34 暗黒詩集
調子の悪そうなエミルが心配で様子を伺っていたのだが、少しするとまた眠そうにし始めた。顔色も、青いと言うほどではなくなっていた。一安心かな?
「おかーさん、眠いならおんぶするわよぉ?」
「いや、俺がおんぶするよ。また魔物がでても俺なら戦力外だからそのまま逃げられるしな」
サリーナはすっかり本調子だと言い張っているが、無理してないか心配である。しかし魔物が出たら、頼らざるを得ない不甲斐なさよ。
「ほら、エミル」
おんぶなら臭くないだろ!
「ん、ありがと」
よほど眠いのか、素直に頷いた。そんな風にされると可愛く見えるな。くそっ、なんか負けた気がする。
「眠い…………」
ゆらゆらと、エミルの頭が俺の背中で揺れている。さらさらした黒髪が俺の首筋をくすぐる。
背中に当たる柔らかな感触と、ハリのあるすべすべした脚の触り心地にドキドキなんかしてないんだからねっ!
「で、手紙に書いてたアーティファクトだっけ?それがここにあるって?」
改めて、魔力溜まりという場所を眺める。今度はちょっと距離をとっている、学習した俺である。
サリーナを傷つけたあの魔物は、もう影も形もなくなっていた。血溜まりもいつのまにか吸収された。ということは、万が一そこらで排泄しても吸収されるんだな、ここ。
俺たち以外はどうしていたのかと思っていたが、丸見えであることを気にしなければ、緊急事態になっても残らないのだな。なるほど。
「探してるやつかどうかまでは特定できないけど、こんなに強い魔物が生まれる魔力溜まりには、アーティファクトクラスの何かがあることが多いんだよね。あ、これSクラス以上の冒険者しか知らないんだった」
てへぺろっと可愛く誤魔化そうとしてるが、おいおい。
「みんなは言いふらしたりしないもんね!」
今度は笑顔で脅し始めた。はいはい、言いませんよ。
「アーティファクトって、神の贈り物とか大いなる天の遺物とか、大層な名前で教会本部に飾ってるやつよねぇ?」
「そそ、サリーナの認識でだいたいあってるよ。大雑把に言うと、〈この世界で作られたものじゃなさそう〉なモノだね。だいたい教会で管理する事になって飾られちゃう。こないだ受けた依頼でたまたまアーティファクトを見たんだけど、最悪だったの!」
「最悪なアーティファクト、それは便器の詰まりをキュポンってするやつ…………」
エミルがむにゃむにゃ寝言を言っている。いや、起きてるのか?
「────だったの」
「なに?なんて?」
ごにょごにょ言われて聞き取れなかったぞ。
「暗黒詩集の表紙だったの」
ユーリカが視線を彷徨わせながら、呟いた。
「はぁ?」
暗黒詩集?そこはかとなく黒歴史を感じさせるネーミングだな。
「ユーリカちゃんが言ってる意味がわからないわぁ、ごめんなさいねぇ」
サリーナが頰に手を当てて、戸惑ったように困ったわぁというポーズをしている。顔の腫れはすっかり引いているし、ユーリカが清潔な布で血や汚れを拭き取ってくれたのでさっぱりしている。眉毛とか耳とか尻尾とかゴワゴワだけど。
「うううー、私が中二の時に詩を書いてた、前世で持っていたノートの表紙だったの!暗黒詩集ってタイトルつけてたんだよぉ〜!」
ユーリカが両手で顔を覆って、足だけジタバタしている。
「スコープーン教会本部に、最近見つかったアーティファクト!って目立つように飾ってあったの。なんか見覚えあるなーって近づいたら暗黒詩集の表紙部分で。下の方に日本語で、中身は大迷宮にあるってメモが書いてあったんだよ…………」




