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他の人が羨ましい

相談者は、二十代半ばくらいの女性だった。


身なりは整っているし、受け答えも普通だ。

ただ、どこか落ち着かない様子で椅子に座っている。


「……大した悩みじゃないんですけど」


「いいよ」


女性は、少しだけ迷ってから話し始めた。


「彼氏はいるんです」

「同棲もしてて、仲も悪くないし」


「うん」


「でも最近、街で楽しそうなカップルを見ると……羨ましいなって思っちゃって」


視線を落とす。


「手つないで歩いたりとか」

「普通にデートしてる人とか」


少し笑う。


「私たち、仕事柄そういうの出来なくて」

「彼は特に気にするタイプだし」


沈黙が落ちる。


「好きな人は隣にいるのに」

「羨ましいって思う自分が、なんか嫌で」


指先が机の縁をなぞる。


「これって」

「気持ちが冷めてきてるんですかね」


俺は、少し考えてから聞いた。


「じゃあ何で羨ましいんだ?」


女性は、しばらく黙ったあと、小さく言う。


「……ちゃんと」

「大事にされてるって」

「分かりたいのかも」


それが出た瞬間、自分でも驚いた顔をした。


「一緒にいるのに」

「なんか、不安になる時があって」


「うん」


「手をつなぎたいんじゃなくて」

「安心したいだけ、なのかも」


しばらく沈黙が落ちる。


俺はカップを持ち上げる。


「それなら」

「手をつないでも解決しないな」


女性は、苦笑する。


「……ですよね」


「やってもらっても」

「また不安になる」


小さくうなずく。


「欲しいもの、間違えると」

「相手も疲れる」


女性は、少し考えてから息を吐いた。


「……まず、自分で分かっとかないとですね」


立ち上がる。


「ありがとうございました」

「なんか、すっきりしました」


「気にすんな」


ドアの前で、彼女が振り返る。


「羨ましいって思うのも」

「別に悪くないですよね」


俺は肩をすくめる。


「思うくらい、自由だろ」


彼女は、少し笑って帰っていった。



事務所に静けさが戻る。


相棒が言う。


「……羨ましいって、なんか可愛い」


「そうだな」


窓の外を見る。


「欲しいものが分かれば」

「それでいい」


それ以上は、言わなかった。


だから――

もう、証拠はいらない。


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