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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百三十八話 『想定外、想定内』

「おらぁっ!」



「っ!」



 リンクヘッジの拳がナプタを襲い、そのまま回し蹴りでカラナリを掠める。二体一でも優勢なのはリンクヘッジの方だった。



(こっちの能力が何の縛りにもなってないし、シンプルに戦闘力高いなこのヤンキー……)



「周りの一般人を巻き込んでやりたいところなんだけど、困っちゃうくらい厄介な勇者だなぁ」

「なんか明らかに誰かを庇う時動きが早くなってなーい?」



「そりゃそうだろ、さっさと動かねぇと守れるもんも守れねぇ……何の為に勇者やってると思ってんだボケが……俺の前で悪事を働けると思うんじゃねぇぞ」



 理屈になっていないが、とにかく圧倒的なフィジカルが厄介すぎる。中央広場での戦闘で周囲には戦闘力皆無で逃げすら封じられている一般人だらけだというのに、ナプタとカラナリはどちらも完封に近い形で抑え込まれていた。



「デバフ役が表立って出てきてる時点で、お前等調子に乗り過ぎなんだよ」



「言い返す言葉もないねぇ、お兄さん困っちゃうよ」

「ってことでカラナリ君、ここは一つ大人な対応って奴で」



「気に食わないが……仕方あるまい」



 溜息を一つ残し、カラナリは背を向け走り出す。つまり、逃げ出した。



「おいこら待……」



「いやね、いかせませんって……大人はこういう痒いところに~って感じの仕事を積み重ねるもんなんすよ」

「祭りの異常性が高すぎて本来の予定とズレちゃったわけで、ならこっちも臨機応変に立ち回らないとね」



「デバフ役を下がらせますってか? そりゃあいつを落とせば状況が大きく変わるって言ってるようなもんだぜ」



「そうね、カラナリ君は大事な大事なキーパーソン……彼さえ居れば枷は生き続ける」

「己の最重要、確固たる志、生きがい、欲望、胸に宿りし大事な大事な一本槍、その全てが枷となる……己のルールが鎖になる……都合の良い事にお兄さん達の最優先討伐対象である大罪の悪魔は、固有技能スキルメントをお祭り中自ら縛ってくれちゃってるわけで」

「お兄さんは優先一位を強制させる、一位は誰もがお兄さん達への対処だろう……そしてそれはカラナリ君の力で反転する、大罪はお兄さん達に手出しできない……しかも自慢の力を自分で縛ってる……不利に不利を重ねて苦しいだろうねぇ」



「……よくもまぁ喋りやがるぜ、付き合いが長いわけじゃねぇが……俺が見た限り大罪の悪魔ってのはそう簡単に推し量れる存在じゃねぇぞ? 思い込みは事故を招くと思うが」



「ご丁寧にどうも、ついでにサクッと倒されて貰えるとありがたいんだけど」



「そりゃ無理だ、俺は専属勇者だからな」

「優先強制のお前も立派なデバフ役だ、拳で黙らせる事にする」



「やーね働き者って、でもでもお兄さんも一応勤勉を背負ってんだよね」

「それぞれの正義ルートがあるんだ、衝突事故もしゃーなしだよね」



 文字通り真正面からぶつかり合う両者、その衝突音を背にカラナリは路地裏へと逃げ込んだ。するすると細い道を抜け、外周近くで一度止まる。



(反転の能力は俺に近いほど効力が強まる、国の中心から動きたくなかったが……脳筋一人に押しやられて情けない話だ)



 だが優先は能力を切らさない事、自分の意識が途切れると能力も切れてしまう。言ってしまえば自分の仕事はやられない事だ、安全第一で能力の鎖を巻き続ける事だ。あんな頭空っぽのイレギュラーなんてそうは居ない、普通の感性をしているならこちらへの攻撃自体が不可能なのだ。こちらを危険視して優先度を上げれば上げる程、ナプタと自分の能力にハマって戦闘が不可能になる。



「想定外のアホが居ない限り、この盤面はひっくり返らない……丁度外周近くに来たんだ、予定変更で外側から落としていくか……」



 既に、こちらの作戦は次の段階に移行しつつある。その証拠に、外周の方から声が上がっていた。



「なんだこの人形! 何処から湧いてきやがった!?」



「雪像造りとか言ってる場合じゃねぇ! これも神聖討魔隊サンクチュアリナイトの仕業か!?」



 マネキンのような人形が大量に地面から這い出し、雪像造り中の馬鹿共に襲い掛かっている。この人形は意業のマナスが操っているもので、土魔法で量産しているモノだ。ただの無機物故優先強制や反転の影響を受けず、同士討ちの危険がない使い捨ての特攻兵である。能力や行動を縛り、人形兵の数の暴力で押し潰す。多少の誤算はあったが、ここまで当面の予定通りに進んでいた。そして、特大の誤算がカラナリを襲う。数多の魔術が炸裂し、人形兵が空高く消し飛んだ。そして千切れた人形の右腕が、壁をぶち抜きカラナリのすぐ近くに着弾する。



