LV78 ゆるいも
「な~に、お兄……」
ああ、まただ。
俺がベッドに横になり、遠くこの街の喧騒の、階下の車の騒音が、意識の奥に聞こえてきて、現実と夢の国との往復旅行を楽しんでいたところ、後ろ手に無理やり現実へと引き戻した、とぼけた、うすぼけた声で、俺と一緒に寝ている、ベッドを共にしている全般緩い妹が、俺の右手が勝手にやっているモミモミに気が付いて、生意気に目でも覚まして言ってきたところ。だと思う。
ベッドを共にするなどとありふれた表現が共通の認識に結びつくのかといったら、それは、間違いなく、絶対に違う。俺はこの、この国のこいつらと、いや、こいつと付き合いが出来てからそれが分かってきた。いいや分かった。
俺の隣で俺のダブルベットで、俺の布団の中で、ベッドを共にしているこの緩い妹は就寝時にはいつもいない。俺は寝る時には一人で気持ちよくいつ洗ったか思い出せない白いシーツの上で一日を思い出し、反省するような殊勝な態度も見せないうちに、あたかも就寝スイッチが俺の何処かに取り付けられているかのように前後の繋がりなく眠りに落ちる。実際はバタンキューって言う方がしっくりくるが、それもどうかという感じで、スイッチなんて表現をあえて使ってみた。
話を戻すと、寝る時には一人でベッドにいるのに、朝にはいつの間にか全裸の緩い妹とベッドを共にしている。転々と部屋の外から続くユルイモの服から下着から凡そ絶対に野生の鳥は捕まえることが出来ないであろうパンくずからの棒と籠の罠のパンくずの様に部屋の外から……転々と続いている。
白いTシャツが部屋の外、ピンクのショートパンツが入口ドア付近、パンツがベッドの下、ブラジャーがベッドの上。
そして、俺は今日も自動で右手が勝手に奴のDカップの胸をモミモミしてしまっていた。
「お兄、お姉、起きちゃうよ。漏れちゃう、声もれちゃうっ。二人の秘密が……ば……ばれちゃ、ううううんんっ、ああ! でも辞めないで!!」
辞めろ辞めろ。読者が混乱する。勝手に甘い吐息を吐くな。
俺の隣で寝起きの良い緩い妹は朝一ハイテンションを決めて、独演会の真っ最中だ。
「はい、服着ようね」
慣れたものだ。既に1か月、こいつは、緩い妹は俺のアパートに夏休みの初日からここに転がり込んでいる。これでも一応の大学生の緩いバカは六月から夏休みで、テストの終わったその日の夜行バスに飛び乗ったかどうかは知らないが、とにかく夏休みの始まった日の午後には俺のアパートのドアの前でご機嫌な笑顔と共に現れて、夏休みが終わるまでいてあげると一方的に宣言して入り込むと、五分後には自分の家の様にくつろいで、現在に至っている。
リビングで朝ごはんの準備をする俺は、
「お前、今日どこ行くの?」
「う~ん、どうしようかな。広州にでもいくか……」
おい、また、揉めてくんなよな。悪い予感しかしない。
「ここでバイトしようかな。お金も無くなってきたし。お姉に貰うのも悪いし、お兄は身体と引き換えだし」
いくらなんだよ。
「何のバイトすんだよ?」
「何がいいかな……楽して稼げるヤツ」
そんなの有ったら俺がやりたいわ。緩い会話を継ぐ俺達。
「八月になったら胡桃も来るってよ」
「ああ、そう」
お前らセットだろ。お前が来た時点で察していたよ。ウシガエルが鳴いてる場所ではマムシに気を付けろ、みたいなもんだろ。
2LDKで一番大きい部屋は俺が使って、もう一部屋は初音さんが不法占拠中で、4人とかどうする気なんだか。
「なあ、どうやって暮らすの? 4人も」
今も、初音さんのベッドで寝ているユル妹は渡り鳥の様に俺のところに来ているが……
「大丈夫だよ、来れば何とかなるから」
答えの無い答えを出してくる。まあ、そうだな。この国では先の事は考えない、その時になったら考える、まあ、大抵はユル妹の言う様に何とかなる。
「よし、出来た。初音さん呼んで」
「オネ-!! ごはん!!」
そこで怒鳴んなよ。
テーブルの俺の正面に座りスマホを弄っているユル妹はスマホを見たまま大声で奥の部屋のドアを閉めて寝ている初音さんを呼んだ。それなら俺でも出来るだろ。
「ねえ、あんたまた旦那ちゃんのベッドで寝てたでしょう」
寝乱れた初音さんがドアを開けて、頭をかきながら登場した。
「だって、お兄が昨日しつこく迫ってきて、部屋代を身体で払えって脅してくるの。でも大丈夫よ。入れさせなかったから。そこだけは守ったわ」
何をだ……
「入れたら姉妹の縁を切るわよ」
いれなきゃいいのか?お前ら二人共〇ね。
「お姉とお兄で寝ればいいじゃない」
「あんた、二人で寝たら、やらない訳ないじゃない。私は自分の声で盛り上がっていくタイプなのよ。結構、大きな声上げるわよ。いいの? 毎晩」
「私は別に良いけど、胡桃ちゃんがなあ、あの子、結構、潔癖だからさ」
だからお前ら何の話ししている。