いい人でいるのに、なぜか嫌われる
事務所のドアが、遠慮がちに開いた。
「……相談、いいですか?」
入ってきた女性は、どこか困ったような笑顔をしていた。
俺は机に頬杖をついたまま片手を上げる。
「どうぞ。恋愛でも借金でも、愚痴でも歓迎」
すぐ横から冷たい声が飛ぶ。
「せめて姿勢くらい正しなさい」
相棒だ。
ため息をつきながら椅子に座り直す。
女性は、少し迷ってから口を開いた。
「私……いい人でいようとしてるのに、嫌われるんです」
「へえ」
「頼まれたら断れないし」
「空気悪くしたくないから合わせるし」
苦笑する。
「でも気づいたら、距離置かれてて」
指先をぎゅっと握る。
「何が悪いのか分からなくて」
しばらく沈黙が落ちる。
相棒が静かに聞く。
「本音、言えてる?」
女性は少し考え、
「……言えてないです」
と答えた。
俺は腕を組む。
「いい人でいようとするとさ」
女性が顔を上げる。
「みんなにいい顔することになる」
少し間。
「そうすると、どれが本当のあんたか分からなくなる」
沈黙。
「分からない相手は、信用しづらい」
女性は、小さく息を飲む。
「だから、好かれない」
言葉が静かに落ちる。
女性はしばらく黙り込み、ぽつりと呟く。
「……私、自分の気持ち隠してました」
相棒が柔らかく言う。
「少しくらい嫌われても、大丈夫よ」
女性は、少し笑った。
「ちょっと……やってみます」
来たときより、肩の力が抜けている。
ドアが閉まる。
俺は椅子にもたれた。
「解決したか?」
「してないわよ」
相棒は肩をすくめる。
「でも、少し楽になった顔してた」
短い沈黙。
「……それで十分だろ」
窓の外に夕暮れが落ちていく。
いい人でいようとして、
自分を消す必要なんてない。
少し嫌われるくらいで、
ちょうどいい。
それが分かったなら――
もう、証拠はいらない。




