何にも続かない
探偵は事務所のソファで、雑誌をぱらぱらめくっていた。
読んでいるのか、ただページをめくっているだけなのか分からない。
「お客さん」
「ん」
顔を上げると、二十代半ばくらいの男性が座っていた。
少し気まずそうな顔をしている。
「どうした」
男は少し迷ってから言った。
「俺、何やっても続かないんです」
探偵は雑誌を閉じた。
「仕事も」
「バイトも」
「趣味も」
「勉強も」
「恋愛も」
「全部、途中で嫌になってやめちゃうんです」
男は笑った。
「親にも、お前はダメなやつだって言われてて」
少し間。
「俺って、ダメなんですかね」
探偵は少し考えた。
「嫌になった理由は」
「え?」
「やめた理由だ」
男は少し考えた。
「仕事は、人間関係きつくて」
「バイトは、給料安くて」
「趣味は、思ったより上手くならなくて」
「勉強は、意味分からなくて」
「彼女は、ケンカ多くて」
探偵はうなずいた。
「全部、理由あるじゃねえか」
男は黙る。
「何となくやめたわけじゃないだろ」
男は小さく言った。
「……はい」
探偵は言う。
「続かないやつってな」
少し間。
「我慢してまで続けないやつだ」
男は黙る。
「それがダメかどうかは知らん」
「でも」
コーヒーを一口飲む。
「合ってないもの、やめただけだろ」
男は何も言えない。
「人間関係きついのが無理」
「給料安いのが無理」
「上手くならないと楽しくない」
「意味分からんことはやりたくない」
「ケンカ多い女は無理」
探偵は言う。
「あんたの取扱説明書、ちゃんとあるじゃねえか」
男は少し驚いた顔をした。
「……そういう考え方、したことなかったです」
探偵はソファにもたれた。
「続かないんじゃない」
少し間。
「合わないことを、ちゃんとやめてるだけだ」
男はしばらく黙っていた。
やがて小さく言った。
「……じゃあ、続くものって何なんですかね」
探偵は少し考えた。
「やめてもいいのに、やめなかったものだろ」
男は黙る。
「嫌なことがあっても」
「金にならなくても」
「上手くいかなくても」
「なんだかんだ、戻ってきたもの」
少し間。
「それが、多分向いてることだ」
男はゆっくりうなずいた。
「……少し、分かった気がします」
「そうか」
男は立ち上がって、頭を下げた。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
男が帰ったあと、探偵はソファに寝転がった。
天井を見ながら、ぼそっと言う。
「やめてもやめても、戻ってくるもの」
少し間。
「それが一番厄介で、一番向いてるんだろうな」




