【75】 牛丼店
博之は、警察を出た。
博之「あ~~~っ、腹が減ったー」
自宅までの帰り道、博之は最初に目にした外食店に入った。気持ちが落ち着いたら急に腹が空き、食べられればどこでも良かった。
博之(どこでもいいや。おっ、牛丼店がある。よし、ここで食べよう)
博之は牛丼店に入った。
店員「いらっしゃいませ」
博之「注文は食券ですか?」
店員「いえ、口頭で承ります」
博之「そうですか、ちょっと考えさせてください」
店員「はい、決まりましたら、お声を掛けてください」
博之「はい」
博之はメニューを見始めた。そして
博之「すみませーん」
店員「はい」
博之「牛丼の並と、しじみ汁と、半熟卵と、キムチをください」
店員「はい。牛丼並、しじみ汁、半熟卵、キムチ」
店員が繰り返した。
博之(牛丼店かぁ、久しぶりに来たなぁ)
博之(そうだ、)
博之は、ふと思い出した。
博之は、今まで自分してきたことを思い返していた。
博之「今まで随分ひどいことを言ってきたからなぁ」
【回想の始まり】
税務署で納税相談を担当していたとき。
滞納者「食費はどうしても一日千円はかかるだろう。だから月3万円」
博之「えっ、そんな高いもんを食べてるんですか?」
滞納者「高いかな?」
博之「高いですよ。牛丼や立ち食いのかけそばなら一食280円で済みます。3食食べても840円ですよ。差額の160円は納税に回せるでしょ。一年中、牛丼だけを食べてればいいんですよ」
滞納者「毎日牛丼かい?」
博之「最高じゃないですか。大体、今、3食食べない人も多くなっているんですよ」
滞納者「それは、3食食べるな、って言ってるのか?」
博之「完納するまで、我慢も必要でしょ」
【回想の終わり】
博之(こんなときもあったなぁ)
【回想の始まり】
滞納者「子供が産まれて、そっちに随分と金がかかるんだよ」
博之「子供が産まれちゃったんですか?」
滞納者「めでたいだろう」
博之「どこがですか?」
滞納者「なんだと!」
博之「なぜ、子供を作っちゃったんですか?」
滞納者「出来たもんは、仕方ないだろう。自然な流れよ」
博之「普通、税金を全部支払ってから子供を作るんじゃないですか?」
滞納者「誰がそんなことを決めたんだよ」
博之「納税は国民の義務です。憲法にそう書いてあるでしょ」
滞納者「ふん」
博之「督促状は持ってきましたか?」
滞納者「いや」
博之「不持参ですね」
滞納者「何が富士山だって?」
博之「『不持参』の意味もわからないんですか? そんなことだから滞納するんですよ」
【回想の終わり】




