第七十八話 『5年の遅刻』
セラスがこの桜の木に宿ったのは、今から1300年以上前の話だ。まだ村の影も形も無かったそこに、静かに佇む桜の木をセラスは一目で気に入ったのだ。
それからずっと、この辺りの移り変わりをこの木と共に見てきた。人が集まり、村が出来て、随分と賑やかになった。何人もの人が、桜を見て綺麗だと笑っていた。それが凄く嬉しかった。お礼を言いたいくらいだった。
だけど、それは無理な話だ。セラスは自分が何なのか分かっている。自分は魔物だ、勿論敵意など持っていない、出来れば仲良くだってしたいのだ。
もし、人間達の前に姿を現せばどうなるか……そんな事を考えるようになった。村のシンボルとまで言われるようになった桜に、魔物が宿っていると知れば……。
(最悪、切り倒されるかも知れませんね……)
そうなれば自分は死んでしまう、流石にそれは嫌だった。自分と一心同体の桜を褒めてくれてはいても、その言葉は自分に向けられた物では無いのだ。お礼も言えない、『綺麗と言ってくれてありがとう』その一言を伝える事もできない。
長い年月が、セラスを苦しめていた。話しかけたい、仲良くしたい、そんな気持ちが、セラスの姿を人に近づけた。長い年月で得た魔力により、人間化が可能になったセラスは、ついに人の姿で木から離れた。
最初は人が居ない隙を見て、木から出てみた。上手く人の姿になれているのかも分からない為、ビクビクと自分の体を確かめていた。ゲートに出会ったのは、その時だ。
(うああああっ! 人間さんが近づいてきてるですっ! 早く木の中へ……)
ワタワタと木に向かって走るが、いつもと足の形が違うからか、思いっきり転んでしまった。そのまま木にぶつかり、尻餅をついてしまう。
「? 大丈夫ですかー?」
「うっ…………だ、大丈夫ですよー?」
(大丈夫じゃないです……痛いです……)
初めての人間との会話だ、相手の反応を見るに、人間化に問題は無いらしい。魔物と気が付かれない様、変な事を言わなければ大丈夫だ、きっとばれない。
「どうしたんですか? なんか慌ててますけど」
「い、いや、そんな事はまったく無いですよ」
「あああああなたさんこそ、こんな場所まで何用でででです?」
(いやああああっ! 平常心を欠片も保ててないですっ!)
嫌な汗が出てきた、このままでは怪しまれる。
「今日からこの村でお世話になることになった勇者なんですけどね、村の名物の桜を見に来たんですよ」
「咲いてないのが残念ですけど」
「あーそうなんですかーそれは残念でしたー」
(出来るだけ自然に……怪しまれないように…………ん、桜を……?)
桜とは、言ってみれば自分の事だ。自分の事を喋りたくなるのは、当然の事だ。
「いつ頃、咲いてるのが見れますかねぇ」
(うーん、今の状態からして……)
「後1ヶ月と23日です」
「え、分かるんですか?」
「そりゃ自分の事ですし」
(分からないわけないですよ、当然の事で…………はっ!?)
「へ?」
(やばいですっ! これでは完全に……誤魔化さないと……!)
「あ、いや、えと、その……自分の事のように知り尽くしてますからね! この桜の事は!」
顔が真っ青になるが、何とか誤魔化す。
「へぇ、凄いですね」
「桜、好きなんですか?」
(好き? そりゃ一目惚れでしたね)
「そりゃ好きですからこの木に決めたわけですし」
「え、何をです?」
(何をって私の宿る……またやったですーっ!?)
「あーえーうー…………む、村の名物に、です」
「? あなたが決めたんですか?」
「む、村の皆が、いつからかそう呼ぶようになったんです!」
「誰が決めたとかはないです!」
(嘘では無いです、ナイスです私)
「よく知ってるんですねぇ、流石地元の人だ」
(何とか乗り切ったですね……)
「まぁ、1300年くらいはこの木と一緒ですしね」
「1300年?」
「!? ジョークですよ? 笑うところです!」
(何言ってるですか、私の馬鹿ーっ!)
