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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百四十二話 『不満一蹴』

「中々派手にやるじゃねぇの、広く浅く攻めるのは俺的には悪手だと思うがね」



 上空で胡坐をかきながらカムイは一言零す。眼下ではラーナフルーレが戦場と化しているが、特に目立つのが人形の群れだ。



「数だけはいるが、正直脅威とまでは言えないな……祭りのせいで一般人も多いが戦力だっていつもより多い、勇者だけで制圧出来る程度の雑魚だ」



「強めなのも数人、まぁこれは情報通りではあるんだけどね」

「肩透かしって感じなのは確かだけど、それでもお相手さんは自分の正義を今日まで強引に貫いてきた狂人集団なのも確かなのよ」



「正義ねぇ……つまらねぇ主張だぜ」

「どんだけ長く生きても、探求の果てを目指しても、そんなもんの答え何処にもねぇっつうの」



「流石エルフの英雄もんだいじ様は言う事が違うわねぇ、あのアホが聞いたらなんて言うか」



「あははって笑うに決まってら、あれこそ正義もクソもねぇ自分の我儘一本道だったじゃねぇか」

「人も魔物も悪魔も天使も神も仏も、結局気に食わねぇもんがあれば難癖付けて争う生き物なのさ」

「穏便に済むか悲劇になるか、当事者次第だよ」



「あーやだやだ年寄りはすぐ達観するんだから、じゃあ枯れたじじいは何をそんなに興味深そうに眼をキラキラさせてんのかしら」



「そりゃお前、弟子の成長に決まってんだろ」



 ケラケラと笑い、カムイは何処からともなく酒を取り出し口に含む。テイルは視線を落とし軽く泳がせてみるが、呆れたように溜息をついた。



「片や爆発シャボンに翻弄されて、片や人形兵の未知に誘われ……今のところ不甲斐なさしか見えないけども」



「お前の方こそ、防戦一方の子と技も理屈もありゃしない殴り合いじゃねぇか」

「特にあの子供には何を仕込んだんだよ、まだ若いのにおっかねぇ」



「暴力方面なんて仕込んでないわよ、私はちゃんとエッチで夢のある指導をね……」



「俺だってエルフ溢れる指導をだな……」



 口論が始まりそうになったが、自分達の修行の成果は今のところ発揮されず弟子達は見当外れの動きを晒していた。正直今の技量なら何事もなく制圧出来る筈なのだが、実力を問題なく発揮できる土台がまだ足りていない。



「あークソ、難しいもんだぜ教え導くってのは」



「そうよ反省しなさいよ、だからセシルちゃんを泣かせるのよ」



「お前にだけは言われたくねぇが、俺達全員から仕込まれたあいつには今になって同情するぜ」

「しかしそろそろちゃんとしてくれねぇと、師匠としての自信が無くなっちまうぞ」



「心配はしてないけど、特にスピネルはまだまだ子供ねぇ」

「嫌いじゃないけどね、意地になっちゃうところは」



 テイルの視線は、隔離され誰にも認識されない筈のスピネルに注がれていた。成人男性と少年の殴り合いという最悪の絵面だが、その実力は拮抗、いや、僅かだがスピネルが押していた。飛び散った血が手元や服を汚す中、アランは僅かにふらつき動きが鈍っていた。対するスピネルは子供とは思えぬ殺気を纏い、一切動きを鈍らせず猛獣のように襲い掛かる。



「……ッ……可愛げの、欠片も無い……」



「そういうの求めてるんなら、他を当たってくれません?」

「今も昔も、地獄を生き抜いて望んでも無いけど鍛えられてきたんです」



 地を蹴り、相手の拳をギリギリでかわし、スピネルは口を動かしながらアランに飛び込む。渾身の蹴りが顔面を捉え、アランの身体が後方に吹っ飛んだ。



「最近は夢の中でまで鍛えてるんです、正直あんたじゃ役不足」

「油断とかじゃなくて、小細工でも暴力でも、僕を泣かせるには足りねぇんだ」



「その物言いが、気に食わないんだよね」

「物語の主人公は自分だって、どんな困難もきっと超えていける、変えていける、そんな風に思ってるんだろう?」



「見当外れな考えを押し付けられても困りますが? 生まれて一度も思った事ねぇよんなこと」

「なんとかしたいってみっともなく足掻き始めたのだって、最近の事ですしね……つい最近まで僕は空っぽクソ野郎でしたよ」



「なら俺の言ってること、少しはわかるんじゃないかな」



「分かりたくもねぇからさっさと気絶してくれないかな」



 飛び上がり踵を落とすスピネルに対し、アランは両腕で防御。強烈な踵落としをなんとか受け止め、そのままスピネルの足を掴みぶん投げる。空中で態勢を立て直し、スピネルは難なく着地した。



「勇者なんてくだらない、そう思わないか」



「あ?」



「選別の時点でおかしいじゃないか、何が証だ、相応しくない者が当然のように勇者になる……明るみに出てないが魔物ですら勇者と認められる、選別の意味も無い」

「相応しくない者が形だけの勇者となり優遇され権利を主張し好き勝手するのも狂っているが、勇者として足りていない者が勇者になれた事実だけで分不相応な夢を見て、現実に否定され壁に屈し折れていく」

