24 腕とか体半分とか忘れて
「さあて、一旦魔王城に行こっか!」
寝不足の目に太陽が眩しい。
結局熟睡できないまま宿を後にしたテンション低めの俺と違い、俺から奪ったベッドでよく眠れたのか可愛い魔王サマが張り切ってらっしゃる。
「あのさあ、俺、君の名前知らないんだけど……」
「はぁっ!?」
赤い目を吊り上げて魔王サマがご立腹である。全然怖くないな。
「ハルっち、エミル様よ!」
サリーナが慌てている。大丈夫だよ、怒らせたって弁当に変な仕込みされるわけじゃないんだから。3D萌えキャラ弁とかな。それにこんな事で怒らないだろ。
「好きなように呼べばいいよ! お前とか君とか、お主とか貴様とか」
ぷくーっと頰を膨らませるエミル。ハムスター好きの俺に対する挑戦か?
別に興味がなかったわけじゃなく、聞きそびれただけなんだから拗ねるな。
「んじゃ、エミル。ユーリカがドン・シンテンの大迷宮に向かったのは知ってるのか?」
エミルはビックリした顔をした。
「あの子あんな場所に向かったの!? 個人的緊急クエスト行ってくるとは言ってたけど……いま、あそこヤバいんだよね」
「ユーリカちゃんの実力でも危険ってことぉ?」
サリーナの眉が下がっている。
「うん、Sクラスの魔物がうじゃうじゃ湧いて出てるらしいよ。魔王城に対策本部を設置してたもん」
エミルは両手を大きく広げてブンブン振り回している。
ちなみに魔族と魔物は全く関係のない種族で、
・魔族……人種のひとつ。特徴は体の色合いが様々で、魔力の扱いに長けている事。純血になるほど長命で、個体数がそんなに多くない。最近は結構色々な種族の血が入ってきていて、純血種は少ない。
・魔物……だいたい暴れん坊な生き物。迷宮など魔力溜まりから生まれるとされている。魔力溜まりから離れて、魔力が薄まり野良で繁殖したものは食用に適している。ペットや家畜用の改良種も多い。
というのが一般的な定義だ。
ドン・シンテンの大迷宮は魔王領の外れにあるから、あまり大量の魔物が発生すると領内に影響が出るわけだな。
「あれ、それってエミルは指揮取らないの?」
フラフラしてて大丈夫なのか。
「うぐ、ま、まあ私ほどになるとね! 優秀な部下が多いから……?」
「うーん? とりあえず、ユーリカを追ったほうがいいのか? 迷宮閉鎖中とかなのか?」
「んーっと、優秀な部下に聞かないとわからないかな……」
視線を逸らして尻すぼみで答えるエミル。
「お前本当に魔王なの?」
俺はジト目で聞いた。圧倒的に情報が足りないぞ。
「ほんとに魔王だもん! いいから一回魔王城行こうって! 情報ゲットしてから考えようー!」
エミルはダボっとしたローブから短い棒を出した。
「んしょっと」
カシャン、カシャンと音がするたび棒が伸びていき、小柄なエミルの胸元くらいまでの長さになった。
その杖のような物を両手で握り、ゴリゴリっと地面に俺たち3人を囲むように円を描いた。ケンケンパって遊びでも始めそうなイビツな円。
「魔法陣とか?」
ちょっとワクワクしながら俺が聞くと、
「ちょっと違うかなー、私範囲指定が苦手で、視覚化しないとウッカリ腕とか体半分とか忘れて転移しちゃいそうなんだよねー。円からはみ出ないでね! いっくよーお」
怖いから! と突っ込む間も無く、体が光に包まれた。
エフェクトカッコいいね!