ワタワタと手を振り回し、必死に誤魔化そうとする。何故だか、少年は笑っていた。その日から、少年は毎日訪ねて来るようになった。
そして一番不思議なのが、その度に自分も人間の姿で彼に会っていた事だ。木の中に隠れていればいいのに、わざわざ姿を現していた。
(……不思議ですねぇ、魔物とばれたら大変な事になるのに……)
(誰かと会話出来ることが、こんなに楽しいなんて……思わなかったです)
いつの間にか、少年が来るのを待ちかねるようになっていた。
「セラスさーん、こんにちわー」
(あっ……今日はいつもより早いですね)
「また来たですか? 咲くまでまだ3週間あるですよ」
「あはは、セラスさんに会いに来たんですけどね」
「え……」
(……へ?)
「なんて、迷惑ですかね」
「……嬉しい、ですよ?」
(…………なんでだろう……凄い、嬉しい……)
少年と一緒に居る時間、それがかけがえの無い物に感じていた。
「セラスさんはいつもここに居ますよね?」
「この木は、私にとって一番大事な物ですから」
「いつまでも、見守っていたいんです」
この木の事も、その周りの事も、全て見守っていたい。
「本当に桜が好きなんですねぇ」
「この木も好きですけど、この木の花を見て、多くの人が喜んでくれる」
「それを見るのが、何より嬉しいです」
人間が魔物である自分をどう思おうと、自分は人間が好きだった。
「ゲートは、桜見れたら嬉しいですか?」
「うーん、そりゃ嬉しいと思います」
「早く見てみたいなぁ、楽しみですよ」
「……そっか……」
「頑張って、咲かせます♪」
目の前の少年に、満開の桜を見せてあげたい。どんな顔をしてくれるだろうか、喜んでくれるだろうか。きっと、笑ってくれるだろう。
(早く、見たいな……ゲートの笑顔)
(綺麗だったって……言って欲しいな……)
ゲートにそう言って貰えたら、どれほど嬉しい事か……。セラスはワクワクとその日を待っていた。
桜が咲くであろう日まで一週間を切ったある日、ゲートが暗い顔をしてやってきた。そんなゲートから聞かされた話は、セラスの呼吸を一瞬止めた。
「この村に魔物なんて、居るわけない……」
「セラスさんも、そう思うだろ?」
不安そうな表情で語りかけてくるゲート、セラスは返事をする事ができなかった。
(迂闊すぎたです、毎日毎日木の中から出てたせいですね、気配を色濃く残してしまったです)
(もう、誤魔化しきれないでしょうね……いつかは見つかるです……)
(けど、その前に……)
最悪の展開も考えられる、そうなる前に……。
(ゲートに桜を、見せてあげたい……)
「セラス、さん?」
「……ゲート、予定が変わったんです」
「桜、明日にはきっと咲きます」
自分の力を使えば、予定を早める事も可能だ。寿命を縮める事になるが、そんな事はどうでもよかった。
「へ?」
突然の言葉にゲートは呆気に取られている、申し訳なく思うが、最早猶予は残っていない。
「ゲート、約束して欲しいです」
「明日も、ここに来て欲しいです」
「桜が咲くところ、ゲートに見て欲しいです」
「待ってくれ、何で急に……」
「約束、して欲しいです!」
声を荒立ててしまった、涙を抑えられない。それでも、別れの前にどうしても、自分の桜を見て欲しかったのだ。
「セラス、さん?」
「来てくれるって、信じてますから」
自分にはもう、待つ事しか出来ない。
「……うん、必ず、行く……」
「約束だ、今までずっと来てただろ? 明日だって、必ず行くよ!」
ゲートが笑ってくれた、やっぱりゲートは優しい子だ。自分に不安を与えないよう、笑顔を見せてくれたのだ。必ず来てくれると、約束してくれた。
ゲートが帰った後、セラスは魔物の姿に戻る。もう時間が無い、形振り構っていられない。
(成長を一気に加速させるです、力を溜めて、ゲートが明日来た時に花を咲かせるです)
(かなり苦しいですが、力を最大まで溜めれば、可能です)
木の中へ戻り、力を練り始める。約束の為、セラスは必死に力を溜めていた。
次の日、セラスはフラフラになりながらもゲートを待っていた。いつもの桜の木の下でだ。
(うぐぐ、やはり無茶だったですね、フラフラします……)
(けど、間に合ったですよ……これなら花を咲かせることも可能です……)
(ゲート、早く来るです、早く……)
どんな顔で喜んでくれるだろう、そんな期待に胸を膨らませていたが、不意に殺気を感じた。振り返ると、数人の男達がそこに立っていた。
(……子供?)
