表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/99

普通になれない

 女は言った。


「普通になれませんでした」


 探偵はコーヒーを飲みながら、「そうか」とだけ言った。


「みんなみたいに」

「ちゃんと働いて」

「結婚して」

「子供産んで」


 女は少し笑った。


「普通が一番いいと思ってたんです」


 少し間が落ちる。


「でも、どこまで行っても普通になれなくて」


 探偵は黙って聞いていた。


「仕事も長く続かないし」

「結婚も、うまくいかなくて」

「子供もいなくて」


 女は下を向いた。


「普通になれませんでした」


 探偵はカップを机に置いた。


「普通って何だ」


 女は黙る。


「誰が決めた」


「……分かりません」


 探偵は少し考えてから言った。


「普通になりたかったのか」


 少し間。


「幸せになりたかったのか」


 女はしばらく黙っていた。


 やがて、小さく言った。


「……幸せに、なりたかったです」


 探偵はうなずいた。


「じゃあ、普通じゃなくていいだろ」


 女は何も言わなかった。

 でも、少しだけ泣いていた。


 しばらくして、女は言った。


「普通って、どこにあるんでしょうね」


 探偵は少し考えた。


 それから言った。


「さあな」


 少し間。


「俺はまだ、見たことない」


 女は少し笑った。


「……そうですか」


 女は立ち上がった。


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


 ドアが閉まる。


 相棒が奥から顔を出した。


「普通って、何なんだろうね」


 探偵はソファにもたれた。


「みんな、普通になろうとしてるけど」


 窓の外を車が通り過ぎる。


「普通になったやつなんて」

「見たことないけどな」


 探偵はそう言って、冷めたコーヒーを飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