【27】 奈美は、四字熟語が大嫌い!
4人は、乗車券売り場でそれぞれ切符を買って待つことにした。そして、奈美が財布の中に切符をしまおうとして、
奈美「あれっなんだろう?」
財布の中に、二つ折りされた細長い白い紙が入っていた。その白い紙を博之の目の前で広げた。ファミリーレストランを辞めた時に勤務先からもらった源泉徴収票だった。
奈美「なぁんだ」
自分で財布に入れて、忘れていた。すぐに財布の同じ場所にしまった。博之は特に見る気もなく、源泉徴収票の内容が目に入っていた。
博之「その所得税、戻るんじゃない」
奈美「えっ?」
博之の顔を見た。
博之「さっきの源泉徴収票、よく見えなかったけれど、税金が戻ってくるかもね」
奈美「本当?」
博之「源泉徴収票を見てもいいのなら、確認するけれど」
奈美「全然かまわないわ」
博之「見てもいいの? だって収入とか住所とか、個人情報が書かれているよ」
奈美「たいした個人情報じゃないわ。しかも収入が少ないし」
博之「そう」
奈美「はい」と言って、源泉徴収票を博之に手渡した。
博之「源泉徴収の約4万円、すべて戻りますね」
奈美「わぁーっ、うれしい。いつ戻ってくるの」
博之「確定申告をすれば戻ってきます」
奈美「えーっ! ダメ! ダメダメ! 私その四字熟語大嫌いなの」
博之「四字熟語?」
奈美「『確定申告』とか、四字熟語を見たり聞いたりすると、体調を崩すのよ」
博之「そんなことがあるんですか?」
奈美「あるんだな、これが。四字熟語アレルギー」
博之「どうして?」
奈美「昔ね、高校時代の話なんだけど、担任の先生が国語の先生で。毎日1分間テストと称して、漢字・熟語・諺・作者名などのテストをやらされていたの」
博之「そんなのがあったんですか?」
奈美「先生としては、受験勉強の一環として、というつもりだったんでしょう」
博之「ふむふむ」
奈美「それである日の問題が、四字熟語の穴あき問題で『(馬■東■)馬、四角、東、四角』という問題だったの」
博之「『馬耳東風』ですか?」
奈美「そう。それをね、『馬券東京』って書いちゃったの」
順子「ははははは」
いつの間にか、順子や洋次にまで奈美の話を聞かれていた。
博之「そうですよ! やっぱり馬券は東京競馬場で買うべきでしょうね。ノミ行為は禁止ですからね」
奈美「そしたら、翌日先生が『クラスみんなに「馬券東京」って書いた者がいる』って言っちゃったの。名前は言われなかったけれどね」
博之「そうなんだ」
奈美「で、それだけじゃなく『(大■晩■)「大」という字に、四角、「晩」という字に、四角』って問題があって、」
博之「『大器晩成』ですね」
奈美「それを『大盛晩飯(おおもりばんめし)』って書いたの」
順子「ははははは」
周りの韓国人には、当然受けない。
奈美「韓国人は、笑わないのね」
博之「日本語ですからね」
奈美「そのときは、クラスみんなの前で言われて、みんな大笑いしていたわ」
博之「そんなとき、奈美さんはどうリアクションするんですか?」
奈美「私ではないって顔をして、一緒に大笑いするの」
順子「ははははは」
博之「それしかないですよね」
奈美「ええ。で、あるときは『(一■二■)一、四角、二、四角』、『(二■三■)二、四角、三、四角』って問題だったの」
博之(一石二鳥、二束三文、二人三脚? かな)
奈美「だから、私エステの料金かと思って、『一回二万』『二回三万』って書いたこともあったわ」
順子「ははははは」
博之「奈美さんは、良く考えますね。そっちの答えを考える方がたいへんです」
奈美「その続きが『(七■八■)七、四角、八、四角』という問題で」
博之(七転八起、七転八倒、七難八苦? かな)
博之「じゃぁ、エステの会員割引で『七回八万』って書いたのですか?」
奈美「さすがに前回のことがあったので、私もそうは書けず、」
博之「そうは書けずに?」
奈美「『七泊八日』と書きました」
順子「ははははは」
博之「旅行パンフレットに、よくありますよね」
奈美「でしょ、でしょ!」
博之「はい」
奈美「そしたら、『先生が「一回二万」よりはマシだな』って初めて褒めてくれたんです」
博之「別に褒めてはいないと思うんですけれど」
順子「ははははは」