男達を引き連れているのは、13歳くらいだろうか、小さな赤髪の少年だ。
「ふぅん……その姿であの兄さんを誑かしてたのかぁー」
「人を惑わす魔物に生きる資格は無い、伐採してやるよ、木精種」
「俺は退治屋のブレア・ブルック、手間取らせるなよ?」
右手から垂れ下がっているのは、刃のついたヨーヨーのような物だ。そのヨーヨーが燃え上がり、回転を始めた。
「死ね、一切の意味を持たずに」
「…………ッ!!」
容赦なく攻撃を始めるブレア、炎に包まれたヨーヨーが襲い掛かってくるが、セラスは何とかその一撃を横に飛んで避けた。
「待ってっ! 待ってください!」
「魔物の言葉に意味は無い、その存在にも価値はねぇ」
「さっさとくたばれ、枯れ木野郎」
頭上から振り下ろされる一撃、その一撃がセラスの前髪を焼き切った。
「約束があるんですっ! ここで死ぬわけには……」
「それに、私は悪い事してないですっ!」
「ずっと昔から、この木と共に生きてきただけですっ!」
「それに私が死ねば、この木も死ぬんですよっ!」
「はぁ? んなの知らねぇし」
「お前みたいな戦闘能力の弱い魔物でも、狩れば金が貰えるんだよ」
「お前が良い奴とか、悪い奴とか、そんなのどうでもいいわ」
「魔物退治してくれって言われただけだから、その桜の木がどうなっても、俺達はどうでもいいしな?」
容赦の無い連撃、いつまでも避けられないだろう。反撃しようにも、セラスは力を殆ど木の成長に使っている。
(ここで反撃に力を使えば、花を咲かせられないよ……)
(ゲート、早く……!)
「炎壊」
足元を狙った攻撃、セラスはそれをジャンプで避けるが、セラスのすぐ下でヨーヨーが爆発した。爆発に巻き込まれたセラスの右足が、枯れ木を砕くような音と共に吹き飛ばされる。
(……ッ!)
「逃げる奴の足を殺す、セオリー通りだよな」
この少年は強い、ここまでだろう。止めを刺そうと近づいてくる少年に、セラスは涙を流して頭を下げた。
「お願いします、少しだけ、待ってください……」
「約束が、あるんです……それが終わったら、私を好きにしていいです、から……」
「約束ってさぁ、あの兄さんと?」
「兄さんなら来ないけど?」
その一言が、セラスの胸を抉った。
「あんたさ、その姿で兄さんを騙してたんだろ?」
「あんたが魔物だって知った兄さんが、来るわけねぇじゃん」
(ゲートに、魔物だって……ばれ、てる……?)