「…………は?」



「能力使うなってさ、別にいいよそんなの……縛りプレイ上等だよ勝手にしてくれどうぞどうぞ」

「優先強制? やりたいことやって何が悪いんだっての歓迎するよ好きに生きるの大得意だしさぁ」

「で? やりたいことやったもん勝ちのこのご時世に? それだめーって縛り付けて得意顔晒してんだふーん良い性格してんじゃんね……これでも才能溢れるエリートだった時代もあんだよこっちはさぁ」



 竜巻のように巻き上がる尋常じゃない魔力、一度に幾つの魔法を同時に使用しているのか見当もつかない程、目の前に魔術の暴風が吹き荒れている。その中央に坐するのは、『怠惰』を節制されし悪魔。



「よくも俺から、サボることを取り上げたなぁ…………秒殺してやるよ、正義マン共……」



「なんだこれは、悪夢か……?」



「現実だよ、昼寝すら出来ねぇ身体にしやがって…………楽に脱落できると思うんじゃねぇぞ」

「お望み通り、悪行の限りを尽くして潰してやる……!」



 怠惰チームの大勢がドン引きする中、蹂躙が始まろうとしていた。誰も想定していなかった虐殺が裏で繰り広げられている頃、大量の人形兵とシャボンの物量に切り札ことセツナはしっかり追い詰められていた。



「ぬわーっ!!」



「セツナこっちだ! 急げ!」



 レラとアズは風でシャボンを弾きながらセツナ以外も庇い続け、中々攻勢に出られない。ロスはセツナしか守らないし、頼みの大罪は踏ん反り返っていてクソの役にも立たない。



「おい! リーダー! 傲慢の悪魔さん!! 動け! 戦え! なんとかしてくれっ!」



「貴様、誰に命令している?」



「必要なら頭でもなんでも下げるよ頼むよお願いしますよ! 今こっち手が塞がってんだよ!」



「素直に大変ですね! 向こうの手数が多くて触手が足りません!!」



「ふん、無様な」



「味方にヘイト溜まるわーっ!」



 人形兵は数が多いが強くはない、だが次から次へと地面から生えてきてきりが無い。しかもシャボンで自滅するのもお構いなしに突っ込んできて邪魔すぎる。屋根の上からシャボンを大量に飛ばしてくる女から何とかしたいのだが、全然近づけない。



(しかもこのシャボン……爆発したり溶けたり焼けたり凍ったり……しまいにゃ魔法を曲げたり跳ね返したり見た目同じなのに効果が多すぎて手に負えない……!)



 多くの効果を宿すシャボンを、ただの一息で数百一度に放ってくる。しかも自在に操られ、全方位から飛来する地獄絵図だ。



「いぇいいぇーい! 盛り上がってますかー!? お好みございますかー!?」



「爆発しないやつーーーーーーー!!」



「爆発しない奴入りまーす! どーれだっ!」



「お好みに応じろーーーっ!!」



「出来るだけ応じるとは言った、しかし本当に応じるかは私様の自由なのだ……」



「なんだあいつっ! うおわああああああああああああああっ!」



 目を離すとセツナがシャボンの波に呑まれかける、一瞬でも気を抜けば押し潰されかねない物量だ。



「クソ! そもそもなんで監視の目を抜けて国の中に入り込んでんだあいつらは……!」



「エルフの癖にそんなこともわからんのか、情けない」



「あんた偉そうにしてるけど現状口だけだぞっ!! 自慢の能力でなんとかしてくれよ!」



「催しの最中我等は能力を封じている、一度課した己の枷を自ら外す事はしない」

「能力、そう能力だ……そこの愚図切り札、固有技能スキルメントの強さはどう決まる?」



「この状況で何言ってんだ! 私に答える余裕があるように見えるのか!?」



「死にたいのか?」



「わかんないよぉ! わかるのはこのシャボン玉超怖いって事だけだよぉ!」



「そもそもたかがシャボン玉だ、本来殺傷力などないだろう……なぜお前を恐怖させる?」



「爆発するからだよ危ないんだよ!!」



「なぜ爆発する」



「…………あの女がそういうシャボンにしてるから、だろう……」



「そうだ、そう思っているからだ」

「能力なんぞ、使い手の『思い込み』が全てだ」



 ツェンの言葉に、レラはゾッとした。そんな考え方で全てが説明付くのなら、それこそ何でもありだ。



「マルスの浄罪は、マルスが悪と、罰と、邪と定めた物を裁く、それこそ思い込めば、正義も悪も奴の基準次第……レヴィの天秤もミライの効果対象も、何もかも使い手の思い込みで変動する」

