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恋愛が長続きしない

 事務所のドアが、静かに開いた。


「……相談、いいですか?」


 入ってきた女性は、どこか自信なさげに笑っていた。


 机に足を投げ出していた俺は、ちらりと顔を上げる。


「どうぞ。恋愛でも借金でも、人生相談でも」


 横からすぐ声が飛ぶ。


「ちゃんと座りなさい」


 相棒だ。


 仕方なく椅子に座り直す。


 女性は、少し迷ってから言った。


「私、恋愛が続かないんです」


「どれくらい?」


「長くて一年。ほとんど半年もいかないです」


 視線を落とす。


「最初はうまくいくんです。でも……気づいたら、別れてて」


「で、自分が悪いって思う?」


 小さく頷く。


「周りは、みんな長く付き合ってたり、結婚したりしてて……」


 指先をぎゅっと握る。


「私って、何か欠陥があるのかなって」


 しばらく黙る。


 相棒が、柔らかく言う。


「楽しかった時間は?」


 女性は顔を上げる。


「え?」


「付き合ってたとき」


 少し考えてから、女性は答えた。


「……楽しかったです」


「じゃあ、それでいいじゃねぇか」


 俺は言う。


 女性は固まる。


「え?」


「続かなきゃ失敗、って誰が決めた」


 沈黙。


「楽しい時間だったなら、それで役目は終わりだろ」


 女性は、言葉を探すように口を開く。


「でも……」


「結婚しなきゃいけないわけでもない」


 続ける。


「一生一人としか付き合えないわけでもない」


 窓の外を見る。


「その時、その相手とちゃんと笑えてたなら、それで十分だ」


 相棒が、静かに付け加える。


「終わった関係も、無駄じゃないのよ」


 女性は、ぽつりと言った。


「……失敗ばっかりだと思ってました」


「違う」


 短く言う。


「終わっただけだ」


 しばらくして、女性は小さく笑った。


「ちょっと……楽になりました」


 帰る頃には、来たときより少しだけ顔色が明るかった。


 ドアが閉まる。


 俺は椅子にもたれかかる。


「解決したな」


「してないわよ」


 相棒は肩をすくめる。


「でも、自分を責めるのは減ったんじゃない?」


 少し間が空く。


「……懐かしいな。俺も昔、同じことで悩んでた」


「そうなの?」


「10人付き合って、誰とも続かなくてな。全部自分のせいだって思ってた」


「そりゃ、そうなるわよ……」


 コーヒーの湯気が、静かに揺れていた。


 続かなかった恋が、

 間違いだったと証明する必要なんてない。


 ちゃんと好きだったなら、

 それでいい。


 それが分かったなら――


 もう、証拠はいらない。

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