【85】 奈美から大輔への伝言
30分後、夫は、疲れ果てて先に眠りについた。
妻(大輔のことは、今を持って忘れよう。これからは、夫と海斗のために生きていく。それが一番いいのよ。過去は忘れて今を生きるのよ、今を……)
妻も眠りについたのだった。
◇
翌日、奈美と海斗は博之とともに松山城に登り、お昼は街中のレストランで食事をして、帰路に着いた。
駅で。
夫「じゃあね」
妻「またね。お仕事頑張って」
夫「うん。海斗、また会おうね」
海斗「うん」
◇
数日後。
奈美は、お昼どきを狙って、市役所に居る大輔に電話をした。
奈美「今、大丈夫?」
大輔「ええ、大丈夫です」
奈美「突然ごめんなさい」
大輔「なんでしょう?」
奈美「実はね、」
大輔「はい、」
奈美「行方不明だった夫が見つかったの」
大輔「えっ!!! そうなんですか?」
奈美「うん。私もびっくりしたんだけれどね」
大輔「そうですよね。それで」
奈美「元気で、生きていたわ」
大輔「そうですか」
大輔(『良かったですね』と、言った方がいいのかな?)
奈美「それで、海斗と家族3人でやり直すことにしたの」
大輔「それは良かった」
奈美「過去をすべて忘れることにしたの」
大輔「そうですね」
奈美「だから、あなたも忘れてくださいます?」
大輔「もちろんです。たった今忘れました」
奈美「ふふふふふ。ありがとう」
大輔「こちらこそ、色々ありがとうございました」
奈美「北海道か、沖縄かどちらかに引っ越して、もう埼玉には戻って来ないつもりです」
奈美は嘘をついた。大輔と縁を切るためにも、その方が良いと思ったからだった。
大輔「わかりました」
奈美「だから、あなたは由夏さんとうまくやってくださいね」
大輔「わかりました」
奈美「これで良かったのよ。由夏さんもこれで大輔さんを独占できるでしょう」
大輔「そうですね」
奈美「こんな電話で最後になるなんて、ゴメンね。会うと別れがつらいから、電話で済ませた方がいいと思って」
大輔「わかります」
奈美「じゃぁ」
電話が切れた。あまりに、あっけなく短い電話だった。
大輔(お昼休みだと思って、気を遣ったのかな?)