「此度の監視の目も、監視者の基準で張られた網に過ぎない……奴等が自らを悪と欠片も思っていないのなら、容易くすり抜けられる」

「自らを正義と信じてやまぬ異常な思い込み集団なら……監視などあってないようなもの……思い込みが能力や在り方を何処までも肥大化させ己の力を引き上げる」

「異常者を相手取るなら、相応の覚悟を持て……呑まれるな愚か者共」



「あはは! 偉そうに語ってるけど隙だらけだよ! 大罪さん!!」



 シャボンが大量に舞い上がり、滝のようにツェンの頭上から降り注ぐ。ツェンが指で小石を弾き、その全てを一撃で消し飛ばした。



「はにゃ……?」



「二度言わせるな、異常者を相手取るなら相応の覚悟を持てと言ったぞ」

「娘、お前の前に居るのは思い込みの末堕ちた怪物だぞ」



 爆風が周囲を吹き抜ける中、ツェンはゆっくりとした動作で小石を拾う。そしてゆっくりと構え、シャボン娘目掛け小石を軽く弾いた。咄嗟に動こうとした娘の姿が、虚空に刻まれた道に吹き飛ばされる。弾かれた小石が、風穴を開け爆風を巻き起こす。吹っ飛ばされた小娘の身体は、無様に屋根の上からセツナ達の前に落っこちてきた。



「い……たぁ……!? な、なに……何が……!」



「地に堕ちてもまだ頭が高いな……」

「後はお前達が片付けろ、雪像造りも残っているのだ早くしろよ」

「祭りの席だ、退屈させるな?」



(とんでもねぇ化け物だ…………)



「…………思い込みで強くなれるなら、私は思い込むことにするぞ」

「私は凄い切り札だ! 今回だってなんとかなる!」



「いや、貴様はアホな切り札だ」



「なんなの!? やっぱり無理だ! 助けてクロノーーー!!」



 虚勢が1秒も持たないセツナだったが、実のところ今ピンチなのはクロノの方だった。なんせ、大吹雪の中を一人で彷徨っているからだ。



「クソッ!! 何も見えないしクソ寒いし! 感知に何も引っかからない!!!」

「どっちだ!? ラーナフルーレはどっちだ!」



 雪花吹雪が吹き荒れている以上、ラーナフルーレの近くなのは間違いない。だが吹雪が強すぎて視界は完全に潰れていた。素の感知力では何も引っかからないところを見るに、そこそこ離れているのは間違いない。精霊と協力してフルパワーの感知をしたいところだが、それもまた問題だ。



(リンクできない……精霊の力は内側に感じるし、声も微かに聞こえるのに……壁を感じる、隔たりがある……!)



 クロノは敵の能力で物理的に遠くに飛ばされ隔離されたが、実は触れられた際に肉体にも細工をされていた。精霊を自身から隔離され、一時的にリンクを封じられていたのだ。



(これが一時的なモノだって感覚的には分かるんだけど……リンク無しの俺の水の自然体で断ち切れる程ヤワな力じゃない……となると自然に解除されるまでは結構かかりそうだ……)

(敵襲があったのは間違いない、こんなところでリンク無しの状態でちんたらしてる場合じゃないんだ……すぐ戻らないと……落ち着け落ち着け、闇雲に動いても迷うだけ、この吹雪の中じゃ最悪凍死じゃないか!)



 焦りを抑え込み、なんとか冷静さを取り戻す。自分の内側から精霊達の声が微かに聞こえるが、何を言っているのかさっぱりわからずもどかしい。とりあえず心配半分、小言半分くらいの割合だろう。とりあえずこのまま対策無しでは確実に凍え死ぬので、クロノは左手で火球を生み出し暖を取る。



 吹雪の中炎の熱が身体を温め、思考が和らぐ。そして僅かな明りが周囲を照らし、吹雪の中に佇む巨影を照らし出した。クロノの三倍近い巨体が、馬鹿でかい斧を振り下ろしてきた。ギリギリで上体を逸らし直撃を避け、地面が砕け散る勢いを利用し後方に飛んだ。精霊を封じられた状態で、どう見ても雑魚じゃない相手が襲い掛かってきた。



「…………道を聞きたいんだけど、話通じるかな?」



「安心しろ、テメェの道はここで潰える……帰る場所とか考える必要はねぇ」



「安心したよ、会話は出来そうだ…………俺はクロノ、あんたは?」



神聖討魔隊サンクチュアリナイト……『忠義』のブリッツクロス」

「正義の許可が下りた、お前はここで殺す」



「物騒なことで」



 もう一度言う、今はセツナよりクロノの方が大ピンチだ。



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