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23 潰されたカエルみたい

「ハルっちぃ、なんか話し声が聞こえるけど、あら開いてる? どうし」

 隣の部屋のサリーナがドアを開けて入ってきた。一瞬固まったが、


「お、おかーさんっ!」


 ベッドの上の俺、俺の腹の上にまたがっている魔王サマ(美少女)、そしてその魔王サマごと俺を押し倒してサリーナがのしかかってきた。


「うぎゅう」

 魔王サマは、男2人に挟まれて潰されたカエルみたいな声を出した。

 俺の胸の辺りに柔らかいものが押し付けられる。あ、けっこうデカイ……。


「久しぶりにご主人がお二人揃ってる! ぁ、が、我慢できないわんっ……」

 くんくんくん。サリーナが俺たちの匂いを嗅ぎはじめた。ちび太の幻影が見えるようだ。


「ペロペロってしたいですっ!」


「却下、そして重いからー!」


 ブワっと風が起きて、サリーナがドアの向こうに吹っ飛ばされた。魔法か?


「おいうるせーぞ!」

「静かに寝ろ!俺明日早いんだよ!」


「ごめんなさい」

 他の泊まり客に怒られ(本当にすみません)三人で謝り、静かに部屋に戻った。



「お前、なんでここにいるんだ?」

 怪我ひとつなく、耳と尻尾をシュンとさせたサリーナと、俺と、魔王サマで狭いベッドの上で顔を付き合わせて座る。

 俺は、急に現れた魔王サマに小声で質問した。


「ユーリカに預かってたアイテムがいきなり鳴ったんだもん。すぐこっちこようと思ったけど、その……色々忙しくて? 結局この時間になっちゃって」


「鍵かかってたよね? あとなんで俺の居場所ピンポイントでわかったの?」


「ふふーん、魂の色でわかるし! 鍵は、結構簡単な仕組みのやつだったから」

 魔王サマはニヤリと笑うと、胸元から変わった色の針金状の金属を出して見せてきた。それ犯罪だろ! あとどこにしまってたんデスカ。


「ここ狭いし、遅いし、怒られるし、もうヤダ。続きは明日にしようよ、今から帰るのだるいからここで寝るね」



 結局俺は寝ていた部屋を追い出され、サリーナの部屋で背中合わせで密着した状態で寝る事になったのだった。


 相変わらず自由だな、あいつ……。


 あんなに会うのが怖かった魔王サマなのに、話してみると特別抵抗はなかった。

 前世での子供の頃に、数年ぶりに会った二歳年上のいとこがすっかり大人びて見えてどう話しかけていいかわからなかった、とある夏休みを思い出した。自分も少し成長していた分、敬語にするか迷ったりして。話しはじめたら昔と同じ感じで話せて、ホッとしたんだ。


 前世の妻は内弁慶で、人付き合いが苦手で少し引きこもりがちだった。他人と話すときはものすごく愛想のいい明るい女性なのだが、大変なエネルギーを消耗するらしく、家に入ると反動で寝込んだりゲームや漫画の世界に逃避行する事が多かったのだ。

 料理は本人曰く大嫌いらしいのだが、俺好みの食事を用意しようといつも頑張ってくれていたものだ。

 家事も人付き合いも、俺のために努力してくれているのが可愛かった。見た目も可愛かった。化粧が下手でだいたいすっぴんだったが、あまり年を感じさせない童顔な顔立ちだった。

 中年にさしかかってきた妻を可愛いと形容できる俺は、けっこうな愛妻家だったのではないだろうか。


 でも俺は先に死んでしまった訳で……。


 俺のせいで妻も娘も転生する事になったのなら、何かしら責任を取るべきじゃないだろうか? というか家族を放置するっていう選択肢はないんじゃないかな。


 管理する仕事なんて勝手に与えられた役目はあるが、具体的な内容が全く伝わってこない業務だし、それは正直どうでもいいとさえ思っている。


 ……娘は俺を「お父さん」と思ってくれていたようだったが、妻はどうなのだろうか。

 俺自身は今現在も妻を愛しているんだろうか?


 色々思い悩んでしまい、寝付くのは遅かった。


 背中に感じるサリーナの体温が熱くてゲンナリしたとか、また仮死状態になるんじゃないかとビビってたわけではない。たぶん。

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