡桃ちゃん。
侍、侍。キャラ忘れてるよ。
「おねえは何してたの?」
「新しいスマホ買ったみたいよ。それ開けて喜んでた」
胡桃。だから、侍。
「スマホ? 何か映りがいいとか言っていたけど……」
「見えていたのはスマホとケースとシールかな?そんなのだったよ」
「そうかぁ」
おねえはそれから2時間後に消えていった。居なくなった後、部屋をくまなく捜索したがカメラなどは見つからなかった。何をしようとしていたのか私達は今でもわからないが、本当に恐ろしい姉だ。
そしてもう一つ。あの姉と対峙するには一段上の訓練が必要だと実戦で理解した。おにいには報告するかどうするか思案のしどころだ。
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