33 元気がモリモリ
ひゅうっと、吸い込まれるように意識が戻る感覚があった。一瞬視界がブレた後、目に入ったのは白い部屋の中央あたりでボロボロになって赤い血溜まりに蹲っているサリーナの姿だった。
「サリーナ!?」
急いで駆け寄ろうとしたが、足がもつれた。
サリーナが、傷を。
状況を理解した途端ガクガク震えだした足で、前のめりに倒れこみそうになって進む。
「サリーナぁっ!」
次に我に返ったユーリカが絶叫して駆け出した。
「サリーナ、サリーナ、大丈夫?」
エミルは色白の肌を真っ青にして、ふらふらと近づいてきた。
俺たちの魂が連れてかれる直前にわいた魔物は、すでにこと切れて床に吸収されはじめている。激しい戦闘だったのだろう、修復されきっていない壁や床の傷。脇腹を押さえているサリーナ。魔物は爪のある獣型だったから、それにやられたのだろうか。
フーッ、フーッ、と苦しそうな呼吸をしながら、サリーナがゴフ!と血を吐いた。
「良かった、気がついたのねぇ。みんな怪我はないかしらぁ?」
まぶたが腫れあがった左目で、ぎこちなくウィンクをして見せた。
俺たちの心配なんていいんだよ、お前の怪我はどうなんだ。その出血はなんなんだよ。内臓、傷ついてるんじゃないか?
「俺たちの為に、逃げられなかったのか?」
かすれた声で、尋ねた。こんな事聞くまでもない。意識がなくなった俺たちの為に、こんな状態になってまで戦ってくれたのだ。
あのクソ上司…………!
何が、まだ無事ですよ、だ!
俺は知っている。魔法のある世界だが、全てが完璧に治るわけじゃない。さっきの調査団にいた回復士でさえ、重傷を完全回復させるなんて事はできないだろう。
衰弱した体を横たえて、意識が朦朧としていた小型犬。息をすうっと吸ったのか吐いたのか、それっきり、動かなくなった。目の前で、生命が失われた瞬間。────前世のちび太を看取った時の事を思い出した。
ええい、縁起でもない!
アイテムバッグから、傷薬やら包帯やらを引っ張り出しているユーリカと、とにかく手当をしようと慌てふためく俺をよそに、エミルは何か思案しているようだった。
と、
「サリーナ、ちょっと」
エミルがサリーナの手に装備されたままの武器・焼肉屋さん向かって呪いをかけた。黒いモヤが禍々しい武器に吸い込まれていく。
「えっ?」
何してんのアンタと言わんばかりの表情のユーリカ。
「何してんのお母さん!?」
実際に言った。
「あらぁ〜?なんか、元気がモリモリとぉ…………?」
見た目はボロボロのままのサリーナだったが、急に余裕のある声色になった。強がりじゃなく、本当に余裕がありそうだ。
「エミル、何したんだ?」
ふぃ〜、と額の汗を拭くふりをしながら、
「呪い装備になったので、改めて。ゲハハ!我が名は真・焼肉屋さん!装備している者のダメージを肩代わりする代わりに装備者のキューティクルが著しくそこなわれる呪いがかかっている!」
ズビシ!と変なポーズをつけながらエミルはゲハゲハ笑っている。
「アタシの全身のクルクルふわふわの体毛が、キシキシゴワゴワになってるぅぅ!?」
サリーナがあちこち触りながら悲鳴をあげた。血のりとかもあると思うけどな。
「とりあえず、ナイス?」
ユーリカがホッとした表情でエミルを褒めた。
サリーナは、ダメージは無くなったものの失われた血が戻ったわけではないので、座っていても少しフラついている。ユーリカが支えながら体力回復ポーションを与えていた。体力が回復したら、魔力溜まりを調べてみることに決まった。
「エミル、なんか顔色が悪いぞ」
ひとしきり笑い声をあげた後、また黙り込んだエミルの顔は青白いままだ。心配になって覗き込むと、
「くちゃい!」
「べぶぅ!」
バチン!と張り手されてしまった。元気ならいいんだけどさ。




