第2話 覚醒変異
【隠れボス】
俺の『地図』には確かに隠れボスのいる隠し部屋が表示されている。どうやったら入れるんだろう? 『地図』の壁を見ながらそう思ったらポップアップ表示が出た。
【壁の左右の端、上端を同時に押す】だと?
壁の端に行って観察すると上の方に不自然な凹みがある。反対側も見ると同じものがあった。同時に押すということは最低でも二人いないとダメか。
隠し部屋の中にはモンスターが赤い光点で表示されていた。光点は八つ。名前を表示させると【キラービー・ソルジャー】が七点、【キラービー・クィーン】が一点だ。
【キラービー・ソルジャー Lv10】x7
・全長約三十センチメートル。素早く飛ぶことが出来る。
・噛みつき、尻の針で刺す。
・大量の毒を注入された場合、死に至る。
【キラービー・クィーン Lv15】
・全長五十センチメートル。キラービー・ソルジャーの二倍の能力。
怖っ! 一匹だけでも死に至るモンスターが八匹も中にいる! 無理だ。どうやっても勝てない。ひとりでは対処のしようがない。
あとは部屋の奥に宝箱が鎮座している。
「惜しいなぁ。モンスターは無理でも宝箱だけでも欲しいよなぁ」
誰もいない空間だとつい独り言も出るというものだ。未練がましく宝箱を注視する。
「これ、何が入ってるんだろうなぁ」
【宝箱(聖銀 5kg)】
「はい?」
なんか出た。声も出た。ひょっとして箱の中身が見えている? 【聖銀】とはなんだ?
素材か? 買い取り価格をあとで検索してみよう。取らぬ狸のなんとやらではあるけどね。いや、それよりも未知のアイテムの名前が表示されたぞ!
落ち着け。得体の知れないものなら俺も持っている。青の光点に意識を集中。
【パーティー名:未設定】
1:星名千里(Lv10)
2:
3:
4:
5:
【星名千里(二十八歳)】
・Lv.10 (380/8,090)
・身長:180cm 体重:72kg
・スキル:高度戦術支援地図 Lv.1/5(1/5)
・所持アイテム:鉄の槍、魔石x3(スライムx2、エクストラ・レッドスライムx1)、パワー・ポーション
いろいろツッコミどころが満載だ。俺のプロフィールなんかどうでもいい。まずはパーティー? 登録制なのか。今は検証のしようもないな。
それよりもレベルが10だって?! そんなに一気に上がったのか。だからさっきレベル酔いが酷かったんだな。
だが、何よりもおかしいのがスキルだ。
【高度戦術支援地図 Lv.1/5(1/5)】
なんだこれは。『地図』だけど『地図』じゃないぞ。それとレベル1だって? これを見る限りレベル5まであるっぽい。
所持アイテムが一覧で見えてるのとかヤバいだろ。エクストラ・レッドスライムなんて聞いたことないぞ。さっきのダンジョンボスだよな。やっぱりスモールスライムじゃなかった。一気にレベル10になったのはこいつの経験値のせいだな。
俺のスキルは『地図』だったはずだ。これはすでに内容が明らかにされている既知のスキルだ。間違えようがないはずだ。俺の所持スキルが元々『高度戦術支援地図』だったのか、それともユニークボス討伐でスキルを取得したことによる変異なのかはわからない。ここが最弱のダンジョンだったお陰でソロでユニークボスを討伐できたことも含めて幸運だった。この秘密をどこまで打ち明けるべきか、悩むなぁ。
そんなことより今の俺にはアイテムの現金化の方が切実だ。パワー・ポーションっていうのがドロップアイテムだよな。冒険者への道が閉ざされて以来、リアルの情報は避けて来たから現実のアイテムのことはほとんどわからない。それと、これはゲームにも出てこないアイテムだからまったく俺の知識にはないなぁ。
いや、そもそも俺が知らないアイテムが表示されること自体がヤバ過ぎるだろ。ほとんど鑑定じゃないか。