「違……私……騙してなんて……」
「魔物だって言ってねぇだろ、お前」
「隠してたんだろ? 騙してたのと同じだろ?」
「それなのに約束? 笑わせんなよ」
少年がニヤニヤしながら近づいてくる。
「誰が魔物のお前との約束なんか、守ると思うんだ?」
「テメェは魔物なんだよ、分かったら死ね」
少年が放った炎の斬輪が、セラスの胸を貫いた。貫かれた勢いで、セラスの身体は湖の上まで飛ばされた。身体を貫通したワイヤーの様な物が、熱を帯びて光りだす。
「線状炎壊」
真っ直ぐと崖の上から伸びた線が、大きな音を立てて爆発した。セラスの身体は粉々になり、真っ逆さまに湖へと落ちていく。湖へ沈む前に、セラスの身体は炎に包まれ、燃え尽きた。
(…………ゲー……ト…………)
肉体の90%を砕かれたセラスだが、残りの10%は木の中で力を溜めていた。その為即死は免れたが、胸のダメージがこちらにも届いてしまった。胸に傷が浮かび上がり、じんわりと痛みが広がる。
それ以上に、心が痛かった。
(ゲート……会いたいよ……)
(会いたい……よ……)
あれから5年、セラスはゲートを待ち続けている。残り少ない命で、それでも待ち続けている。
(分かっています、私の独り善がりだってこと)
(もう、ゲートが来ないってこと……)
(騙しててごめんって、謝れないこと……)
(もう、笑ってもらえないこと……)
(約束、守れないこと……全部分かってます……)
(それでも、このまま死ぬのは、痛すぎますから……)
(待ってるって事、言い訳にして……待ち続けてないと……悲しすぎるから……)
(……会いたい、よぉ…………ゲートォ……)
約束の場所で、涙を流すセラス、そんな彼女に近づく影があった。
その頃、ゲートから話を聞いたクロノは、しばらく黙った後、拳を握った。
「何で、会いに行かないんだ」
「……行けるわけ、ないだろ?」
「俺は、セラスが魔物ってだけで……約束を……破ったんだ」
「見捨てたのも、同然だ……」
「セラスさん、まだ待ってるんだぞ」
「……俺には資格がない、どんな顔して会えばいいんだ」
「もう、終わった事なん……っ!?」
もう我慢できなかった、クロノはゲートを殴り飛ばしていた。
「……何を……っ!」
「勝手に、終わった事にしてんじゃねぇよ」
「まだ続いてんだよ、お前が勝手に終わらせて良い事じゃねぇだろ」
「俺は完全に無関係だし、こんな事言う資格ないけどさ」
「それでも言わせて貰う、ふざけんなっ!!」
声を荒立て、ゲートに詰め寄る。
「資格がなんだ、約束破ったからなんだ?」
「それがどんだけ重要だってんだ、馬鹿にしてんのか?」
「一番大事なのは、セラスさんがまだ待ってるって事だろっ!」
「セラスさんが待ってるのは、あんただろっ!?」
「他の誰でもない、あんたを待ってんだっ!」
「ウダウダしてねぇで、会いに行け馬鹿野郎っ!!!」
「俺は、俺にはそんなの……」
「それに……セラスは魔物で……」
「魔物だからってなんだよっ! そんな事であんたはセラスさんを疑うのかっ!?」
「大体黙って聞いてりゃ、退治屋の奴に変な事言われただけで迷いやがってっ!」
「相容れない存在だ? そんなの他人が決める事じゃねぇだろっ!」
「あんたはどう思ってんだっ! 本当に、セラスさんが悪い奴だって思ってんのかっ!?」
「……っ! 俺はっ!」
その瞬間、爆発音が響き渡った。
「……なんだ、今の音……」
呆然とするクロノだが、突然入り口の扉が開かれた。外で待っていたセシルが扉を蹴り開けたのだ。
「セシル、どうしたっ!?」
「桜の木の方から煙が上がっている、さっきの退治屋の匂いもするぞ」
「始まったようだ、長くは待たないだろうな」
「当然だが、今回は私はやらんからな」
前回が特別だったので、今回はセシルの協力は期待できない。クロノはゲートの方へ向き直った。
