【76】 あの子(店員)は、国民を幸せにするなぁ……
そんなことを思い出しているうちに、すべての注文が目の前に並んでいた。
博之(はやっ!)
そして、
博之(これじゃ、一食280円じゃすまないな。ざっと700円ぐらいか?)
博之(しかもこればっかり一年中ずっと食べてるわけにはいかないし)
博之(『一年中、牛丼だけを食べてればいいんですよ』誰がこんなこと言ったんだ?)
博之(俺かぁ)
博之(ひどいことを言ったもんだ)
博之(日本国憲法で『公務員はすべて国民全体の奉仕者』となっているが、俺は、国民に、いったい何を奉仕してきたんだろう?)
博之(国民を不幸にしてきただけなんじゃないだろうか?)
博之(こんなんでいいのだろうか?)
博之(家族のために『公務員』という地位と安定した収入にしがみついていただけなんじゃないか?)
博之(今回のことは『天罰』。そう、『天罰』がくだったんだよ)
博之(こんなことが無かったら、もっともっと人としての道を外していたかも知れないな)
色々思いを巡らしていたら、博之の目尻に涙がにじんできた。
涙が流れないよう牛丼店の天井の灯りを見た。
博之(う~ん)
今度は子供、海斗の顔が浮かんできた。我慢していた涙がどんどん流れ出した。
店員の女子は、博之の涙を見て、見ないふりをしてそっと奥へと下がって行った。
博之(シジミ汁がこんなにうまいと思わなかったなぁ)
博之は、4品を交互にゆっくりゆっくり噛み締め味わっていった。
食べ終わり博之はレジに進んだ。先ほどの女子店員がレジに行った。
店員「730円です」
博之(やっぱり、700円かぁ~)
博之はポケットから財布を出した。
女子店員が、チラッと博之の顔を見て、
店員「大丈夫ですか?」
博之「うん、大丈夫。とても美味しかったよ」
店員「ありがとうございます」
博之「シジミ汁が心にシジミ、いやシミジミと来て、涙が出ちゃったよ」
店員「ふふふふふ。そうだったんですね。頼んだカイ(貝)がありましたね」
店員が手の5指で貝がパクパクするような動きをやって見せた。
博之「ははははは。うん」
店を出るとき、博之の顔は明るい顔になっていた。
博之(あの子(店員)は、国民を幸せにするなぁ……)