それと、隠し部屋のことはおそらく今まで誰にも知られていない。ここは日本で最初に出来たダンジョンのうちのひとつだぞ。それなのにまだ見つかっていないものを見つけてしまったかもしれない。
ダンジョンは電波が届かないからスマホの検索機能が使えない。アイテムの価値は地上に戻ってみないと調べようがないな。ここにこれ以上いても出来ることはない。よし、出よう。地図上にスライムの位置が表示されているからそれを確かめて討伐しながら戻ろう。
レベル10になって身体能力がかなり向上していることもあり、あっさりとスライム二匹を討伐してレベル表示はLv.10 (620/8,090)になった。経験値の伸びからスライムの経験値は一匹あたり120となる。モンスターの経験値は情報として既に出回っているからあとで確認してみよう。
ちなみに経験値は倒した本人と、その近くにいる四人の合計五人での分配取得になる。今回、近くに誰もいないために全ての経験値が俺に入っている。
ロビーを出て階段を上りロッカーからリュックを取り出す。魔石と内ポケットのポーションをリュックに入れる。ベンチに座ると持ち歩いている水筒の麦茶をガブ飲みしながらゲットしたアイテムをどうすべきか考える。スライムの魔石は数百円なのでここでも買い取ってもらえるが、他のアイテムはそうはいかないだろう。近くにある冒険者ショップに行けばもっとちゃんとした買い取り窓口があるからそこで相談すべきだろう。
方針が決まったので立ち上がって出入り口のゲートに向かう。受付に挨拶をしながらレンタルの槍を返した。
「ありがとうございました」
「お、お疲れさん。ずいぶんと遅かったな。ダンジョンは楽しめたかい」
ダンジョンの職員ということは元冒険者だろうか。こんな歳でひとりで来るなんて俺のことは訳ありにしか見えないだろうな。まぁ、その通りなんだけど。
「ええ、お陰様で。失くしたモノを取り戻せた気分です」
「そりゃあ何よりだ。またいつでも来なよ」
「必ず」と言って外に出た。暗がりから出てきたばかりの目には渋谷の喧噪は眩し過ぎた。スマホを見るとまだ昼を過ぎたばかりだった。
「きっつ」
さっきから身体が重い。外に出たせいでレベルアップによる身体能力の向上が失われたからだ。ギャップが戻るまで辛い。ベンチでもう少し休むべきだったか。スキルも使えない。ポーションや魔石は地上に出てもその効果は失われないが、武器装備などはダンジョンを出た瞬間に特殊効果が使えなくなるそうだ。なぜそうなるかはわかっていない。人類科学では計測不可能な未知のエネルギーのせいだと言われている。その仮想エネルギーをエーテルとか魔素とか呼んで、様々な仮説が立てられている。地上にダンジョンに巣食う魔物が出て来ないのは魔素が地球上に存在しないからだそうだ。筋は通る気がする。
渋谷第一ダンジョンのすぐ近くに冒険者ショップ・代々木公園前店がある。代々木公園ダンジョンは巨大で稼げるダンジョンとしても有名なので、ショップも大型家電量販店並みに巨大だ。買い取りコーナーは店舗一階のほとんどの面積を占めるほど広く場所を取っている。他はポーションなど冒険者御用達な消耗品や道具の販売コーナーなどだ。二十四時間営業の買い取りコーナーだが、真昼間だけあって空いている。整理券を発券するとすぐに呼び出されたので指定窓口に向かう。
「お待たせいたしました。本日はどのようなお品の買い取りになりますでしょうか」
いかにも仕事が出来そうな綺麗なお姉さんが丁寧に話しかけてきた。さすが東京の有名店。店舗スタッフの質も高いのだろう。どう見ても冒険者に見えない俺にも敬意を示しながら応対してくれるところにプロとしての心意気を感じる。さて、リアルのダンジョンアイテムに関してはあまり詳しくない俺でも手持ちのアイテムがそれなりの金額になりそうなことぐらいはわかる。慎重にやらないとな。