「……なぁゲートさん、俺はセラスさんの事、よく知らないけどさ」
「本当に、セラスさんは退治されないといけない子なのか?」
「このまま放っておいて、良いのか?」
「俺は……勇者なんだぞ……」
「勇者が、魔物を……助けて良いわけが……」
「なぁ? もう一回殴っていいか?」
「ウダウダ面倒くさいなぁ! 勇者とか退治屋とか本当にもうっ!」
「立場なんかどうでもいいっ! 助けたいのか、助けたくないのか聞いてんだっ!」
「会いたいのか、会いたくないのか聞いてんだっ!」
「……っ! 会いたいさっ! 会いたいに決まってるだろっ!」
「ずっと後悔してたっ! もう一度会いたいって思ってたっ!」
「まだ待っててくれてるなんて、凄い嬉しいさっ! 生きててくれて嬉しいよっ!」
「だけど、こんな最低な俺が会いに行っていいわけ……っ!」
まだウダウダうるさいので、無理やりゲートの右手を掴んだ。
「それでも、セラスさんが待ってるのは……ゲートさんなんだ」
「最低だろうが、最悪だろうが、彼女を迎えに行けるのは、ゲートさんだけだよ」
「俺は彼女の事、よく知らないけどさ、退治されるなんておかしいって、心から思う」
「俺も手伝う、だから、行こう」
「彼女を、助けにさ」
その言葉を聞いたゲートの手から、力が抜けてきた。
「君は、何でそこまで……」
「俺はさ、人と魔物が共存できる世界が夢なんだ」
「その為に旅をしてる」
「セラスさんに惚れてんだろ? 助けるのに、それ以上の理由っている?」
その言葉で、ゲートの顔が真っ赤になった。
「なっ…………ぐぅ……」
「…………あぁ、そうだな……」
「うん、目が覚めた……もう……逃げないよ」
「クロノ君、だったっけ……ありがとう」
「俺一人じゃ無理かもしれない、手伝ってくれるか」
「勿論だ、時間がない、急ごう!」
家から飛び出し、クロノとゲートは桜の木を目指して駆け出した。あの日の約束を、5年越しに果たす為に。
桜の木の下、セラスは5年前と同じ相手に、再び命の危機に晒されていた。
「確実に殺したと思ったんだけど、まだ生きてたとはね」
「今度は、その木ごと焼き払ってやろうか? あははっ!」
「……っ! それ、だけはっ!」
「だったら避けんなよ、手間かけられるとだりぃんだよ」
「あんまりうぜぇと、ちょっと甚振っちゃうぜ?」
5年前と同じ武器を何とか避け続けるセラス、そんなセラスを見て、ブレアはにやりと笑った。
「炎を纏った俺の武器、【機投刃】は魔力を流しやすいミスリル製なんだよねぇ」
「それに俺の固有技能・『炎撃』を組み合わせると~……」
セラスが掻い潜ったブレアの攻撃、その攻撃が残した軌道が光り始めた。
「円域炎壊」
セラスの周りが爆発し、炎に包まれた。直撃を許したセラスは、その場に崩れ落ちる。
「今回は逃がさねぇ、ちゃんと炭にしてやるよ」
「…………ゲー……ト……」
ブレアが近づいてくる、セラスはもう、立ち上がることも出来なかった。そんなセラスに狙いを付け、ブレアが機投刃を投げてきた。
避けるなんて、出来る筈無い。
(酷いなぁ……5年も待ったのに……)
(結局、会えないままかぁ……)
(……会いたかった、な……)
目を閉じ、全てを諦めたセラス、しかし、覚悟していた痛みは、いつまで経っても襲ってくる事はなかった。
(……?)
不思議に思い、目を開けたセラスが見たのは、ずっと会いたかった少年の大きくなった背中だった。
「……なんのつもり? 勇者の兄さん?」
自らの攻撃を大きな盾で弾かれたブレアは、魔物を庇った勇者を睨みつける。そんな勇者は、ニヤリと笑うと……。
「……大した事じゃねぇよ、約束を果たしに来ただけだ」
「……ちょっと、遅刻したけどなっ!」
自らの身長と同じくらいの槍と大きな盾を構え、ゲートは吠える。その目にはもう、迷いは無い。
今、退治屋と勇者の戦いが始まる。




