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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第五十五章 『雪花が彩る正義の形』
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第八百三十七話 『狂気を上げて』

「なんだろ……違和感が……」



 身体に張り付く妙な感覚、思考とずれて動いているような違和感、クロノは雪を集めながら周囲を見渡してみた。妨害も落ち着き始め、周りも他のチームも雪像造りに集中しているようだ。だが、なんて言うのか急に変わりすぎだというか、この光景に薄い強制力を感じてしまう。何より、水の自然体でも正確に感じ取れているわけじゃないが、薄い何かが身体にへばりついているような嫌な感覚が確かにあるのだ。



「なにぼーっとしてんですかお兄さん、四種の力を使いこなして馬車馬のように動き続けろよ」

(訳・雪像が形になってきてます、楽しいですね!)



「あぁ悪い、なんかちょっと気になってさ」



「……お兄さんがそういうとフラグに聞こえるんですよね、縁起悪いんで死んでください」

(訳・お兄さんがそう感じるなら無視できないですね、警戒した方がいいかも……)



「この薄さで気づくとか、やっぱ一番危険なのは君だよね」

「有害なんだよ、だから隔離するんだ」



 その声がスピネルの耳に届いたのと、目の前にいたクロノが消えたのは同時だった。同じチームで、さっきまで雪をせっせと集めていた男が唐突にクロノの肩に触れ、その姿を消し去った。気づけなかった、敵意の欠片も、それどころか今視界に入っているのに気配が殆ど無い。紛れ込んでいる筈の無い場所に、それでも潜んでいた敵の存在。即座に双剣を抜いたスピネルだったが、抜いた筈の双剣が音を立てて地面に落ちた。



「!?」



 動揺より早く態勢を低くし剣を拾おうとしたが、剣に触れない。触る、拾うという行動を、自らが拒絶していた。



「これ、は……!?」



「その剣を君から隔離した、もう触れる事は叶わない」

「今まで人々の認識から俺自身を隔離していたわけなんだが、さっきの危険人物を飛ばすには直接触れて集中しないと無理だったからね、ずっとさっきの子の周りをうろちょろしてた君にはやっぱり見られてしまった」

「けどまぁ、重要なお仕事はこれで成功ってことで」



(落ち着け、情報を整理しろ……お兄さんは『隔離』された、恐らく近くに居ない、飛ばされた……けど大丈夫、絶対なんとかする……剣も『隔離』されて拾えない、こいつの力は言動から隔離する力、物体、それに認識、存在すら隔離する……現に今こいつの存在に気づいてるのは僕だけ、周りの人は誰もこいつに目を向けない……)

(一度存在を認識した奴から意識を隔離するのは難しい、もしくは条件がプラスされる……? とにかく今こいつをどうにか出来るのは僕だけ……状況から考えてこいつはまず間違いなく、神聖討魔隊サンクチュアリナイト……推定八人の敵の一人か……!)



「子供ながらとんでもない殺気だな、君もまた危険だ」

「特に今、この国は正義ルートが定められている……俺への攻撃行動が縛られていないって事は、君はそれが第一優先度なんだね、怖いなぁ」



「グチャグチャうるせぇな不審者が、今すぐそのお喋りな口から目的とか狙いとかお兄さんの行方とか吐かせてやるから覚悟しろよっ!」



「己の正義ルートを突き進む姿は美しい、ナプタ兄はそう言うけども……」

「それを否定する姿ってのは、残酷と言えるんじゃないかねぇ」



 違和感はあった、だけどそれは薄い物だった。融通が利かないが、言葉にするなら『やりたいこと、大事な事』は出来た、身体は動いた。だけど今は違う、やらなきゃいけない事、最優先で頭に浮かぶ事、それらに対し強烈な強制力が働いている。飛び掛かろうとしたスピネルの身体が、前に出れない、動けない。『戦いたい』のに、『戦えない』。




(…………目の前のこいつじゃない……別の能力……!!)




 見れば周囲にも異常が出ていた、雪像造りに精を出していた周りの人々の動きが止まっている。



「やりたい事にせっせと取り組む奴等の背を押して、途端にそれを封じるなんて残酷だよなぁ」

「勘違いしないでくれよ坊主、俺はみんなみたいな正義馬鹿じゃねぇんだ、一般的な感性って奴よ」



「一般的な感性の奴は祭りに忍び込んでテロ行為なんざしねぇんだよボケ」



「大人はお仕事には逆らえないのです、金貰ってんだ気合い入れて働くさ」

「祭りの為とはいえ戦力の大部分は国の外周……やりやすくて助かるねぇ、俺達を誘き寄せるって狙いが見え見えだけど……こうも上手くやられてて大丈夫そう? 迎え撃つ準備とかしてないわけ?」

「好き放題やられてるけど……色々守り切れそうかな?」



「口数多い三下ですね、安心してください」

「ここは、最高に狂ってるんですよ」



 その頃、セツナの居る傲慢チームも敵と思わしき何かの襲撃を受けていた。敵の姿は見えないが、雪に混じってシャボン玉のようなものが沢山どこからか流れてきたのだ。そしてそれは、当たれば高確率で爆発していた。



