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愚痴ばかり言ってしまう自分をやめたい

 事務所のドアが、控えめにノックされた。


「……開いてますよ」


 返事をすると、ゆっくり扉が開く。


 入ってきた女性は、肩の力が抜けきったような顔をしていた。


 ソファで寝転がっていた俺は、手だけ上げる。


「相談所じゃないけど、話くらいは聞く」


 隣から即座に声が飛ぶ。


「せめて姿勢を正しなさい」


 相棒だ。


 仕方なく体を起こす。


 女性は椅子に腰を下ろし、ぽつりと言った。


「私……愚痴ばっかり言っちゃうんです」


 仕事の愚痴。


 上司の愚痴。


 同僚の愚痴。


 友達にも、家族にも。


「言った後、いつも後悔して……」


「やめたいんです」


 俯いたまま言う。


 俺は腕を組んだ。


「で、やめられない?」


 小さく頷く。


 しばらく黙ってから、俺は言った。


「別にいいんじゃない?」


 女性は顔を上げる。


「え?」


 横で相棒が、呆れたように息をつく。


「また適当なこと言ってる……」


 無視する。


「愚痴言って、ちょっと楽になるんだろ?」


「……なります」


「じゃあ必要なんだよ、それ」


 女性は戸惑う。


「でも、愚痴言っても何も変わらないし……」


「変わらないな」


 即答する。


 女性は言葉を失う。


「上司も会社も人生も、愚痴じゃ変わらない」


 でもさ、と声を少し落とす。


「今日、倒れずに済んだなら、それで十分だろ」


 沈黙が落ちる。


「変えるのは、元気な日にやればいい」


「無理な日は、愚痴でいい」


 相棒が、小さく付け加える。


「ただし、聞いてくれる人には感謝すること」


 女性は、はっとした顔をした。


「……はい」


 帰り際、少しだけ顔色が良くなっていた。


 ドアが閉まる。


 しばらくして、相棒がぽつりと言った。


「……今日は、ちゃんと役に立ってたんじゃない?」


 俺はソファに倒れ込む。


「毎回立ってるつもりだが」


「はいはい」


 呆れた声。


 窓の外では、街の灯りが揺れている。


 今日を乗り切れただけで、

 それで十分な日もある。


 自分を責め続けるための証拠なんて、

 どこにもいらない。


 だから――


 もう、証拠はいらない。


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