下位だから、消えるしかない?
昼過ぎ。
ソファに寝転がって、天井の染みを眺めていた。
「もう相談者来るよ」
「あと五分」
事務所のドアが開く。
⸻
高校二年生の女子。
椅子の端に、浅く座る。
「私、下位なんです」
「何の」
「クラス」
視線は落ちたまま。
「だから、雑に扱われても仕方ないんです」
怒っていない。
泣いてもいない。
ただ、慣れた言い方だった。
少し間。
「私、死ななきゃいけないんでしょうか」
相棒のペンが止まる。
俺はすぐには答えない。
「そんなに、しんどいか」
少女は小さくうなずく。
「いるだけで空気悪くなる感じがして」
「話しかけると、ちょっと間が空くんです」
「私がいない方が、うまく回る気がして」
声は静かだ。
でも、無理している声だ。
「順位ってさ」
俺は言う。
「自分でつけたか?」
「……違います」
「じゃあ、他人がつけたんだな」
少女はうなずく。
「他人のつけた数字で、自分を消すのか」
少女の指が強く握られる。
「でも、今はそこが全部です」
「全部に見えるよな」
否定しない。
「毎日そこにいるなら、なおさら」
少女の目が、少しだけ揺れる。
「雑に扱われるの、慣れたか」
「……少し」
「本当は?」
沈黙。
唇が震える。
「慣れてないです」
小さく出た本音。
俺はうなずく。
「慣れなくていい」
すぐに続けない。
言葉を置く。
「死ななきゃいけない理由、探してるみたいだな」
少女は驚いた顔をする。
「探してません」
「でも確認しに来た」
少女は目を伏せる。
「……本当に、いなくなった方がいいのか」
「誰かに言ってほしかった」
俺は息を吐く。
「少なくとも」
間。
「ここに来た時点で、完全に諦めてはいない」
少女の目が、少しだけ潤む。
「下位って言うけど」
「その位置、固定だと思ってるのは今だけかもしれない」
「場所、変わったことあるか」
「クラス替えのときは、少し」
「そのとき、同じ順位だったか」
「……違いました」
「だろ」
強く言わない。
「変わるもんだ」
沈黙。
少女の肩の力が、少し抜ける。
「私、死ななきゃいけないですか」
もう一度聞く。
今度は、さっきより弱い。
俺は首を横に振る。
「俺は、そうは思わない」
断言はしない。
でも逃がさない。
「ただ」
「今日決めなくていい」
少女は瞬きをする。
「今日は帰れ」
「それだけで十分だ」
長い沈黙のあと、
「……はい」
立ち上がる。
来たときより、少しだけ呼吸が深い。
「今日は、帰ります」
「また来てもいいですか」
「いいぜ」
少女は小さくうなずき、出ていった。
⸻
扉が閉まる。
「死んじゃダメだって言えばよかったのに」
相棒が言う。
「俺が決めることじゃない」
「言って欲しかったんじゃない?」
「そうか?」
相棒は腕を組む。
「命に順位つけるなんて……許せない」
俺はソファに倒れ込む。
「安心したいのさ」
「自分は下じゃないって」
相棒は笑う。
「上って、そんなに安定してるもんかね」
窓の外は、いつも通りの空だった。
そこには、数字も順位もなかった。
命に、証拠なんていらない。