「ぎぃやああああああああああああああああああああああああっ!!」



「なんだなんだまた他のチームからの妨害か!?」



 ロスに引っ張られながら無表情で絶叫するセツナと、その後方で大量のシャボン玉を風魔法で弾くレラ。急な攻撃で周りは半パニック状態だ。



「皆さん僕の後ろへ! びゅびゅっと僕が風と触手で弾いちゃいま、ッ!?」



「アズどうしたあああああ! ロスと一緒に是非この切り札を守ってく……アズッ!」



 アズの肩から変な煙が出ている、どうもシャボン玉が一発掠ったらしい。咄嗟に駆け寄ろうとしたセツナを、ロスが制する。



「近づいちゃダメですセツナちゃん、透明なシャボン玉が混じってる」

「ロスちゃん、セツナちゃんを守ってください……このシャボン玉は明らかに人が操作してる」

「多数の爆発するシャボンに紛れて、幾つもの違った効果のシャボンがあるみたいです、この肩、溶けてます」



(明確な殺意……妨害の度を越えてる……つまりこいつは……!)



「不敬である」



 レラの思考を切り裂くように、傲慢の悪魔が呟いた。さっきから雪像造りに全く手を貸していなかった傲慢だったが、その視線は鋭く建物の屋根の上に向けられていた。レラもようやく確認する、屋根の上で楽しそうにシャボン玉を大量生産している女の姿を。



「誰を見下ろしている、娘」



「ありゃ? バレちゃった」

「それでは皆様、お好きな死因をどうぞ? 出来る限り応じるよ」



 どうやら、話は通じそうもない。レラは刀を構え直し、状況の変化を受け入れた。想定とは違う形で、始まってしまったようだ。明らかな異常はカメラが捉え映像はしっかり中央広場に流れている。人々がざわつく中、ナプタは仲間の一人と合流していた。



「やあ無事合流出来てお兄さん嬉しいよ」



「どうして持ち場、離れてるの」



「ちょいと視線を感じてね、まぁ我等が絶対正義が対応してくれたから問題なしさ」

「しかしこうも簡単に懐に潜り込めちゃうと、毎度の事ながら力抜けちゃうねぇ」

「すぐここもパニックになる、みんな逃げ惑う事になる……みんなの正義ルートは逃げる、避難に固定され……」



「その優先は、反転する……我等の掲げる正義の前に、皆等しく跪く」

「何も守れず、理から外れた愚者は潰えるのさ」



「物騒な話してんなぁ、羽目を外すにしてもやりすぎだ」



 後方から声をかけられ、神聖討魔隊サンクチュアリナイトの二人はゆっくりと振り返る。そこに立つのは、専属勇者のリンクヘッジだ。



「なんで気づけたのかなぁ?」



「俺には優秀な弟子がいてな、先ほど魔法で危険を知らされた」



 レフィアンは戦闘を強制され、師の元へ離脱が叶わなかった。だから敵に向かって闇魔法を放ち、わざと外して後方まで飛ばし、遠隔操作で曲げて師の元へ攻撃を届けた。師のすぐ近くの地面に襲撃とだけ刻み、思いを託したのだ。



「可愛い弟子が緊急事態を訴え、そのすぐ後に気配の無い人影が二つ生えてきやがった……これを見逃す専属勇者さんじゃないぜ」

「俺は『礼儀』の勇者リンクヘッジ、お前等は敵で間違いないな?」



「あーあ、簡単に済むと思ったのにそう上手くはいかないねぇ……」

「『勤勉』のナプタさんだよ、宜しくね」



「『節制』のカラナリ、君の敵だ」



「なら安心して殴れるってわけだ」



「気合十分なところ申し訳ないけど、それは無理だと思うよ」

「お兄さんの能力はね、対象の一番やりたい事、やらなきゃいけない事を強制させる力なんだ」

「例えば専属勇者さん、今君は俺達への対応を第一に考えてる……逆にそれ以外は出来ない状態……まぁ今の状況ならそれだけなら問題ないだろうけどさ」



「私の力は優先順位を反転させる、人の欲望の最も強い所を捻じ曲げる」



「お兄さんとカラナリ君の力を同時に喰らえば、最も重要視する事だけを絶対に行えなくなる……君は世の為人の為に身を粉にして働いてきたんだろうけど……今の君は僕達と戦えない、人を守れない、専属勇者として何一つ成せはしない……君は君の正義に対し反する事しか…………ぼぐぇ」



 その先の言葉はリスクヘッジの拳に遮られ、ナプタは殴りつけられ後頭部から地面に叩きつけられた。絶対に有り得ない攻撃に晒され、ナプタはほぼ無抵抗、カラナリも殆ど動けず目を丸くしていた。



