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元恋人を忘れられない

探偵は窓際の椅子を後ろに傾けて、ぐらぐらしていた。


「落ちるよ」


「落ちない」


「お客さん」


 探偵はそのままの姿勢で振り向いた。


「ああ」


 三十代くらいの女性が座っていた。


 少し迷ってから言う。


「元恋人が、忘れられないんです」


 探偵は椅子を戻し、座り直した。


「そうか」


「もう何年も前なんですけど」


「うん」


「新しい人ができても、やっぱり思い出すんです」


 探偵はコーヒーを飲む。


「会いたいのか」


「……会いたいわけじゃないんです」


「戻りたい?」


「それも違います」


「じゃあ何だ」


 女性は少し考えてから言った。


「気持ちが残ってるだけ、です」


 探偵は小さくうなずいた。


「忘れなきゃいけないんでしょうか」


 少し間。


 探偵は言う。


「無理だろ」


 女性は少し驚いた顔をした。


 探偵は続ける。


「忘れられないもんは、忘れられない」


 女性は黙る。


 探偵はコーヒーを一口飲んだ。


「でも別に」


 少し間。


「誰かに迷惑かけてるわけじゃないんだろ」


 女性は、少しだけ笑った。


「……はい」


 探偵は肩をすくめた。


「じゃあ、いいだろ」


 女性はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。


「なんか、楽になりました」


「そうか」


 女性は立ち上がる。


「ありがとうございました」


「どういたしまして」


 扉が閉まる。


 相棒が顔を出す。


「優しいね」


「そうか?」


「忘れられない人、いるんでしょ」


 相棒は、少しだけムッとした顔をする。


 探偵はコーヒーを飲む。


「まぁまぁ」


 カップを机に置く。


「別にどうにかなりたい訳じゃないからさ」


相棒は少し黙ってから言った。


「その人とは、うまくいかなかったの?」


 探偵は少しだけ笑った。


「ダメだった」


 相棒はうなずく。


「残念だね」


 探偵はコーヒーを飲む。


「まあな」


 少し間。


「でも、仕方ない」


 カップを置く。


「うまくいかないもんは、うまくいかない」


 相棒は何も言わない。


 探偵は窓の外を見たまま言う。


「好きなだけじゃ、どうにもならないこともあるだろ」


「……そうね」


 相棒は小さくうなずいた。


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