LV79 アルバイト
「いらっしゃいませ」
俺は久々にゆるふわちゃんのお店にやって来た。
毎日、夜ご飯は初音さんと食べていたのだが、今夜は何の会議だか知らんが、店で会議があるとかで俺は一人で夕ご飯を食べることになった。
迷いはなかった。どれほどこの日を待っていたか……3か月だ。毎日、寝る前に涙でシーツを濡らしていた、一日千秋……ああ、ゆるふわちゃん。相変わらず可愛い……全般フワッとしたシルエットで、甘い声もそうだし、彼女が現われると視界がソフトフォーカスになって、なんならお花が彼女の周りに咲き乱れているように見えてくる。ああ、目元の泣きボクロ!以外に出るとこ出てる俺だけが知っている美ボディ!
なんだよ。全部持ってんじゃねえかよ!
最高に可愛い!!
「随分とご無沙汰でしたね……」
ゆるふわちゃんが俺の胸元に潜り込みメニューで顔を隠しながら小声で話ししている。
「どうしたの? ゆるふわちゃん?」
何故にそんなに警戒する?
「いらっしゃいませ!!」
元気な声で挨拶をしてくる女性の声が……
「…………」
何で?
「お兄! おねえのいぬ間に命の選択とは良い度胸しているじゃない!」
白地に紺とピンクの朝顔が咲き乱れる浴衣で、何故か知らんが緩いあいつが出てきた。
「お前……何してんの?」
「何って、この通りここで働いているのよ」
大きく手を広げ、浴衣を俺に見せつけて、長い髪は頭の上でまとめている。
可愛いじゃねえか!
可愛いよ、俺の妹。いや初音さんの妹!ゆるいけど。
「お前、似合うな」
「そうでしょう? ちょっと、変な目で見ないでよね。毎晩、一緒に寝てんのに、それでも足りないの? 今夜これで帰ってあげる? スグ脱がせちゃ駄目よ……もう、どれほど性豪なのヨ」
「え?」
ゆるふわちゃんが俺をヤバいやつ認定しようとしている。
「ゆるふわちゃん……こいつは少し、いや、かなりの妄想癖があって、ここだけの話、いつも住んでいる場所から離れてストレスを和らげようと、こいつのお母さんから頼まれて置いているんだよ。だから、こいつの言う事は……ね、察して」
「そ、そうなの……そうなんだ」
「ゆるふわ姉さん、そんな与太話信じるんですかっ!」
「俺とゆるふわちゃんは命を預け合った間柄だ。そう簡単に俺達の絆は壊れないぞ。参ったか」
何か知らんが、ゆるふわちゃんにすら簡単に会えなくなりそうな夏の夜だった。