「…………お前、優先順位がどうなっているんだ」



「ごちゃごちゃうるせぇんだ、何が優先順位だ、反転だ正義だ、バカバカしい……」

「人助けする時にんな細かい事考えてねぇよ、身体は勝手に動くもんだろ」

「本質は、根っこは、メンコみてぇに簡単にひっくり返らねぇ……テメェ等の正義ってのは随分薄っぺらいなぁ!」



「あぁ、お前みたいな馬鹿が一番厄介だ」



 広場の中央で戦闘が始まり、周囲に動揺が広がり始める。しかし当初の想像通り、ナプタとカラナリの能力のせいで周りの人達は逃げる事を封じられている。



(この男さえ退かせれば……何の問題も無い)

「立てナプタ、二体一だ」



「痛たた……ぶっ飛んだ勇者ですこと……」

「けど可哀想にねぇ、一部の異常者に巻き込まれた一般人はさぞ怖いだろうに…………ん?」



 逃げを封じられその場に立ち尽くす人々の顔には、確かに動揺や焦りは見られた。だけど、今まで襲ってきた人々とは何か違う、明らかに恐怖の色が少ない。どこか、覚悟に近いものを感じる。



「魔物絡みのイカれた祭りを見に来てんだ、どいつもこいつも相応の覚悟くらいキメてきてるさ」

「それに何より、お前等の襲撃も全部想定内だ……どんだけ荒らしてくれても構わねぇ、全部守り切ってやろうじゃねぇか」



「何を…………」




『さぁさぁさぁさぁっ! 予定通りやっぱり来たぜ来ました来やがりましたぜっ! 正義の執行人、神聖討魔隊サンクチュアリナイトのお出ましだぁっ!』




「…………は?」




 響くのは実況の声、国中に轟く轟音で名指しされたのは襲撃者の総称。



『魔物絡みのこの祭り、悪と定めて裁きに来たぜ予想は的中! ガンギマリでカチコミ仕掛けて参りましたぁっ!』

『魔物や悪魔が何でもありで祭りで滅茶苦茶するのは悪か正義か? 何でもありの正義野郎が正しいか? そんなの誰にもわからねぇ! だったらこの場を借りて決めようぜ、真っ向勝負だかかってこい! 祭りの熱に酔った大馬鹿野郎共! テメェ全員が見届け人だ! 見て決めろ、感じて決めろ! 正義か悪かはお前等が選びやがれっ!!』

神聖討魔隊サンクチュアリナイトッ!! 正義を語るなら存分に暴れてくれや! 祭りの席で派手に受けて立つぜっ!!』

『正義決定戦第一フェーズ雪像サドンデス! 七チームの雪像造りを神聖討魔隊サンクチュアリナイトがメタクソ妨害してくるぜ! さぁ勝つのはどっちだ見届けろおおおおおおおおっ!!』




「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」



 沸き立つ観衆、煽る実況、この異常者共、襲撃者を祭りに巻き込みやがった。



「…………正気か…………?」



「お前等は誘い込まれたのさ、この狂気の宴にな」

「泣いても笑っても、祭りの勢いは止まらない……お前等が正義を語るなら、逃げたりしないよな?」



「引くわぁ……しかもこの勇者さん煽りやがる」

「こんな正義ルートは流石に想定外なんだよなぁ……!」



 異様な熱気に包まれる国を眺め、絶対正義は目を細める。そのすぐ近くには、血を流すレフィアンが膝をついていた。



「…………確実に仕留めたと思ったのに、こっちを狙った魔法は中央広場に飛んでいくし……私の剣は変に曲がるし……順位変動の能力者はそっちにもいたのね」



 吹き飛ばされていたラックが咄嗟に能力を発動し、ルーチェの攻撃の軌道をずらす。そしてラサーシャが槍をレフィアンに飛ばしなんとか剣撃から急所を庇った。友人二人の援護により、どうにかレフィアンは即死を逃れていた。



「無事で何よりですが……その傷は浅くないようですね」



「無事で何よりは此方の台詞、一撃で吹き飛んだ時は肝を冷やしたぞ」



「こいつ滅茶苦茶強いぞ、どうする!?」



 ラックとラサーシャがすぐ隣まで戻ってきたが、戦況が好転したとは言い難い。ルーチェには恐らく何かしらの能力がある、それを解かない限り此方の攻撃は通らないような気がする。



(だが……我の読み通りなら、多分ルーチェの次の行動は……)



「…………民衆の眼すらも利用して、真なる正義を見定める……か」



「自信が無いのなら逃げてくれても構わんぞ、今後一切正義を語る資格を失うがな」

「悪しき存在と散々下に見ていた者を相手に、まさか天下の神聖討魔隊サンクチュアリナイト様が逃げたりはせんだろうなぁ?」



「あのレフィアンさん、そんな煽りに乗るような相手じゃ……」



「…………受けて立つわ」



「え」



「何故なら正義は我等に在り、私こそが正義なのだから」



(正義云々はともかく……ルーチェは昔から変に負けず嫌い……一本槍を貫き通すならここは絶対逃げたりしない……いける、時間は稼げる……!)

「なら、存分にやり合おうじゃないか……友よ……!」



「正義は必ず勝つ、絶対を示しましょう」



(必ず隙を見つけ出し、我がルーチェを止める……!)



 全てを巻き込み、祭りを舞台に最高に狂った戦いが幕を開ける。雪が飾る中、祭りの熱狂は止まらない。



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