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コンビニの前の女子高生

 夜のコンビニの前で、探偵は缶コーヒーを飲んでいた。


 少し離れたところに、制服のままの女子高生が立っている。


 店に入るでもなく、帰るでもなく、ただ突っ立っていた。


 五分。


 十分。


 まだいる。


 探偵は缶をゴミ箱に捨てて、なんとなく声をかけた。


「買わないのか」


 女子高生は少し驚いた顔をした。


「……はい」


「じゃあ何してる」


 少し迷ってから、女子高生は言った。


「帰りたくなくて」


 探偵は「そうか」とだけ言った。


「家、嫌いなのか」


「嫌いっていうか……」


 言葉を探している。


「期待されるんです」


「期待?」


「いい大学行って」

「いい会社入って」

「ちゃんとした人になりなさいって」


 女子高生はうつむいた。


「別に、悪い親じゃないんです」

「ちゃんと育ててもらったし」


 少し間。


「でも、なんか、疲れちゃって」


 探偵は黙って聞いている。


「いい子でいなきゃいけないって思うと」

「帰るの、ちょっと嫌で」


 車が一台、目の前の道を通り過ぎた。


 女子高生が小さく言った。


「いい子って、何なんですかね」


 探偵は少し考えた。


「誰にとっての、いい子だ」


 女子高生は顔を上げる。


「親にとってのいい子」

「先生にとってのいい子」

「社会にとってのいい子」


 少し間。


「全部違うだろ」


 女子高生は黙る。


 探偵は続ける。


「全員にとってのいい子なんて、無理だ」


 女子高生は少し笑った。


「ですよね」


「疲れるだろ」


「疲れます」


 少し沈黙。


 コンビニの自動ドアが開いて、誰かが出てきた。


 女子高生は言った。


「でも、悪い子にはなりたくないんです」


 探偵は言う。


「じゃあ、お前が思ういい子になればいい」


「え?」


「親が思ういい子じゃなくて」

「先生が思ういい子じゃなくて」


 コーヒーをもう一本買って、開ける。


「お前が、こういう人間でいたいって思うやつになれ」


 女子高生はしばらく何も言わなかった。


 それから小さく言った。


「……ちょっとだけ、帰ってみます」


「そうか」


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


 女子高生は、来た道をゆっくり歩いていった。


 探偵はコンビニの明かりを見ながら、缶コーヒーを飲んだ。


「いい子、ね」


 誰に聞かせるでもなく、呟く。


「そんなもん、自分で決めるもんだろ」


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