「上も下も、勇者という存在に振り回され腐っていく……クソな世界を更にクソにしているのは、勇者というシステムがあるからだ、そうだろう」



「そうだろうって言われても……」



「少なくても勇者って存在が無ければ、生まれなかった歪は存在するはずだ」



「……まぁそうかもですね、でも勇者が居たから生まれた希望もありますよ」

「夢も希望もなかった僕から言わせて貰えば、正直どっちでもいいですけどね」

「希望も絶望も、歪があろうがなかろうが、最後に前を向けるかどうかは自分次第だ」



「……勇者に狂わされた者、勇者となり狂った者、彼等の無念を見ないフリは……」



「自分の不満を世界の主張みたいに言ってて恥ずかしくねぇのか、良い大人がさ」

「それはお前の意見だろ、皆がお前と同じ考えなわけがない……でっかい盾を構えなきゃ口も利けないのか弱虫め」



「…………ッ」



「あんたは自分が失敗したから、何かのせいにして駄々こねてるだけだろ」

「『分別』のアラン、二つ名持ちの元専属勇者だろう……何処の国か知らねぇけど、未練がましく二つ名を名乗っておきながら勇者がどうの正義がどうの……格好悪いな先輩っ!!」



「…………未練じゃない、覚悟だ……決して忘れないように、俺達は名を背負ったんだ」

「俺達はこの名を与えた国を滅ぼし、正義を掲げた、二度と歪まぬように、あの方と共に真の正義を掲げたんだっ!」



「大口叩くなら、誰かの威を借りて喋るなっ!」



 再び拳を交わすが、もはや威力が違う。アランの身体は限界を迎え、スピネルの言葉で動揺したのかさっきよりも動きが悪い。一方スピネルは殴りつける度に勢いを増し、衰えるどころか速度も火力も増していた。



「この、猛獣め……勇者に相応しく……」



「生憎、勇者らしくなんざ一度も考えたことねぇんだよ!」

「百歩譲って考えたとしても……それを一々誰かの評価に当てはめる事はしねぇし……テメェの難癖なんざどうでもいいっ!!」

「一々細けぇことばかり考えて、このクソみたいな世界生き抜けるかっ!!」



 顎を蹴り上げられ、アランの動きが完全に止まる。その無防備に、身体を回転させ勢いを乗せたスピネルの蹴りが突き刺さる。



「つまらない捻くれ方する前に、それが時間の無駄だって気づくべきだったな」

「何かを変える権利は、勇者しか持ってないわけじゃないんだよ」



「持っている奴が言ったところで……無いものの気持ちはわかるまいよ……!」



「何にも無かった僕に全部をくれたのは、勇者じゃなかったアホなお兄さんと、同じように何も持ってなかった変態お姉ちゃんだったよ」

「あんたの過去は知らないし興味もねぇけど、いい加減くだらないのは勇者じゃなくてそれに振り回されてる自分だって気づけよ」



 その言葉で、アランの中の何かが途切れた。信念も誇りも、掲げた正義も、その言葉でへし折れた。アランは残った力を振り絞り、スピネルを自分から隔離する。背を向け、逃走を図る。自分が負ければ全ての隔離は消える、この場から排除したクロノの力も戻る。意地を通すのはここまでだ、自分が負ければ無力化の手段が消える、自分にはまだやる事がある、役立てる事がある、ここで終わるわけにはいかない。ここで負けたら、本当に自分はくだらない馬鹿野郎だ。間違いを認めてしまったら、本当の意味で愚か者だ。



「貫く、貫き通す……俺の正義は、俺達の正義は……っ!!」




「受け止めもせず、受け入れもせず、見ないフリで隔離を繰り返す、しまいにゃ逃げる……自分の意思を俺達、俺達と集団の意見と塗り固め、振りかざす……!」



 聞こえない筈の隔離した声が、後ろから聞こえた。隔離した筈の全てが、元に戻る。自分の力が、自分じゃない奴に勝手に干渉され解除されていく。



「単純に格好悪いんだよ、お前さ……」

「好き放題抜かしたいなら、せめて目を離してんじゃねぇぞカス」



 背後からの声が、さっきより低い。鬼のように強かった少年の姿は、いつのまにか自分と同じくらいの姿に成長していた。双剣を拾い上げたそいつは、馬鹿みたいな速度で距離を詰めてきて……。




「我流奪命剣・”阿修羅飛鳥あしゅらひちょう”」




 馬鹿みたいな連撃で、意識を刈り取ってきた。薄れていく意識の端で、怪物の姿が元の少年の姿に戻るのを見た。



「血を摂取する必要があるのは面倒ですが、こういう泥臭い戦いになるとその手間もいくらかマシですね」



 額から垂れてくる自分の血を舐めとり、更に拳に付着したアランの血を舐める事でアランの能力に干渉、結果として隔離を全解除した上で強烈な追い打ちを叩き込めた。まさか小技で能力を掻い潜ってきた小賢しいクソガキが、血さえ摂取できればいつでも能力を解除できるとは思うまい。



「これでクロノお兄さんも役立たずから昇進するかな……奥の手は取っておくものですしここからが本番だよね」



 温存していた奥の手で敵を破ったスピネルだったが、自分の言葉で少し思い当たるモノがあった。奥の手は取っておくもの、なら敵も取っておいている可能性がある。無様でも、愚かでも、アランは最後まで何かを信じていた。信じるに値する、無法が敵にもあるのなら……。



「……敵の奥の手は、さぞ大層なんでしょうね」



 昔から、自分の悪い勘は良く当たる。その勘が油断禁物の警報を鳴らしていた。



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