第104話 ドラゴンズネスト
「業界再編? 冒険者界隈っちゅうことか?」
「はい。Titansが始めてしまってるんですよね?」
「あ? そういうことかいな。せや、数だけはえらいことになっとるで」
「Titansが周辺のパーティーやクランを飲み込んでいるなら、こちらも対抗しなければなりません。どんな時も数は重要な戦力を表す数値ですよね?」
「もちろんや。数こそが全てや。戦いにおいて多勢に無勢、質より量は絶対の正解や」
一騎当千の猛者がそう言い切る。
「こちらも同じようなことをしなければなりません。傘下に取り込むのもいいですが、質は下げたくありません。基準に満たないと判断した場合は同盟や契約的なものを結ぶまでというのもありです。たとえば、物資については、同盟や専属契約を結んだところへの売買は割増し、割引き対応することとします。もちろん、専属契約を結んでくれたその人たちに損をさせるつもりはありません。同時に、有力な冒険者は竜騎兵と同じようにパーティー名やクラン名をそのままRenegades内の部隊名とする同志としてクランに引き入れてもいいでしょう。ダンジョン探索はサバイバルです。妥協をするつもりはありません」
「なるほどな。まあ、クランに入れるのはかなり慎重にせないかんやろな」
「本音を言えばですね、俺のスキルもそのうち鑑定を持っている人が見ればおかしいってバレるでしょうし、バレた時に何を言われても大丈夫なぐらいの状態にしておきたいんですよね」
「おーん? 千里、お前さんひょっとしてここまでの流れぜんぶ見えとったんちゃうか? それが為に動いとったんやろ? あぁ、嬢ちゃんたちのためか?」
うーん、人の考えを読める人ってやりにくいんだよなぁ。その通りだ。俺には彼女たちを守るものが必要だ。俺個人にそれは無い。個に無いなら集団にすればいい。だが、その具体的な方法は思いつかなかった。今回の件は、仲間を増やすにはどうすればいいかを模索しようとした矢先に降って湧いた良い話だ。
竜騎兵との出会いは奇跡だ。僥倖だ。取り込むだとかそんな大それたことは考えてもなかった。あわよくば、後ろ盾になってもらえたらぐらいにしか思っていなかった。
「はい。俺は弱いんです。だけどこんな展開は妄想もしてませんよ。今はまあ、たまたま理想の展開ではありますけど」
「いやいや、お前さん、ウチに近付いて来たんも計算やないか。今日も最初にそう言うてたやないか。仲良うなりとうてレベル打ち明けたて」
「あ! あ! 言ってた! 言ってたな、おい!」
「あぁ、確かにそれ、印象的だったから僕も覚えてますよ。若いのに団長みたいなこと言うのがいておもしろいなぁって。団長が手の平の上でコロコロ転がってるところを想像して笑いそうになりましたから」
「ふっ、ふふふふ。たしかに。それはなかなかに楽しい想像だな」
「田茂、お前もかいな。そんでも、ま、たまには若い者に転がされるんもエエもんやな。こないおもろいことになったんやから」
「勘弁してください。俺なんかが立神さんをどうこうできるほど高尚な脳みそなんか持ってないですよ。転がすだなんて恐れ多い。褒め殺し、キツいです」
「田茂、こらあかんわ。これも通じひん」
「団長、まだボッタくること諦めてなかったんですか? もういいかげん諦めましょう」
「えー! 団長! まだそんなことしようとしてたんスかー! 千さんイジメたらあたしが許さないっすからね!」
「おおう。サクちゃん、もうそっちの肩持つんかいなぁ。そりゃ殺生やで」
「だぁって、あたしはもう完全に竜騎兵側じゃなくてRenegadesのメンバーですもん。ねぇー、香流様!」
そう言って香流の腕にしっかりとしがみつく咲耶ちゃん。
「はい、そうですね」
「あー、田茂よ、娘を嫁に出すっちゅうのはこういう感じなんかいのぉ」
「あぁ、そうなのかもしれませんね。なかなか感慨深いじゃないですか。私は今、少し肩の荷が降りた気がしましたよ」
「サクちゃん、おめでとう!」
「サクちゃん、僕も我が事のようにうれしいよ」
いやいやいやいや、誰が誰の嫁になったって? この人たち、やっぱり父親としてはポンコツなんじゃなかろうか?! ほら、園子が残念なものを見るような目でみんなを見ているよ!
