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84/87

【84】 失踪以来、家族での夜

 奈美はホテルのフロントでチェックインし、3人は部屋へと向かった。部屋に入り、夫は眠っている海斗をベッドに寝かせた。


奈美「良かった、ツインの部屋を取って。ダブルじゃ海斗がこんなにのびのび寝られなかったかも」

夫「そうだね」

妻「コーヒー飲む?」

夫「うん、いいね」


妻「今、お湯を沸かすわ。そうだ、お風呂にもお湯を入れるから入って行く」

夫「いいのかい?」

妻「当たり前でしょう」

夫「すまないね」

妻「いやぁね」


夫「なにか、夢を見ているみたいだな」

妻「これが現実よ。今までが悪い夢を見ていたのよ」

夫「そうか、そう思えばいいんだな」

妻「そうよ。今は今、昔は昔。お風呂に入って、過去は洗い流すのね」

夫「うん」


妻「先に入る?」

夫「そうだな」

妻「お風呂に入ったら、自分の部屋に戻るのが億劫なんじゃない?」

夫「それはそうだけれど」

妻「ここで寝て行けば。明日の朝、あなたの部屋に寄って、そこからお城に行けばいいんだもの」

夫「そうだね」

妻「コーヒー入ったわよ」

夫「ありがとう」


 夫がコーヒーを飲み始めた。

 夫は、妻のやさしさと海斗の寝顔を見て、涙が出てきた。


夫「くすん」

妻「どうしたの?」

夫「くすん。涙が、」

 妻が近くにあったティッシュボックスを夫のそばに置いた。


夫「海斗の寝顔と、入れてもらったコーヒーにやられた」

妻「そう、」

夫「コーヒーで泣くなんて思わなかったな」

 涙声だった。


妻「それだけ、つらかったのね」

夫「……」

 夫はうつむき、黙ったままコーヒーを飲みほした。そして、浴室へと立ち去った。


 10分も経たない内に夫は腰にバスタオルを巻いて出てきた。

夫「お待たせ」

 入れ替わるように妻が風呂に入った。

 夫は、バスタオルのままベッドに横になり体を休めた。


夫「ふーっ」

 天井を見つめながら深―い深―いため息をついた。

夫(数年分のため息だったかも……)


夫(自分のあとの残りの人生は、この二人のために捧げるんだ。それが、自分と家族にとって、幸せになる唯一の方法なんだ)

 自分に言い聞かせていた。


 妻も10分と経たない内にバスタオルを巻いて出てきた。そして、そのまま夫の上に覆いかぶさった。

 妻からキスをした。夫は布団をずらし、妻を布団の中へと引き込んだ。

 奈美は夫の背中に両腕を回し、自分の体を強く押し付けた。

夫(何年ぶりの感触だろう……)

妻(この感触よ……)

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