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エロいことばかり考えてしまう

事務所のドアが開いた。


入ってきたのは、二十代くらいの男だった。


落ち着かない様子で座る。


しばらく黙ってから言った。


「……変な相談なんですけど」


「変じゃない相談の方が少ない」


男は少しだけ笑った。


でもすぐ真面目な顔に戻る。


「俺、女の人見ると」

「エロいことばっかり考えちゃうんです」


探偵はコーヒーを飲む。


「そうか」


「……引きますよね」


「別に」


男は少し黙る。


「電車でも」

「バイト先でも」

「街歩いてても」

「ずっとそんなこと考えてて」


「うん」


「俺、気持ち悪いなって思って」


探偵はカップを置いた。


「やめたいのか」


「やめたいです」


「やめられるのか」


男は少し黙ってから首を振った。


「……無理です」


「じゃあ仕方ないな」


男は顔を上げる。


「仕方ない、ですか」


「やめられないもん」

「やめようとすんな」


「でも……」


「嫌なんだろ」

「そういうこと考える自分」


「……はい」


少し間が空く。


探偵は言った。


「考えてるなって思うだけにしとけ」


「え?」


「また考えてるな、って」


「それだけですか」


「ああ」


男は黙る。


「自分のこと、

 気持ち悪いって言うな」


男は少し驚いた顔をした。


「……でも」


「面倒くさいだろ」


「え?」


「自分が自分のこと嫌いだと」


男は黙る。


探偵は続ける。


「やめられないこと、

 無理にやめようとすると」

「余計頭から離れなくなる」


「……はい」


「押さえつけると、

 余計うるさくなる」


男は静かに聞いている。


「だから」

「放っとけ」


「放っとく?」


「そういうこと考える自分もいるなって」

「それだけでいい」


男はしばらく黙ってから言った。


「それで……いいんですかね」


「知らない」


「え」


「でも」

「自分くらい、

 自分の味方でいろ」


男は何も言わなかった。


少しして、小さく言った。


「……はい」


帰り際、男は言った。


「何か」

「ちょっと楽になりました」


「そうか」


男は頭を下げて帰っていった。


ドアが閉まる。


相棒が言う。


「ねぇ」


「何だ」


「さっきの人、治ったの?」


探偵は少し考えてから言った。


「治らなくていいだろ」


「え」


「犯罪じゃない」


「まあ……そうね」


「人に迷惑かけてない」


「うん」


「なら、別にいいだろ」


相棒は少し笑った。


「ここって」

「結局そればっかりね」


「何が」


「別にいいんじゃないか、って」


探偵は少しだけ笑った。


「別にいいことの方が多いんだよ」


コーヒーはもう冷めていた。


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