「うーん、おっちゃんらなんかダメダメな匂いがすんな。これやったら兄やんの方がオトンっぽいで」
葵よ、兄が父っぽくて俺は赤の他人だけど確かにお前の兄であり父であろうかと思ったこともあったり、ほぼ裸で抱き合ったことあったり、もう俺もお前も何がなんだかだよ。
「まぁ、咲耶ちゃんもRenegadesのメンバーだから今後は何でも相談してよ。薬草のこととかもね。咲耶ちゃんは女性だし、Renegadesだから、これからは移動はできるだけ【瞬間移動】を使おうか」
「おお! たぶんそれって、めっちゃ便利になりますよね?」
「うん。たぶんもう前の生活には戻れなくなるよ。それで、竜騎兵の方々はこの階層への歩荷は基本的にしなくて大丈夫です。少なくとも身内に対しても、価格競争が落ち着くまでは歩荷による物資の買取りは出来ませんので。カモフラージュの意味があるので、リュックはそのままでもいいですし、その分、空いた隙間にアイテムを集めながらここまで降りてくるのもありです。そしてアイテムの買取りですが、明日から当分の間は、ウチと専属契約をしたらギルドの買取り価格の八掛けで買取りましょう。手数料二割です。身内は九掛けの手数料一割です。専属、契約者以外は今まで通り七掛けのままです。そして、地上のギルドで買い取ってもらえるアイテムはなんでも全部買い取ります。盾とか鎧、槍、刀、なんでもです。これで様子を見ましょう」
おお~という声が上がる。今後は自分の分だけ物資を運べばいいし、安地に着いたら足りない物資は買えばいいだけなのだから余裕だろう。
「これはあれやな。いよいよ上に戻らんやつが出て来よるな」
「それって困りますか? もし不都合あるなら、シフトを組んでもらって、クランメンバーは月のうち丸々一週間なり十日なりはダンジョン禁止とか制限を付けて地上に帰してください」
「おう、わかった。やり過ぎへんよう塩梅ようやっとくわ」
「あと、ここで販売するもののリストが欲しいです。地上の仕入れ先とかも。相当大量の納品ですよね。マジックバッグに入れる作業が必要になります。一気に収納はできないので、出し入れは内職のような単純作業になります。これもクランメンバーでシフトを組んで交代でやってもらいたいです」
「そやな。便利ではあるが魔法みたいに吸い込むわけやないからなぁ。貴重なアイテムやからいうて誰かにだけ任すんわ無理やな」
「千里、小佐原さんのところって敷地に余裕があるんじゃないかしら? 彼ひとりであの場所はちょっと広すぎよね。クランとして倉庫と作業の場所も貸してもらえるならあそこの家賃もクラン持ちに出来るんじゃない?」
「あぁ、それはいいかもしれないね。そうすれば倉庫には常時誰かいることになるし、小佐原さんと素材関係のセキュリティも上げられるね。なんなら食堂や掃除なんかでお手伝いできる人も雇えるかな」
「お! 千里、そらぁええな。ワシらはもう地上の事務所は閉じてしもたんやけどな。そんなんあったら暇にしとってバイト代ぐらいでなんぼでも世話焼いてくれる奥さん連中がようけおるで」
「それは助かりますね。場所はウチの合成士に確認してからになりますが、いずれにせよ仕事場自体は必要になりますから、なんらかのお願いはすることになると思います」
小佐原さんには、工房の家賃が不要になったら、あそこは寝泊まりのできる作業場ってことにして、自宅は憧れのタワマンにできるんじゃないかな? 鍛冶場や工房はセキュリティ的にも本人以外立ち入り禁止にすればプライバシーというか特殊な趣味も守れるだろう。
「ということで進めさせていただきたいと思います。いろいろ手探りですがやってみてダメなら竜騎兵にはRenegadesを出てもらって、ここの土地を分割するなりして竜騎兵としての補給、宿泊地としてやってもらえばいいと思います。それでよろしければこちらの書類にサインを入れさせていただきます」
「はっはっは。なんやそれ、ウチにデメリットがあらへんがな。千里はんの好きにやってもろたらそれで結構や。目一杯暴れたりや」
竜騎兵がRenegadesの下部組織になる書類と、万屋の賃貸権利譲渡の誓約書にサインを入れると立神さんが始めた拍手が広がった。
「千里、この店の名前を変えてくれや」
「え? このままじゃダメですか?」
「上に同じ名前があるからな。ここはもうRenegadesのもんやから変えた方がええんや」
第十一階層の『万屋 竜の寝床』は、現竜騎兵所属メンバーの権利としてそのまま管理してもらうこととした。その方が彼らに入るお金が多そうだからだ。
「そうしたらここは『萬屋 竜の巣』にしましょう」
「いやいや、それやとなんも変わってへんやないか」
「そうですか? 葵、どう思う?」
「ええんちゃう? 上とまだ繋がってんのも一目でわかるし。その方が変なちょっかい出して来づらいやろ?」
「だそうです」
「なるほど。それもそやな。ほな、そうするかぁ。よし、田茂、向こうの奴らに報告と意思確認しといてもらえるか。これのな」
そう言って誓約書の束を指差した。
「わかりました。千、一旦これは預かるよ。今、決まったことを君たちのことは抜きにして話せる範囲で話して、確認を取って来る」
「はい。お願いします」
談笑していると田茂さんが書類の束を持って帰ってきた。
「お疲れ様でした。思ったより早かったですね」
「すまん、あいつらもう酒が入って正常な判断は無理だった! 明日、あらためて頼む!」
そう言ってRenegadesとしての初任務失敗に申し訳なさそうに頭を下げる副長だった。
なろうは反応が薄いので不定期更新になっています。
最新話(今のところ毎日)更新はカクヨムになります。




