Episode:エルフ ① 『何があっても、傍に居る』
時は遡り、吹き飛ばされたピリカを探すレラに視点は移る。窓の方向からすれば港の方に吹っ飛んだ筈だが、ピリカの影も形も見えなかった。
「容赦無く殴り飛ばされたからなぁ……生きてるんだろうなあいつ……」
「自業自得だがな……」
昔から暴走癖はあったが、旅に出てからと言うものそれは前にもまして激しくなっていた。念願の外の世界に出られて嬉しいのも分かるが、やはり目に余る。
自分達は人に近い亜人系の魔物に含まれる為、完全な魔族よりかは扱いは悪くない。だが、それは魔族と比べての話だ。
当然魔物である事に変わりなく、人がどう感じているかは分かっているつもりだ。ユリウス王が話を付けておいてくれなければ、レラは耳を隠して街中を歩かなければならなかっただろう。
あまり自由に動きすぎると立場が危ぶまれる、ピリカにはもう少し自重してもらわなければならない。自分達の旅は、退治屋や勇者に襲われても、何ら不思議では無いのだから。
「うっはあああっ! この魚も初めて見るのですよぉっ!!」
そんなレラの考えも知らず、ピリカは港で大暴れしていた。思わず立ち眩みをするレラだが、あれを止めなければならないのは自分である。
「ピリカァッ!! お前いい加減に……」
「あ、レー君見っけっ! ねぇねぇレー君これ凄いんだよ!」
珍妙な生物を手にこちらに駆け寄ってくるピリカ、それは店の商品では無いのだろうか。
「馬鹿……勝手に持ってくるな!」
「あのねぇ、この生き物はこうやって背中の所をぐっと押すとねぇ」
「人の話を聞……」
レラが言い切る前に、ピリカが謎の生物の背中を押す。それに反応した謎の生物が、レラに向かって赤い液体を吐き出した。
「ブッハッ!? テメェ何しやが……ぎゃあああああ目に沁みるっ!?」
「この生き物はガーラキュスってクラゲの仲間でね、体内で海水と自分の体液を混ぜて作った液体で外敵に攻撃するんだって!」
「この赤い液体は辛い成分を含んでてね、調味料としても使えるらしいよ?」
仕入れたばかりの知識を披露しているが、レラは自分の両目を押さえてのた打ち回っていた。
「あはははははっ! レー君何してるのぉ、人の話ちゃんと聞いてよぉ!」
「……っの! お前なぁっ!?」
「凄いねレー君! 海にはわたし達の知らない生き物沢山だね!」
「んおっ!? あの大きな魚は……すいませーん!」
会話の途中でも未知に吸い寄せられ、ピリカは大きな魚を運んでいた漁師に駆け寄っていく。王が話を付けてくれているとはいえ、あまりにも自由にピリカは動いていた。
実際話しかけられた人は戸惑いの色を見せている、だがピリカはお構い無しに新たな知識を聞き出そうとしていた。
「……あの、馬鹿……」
分かっている、決して悪いことでは無い。クロノの言う共存の世界、その為にも必要な事だ。
互いの距離を詰める事は、必ず必要な事、それは分かっている。だがピリカは踏み込みすぎている、加減も引き際もお構い無しだ。
長い間森に閉じ込められていた反動がここに出ているのだろう。このペースで行けば、受け入れられるのも速いかもしれない。
だが、それに伴って必要以上にリスクも上がってしまう。人間が皆、クロノのような奴では無いのだ。
例えここが他族との同盟を結んだ国であっても、それはつい先日成し得た話なのだ。逆の思考を残す者が居たとしても……不思議では無い。
ここは心を鬼にするべきだ、はしゃぐピリカにゆっくりと近寄る。
「おい、ピリカ」
「こっちの海草は何と言うのですか?」
「……おい、ピリカ!」
「ほほぅ……それは興味深いです……」
鬼どころじゃ足りない、流石に頭にきたレラがピリカの肩を掴んだ。
「ピリカッ! いい加減にしろっ!」
「わっ!? レー君どしたの?」
「はしゃぎすぎだ、立場を弁えろ!」
「俺達は、魔物なんだぞ!」
「むぅ……? そんなの関係ないよ」
「そんなの気にしてたら何にも出来ないじゃん!」
「そんなの分かってる、だがお前は気にしなさすぎだ!」
「もっと考えて動け! 騒ぎを起こしたらクロノ達にも迷惑になるんだぞ!?」
その言葉に、流石のピリカも表情を変えた。落ち込んだわけじゃない、レラに向き直りキッとした目で睨んでくる。
「何それ……頭良いフリしてるだけで臆病思考まっしぐらじゃん!」
「大体、何で騒ぎ起こしたら助けてもらう前提なのさ!」
「そういうのを自分達で何とかしていかないと、全然変わんないと思うけど!?」
「なんだと……お前は自分の我侭を通したいだけだろ!」
「未知を知る前に自分を知れっ! 人間全てがクロノの様な奴じゃないんだぞ!?」
「レー君こそ自分の臆病を正当化したいだけじゃん!」
「分かってるよ、皆がクロノ様と違うって事ぐらい! それと向き合うのが大事なんじゃん!」
「せっかく森から出れたのに、レー君は全然変わってないよ!」
「昔の約束の事だって……!」
そこでピリカは俯いてしまう、言葉を飲み込むように。
「レー君の馬鹿っ! 馬鹿馬鹿っ! せっかく楽しかったのに台無しだよ!」
「泣き虫の癖にっ! 弱虫の癖にっ! 偉そうに説教なんてしないでよっ!」
「……もう、どっか行っちゃえっ!!」
声をぶつけるように、ピリカは叫ぶ。その言葉に、レラも完全に切れた。
「……あぁ、そうか」
「そうだな、俺はお前の保護者でも無いしな」
「もう沢山だ、顔も見たくない」
背を向け、歩き出す。ピリカはそんなレラに、舌を出して挑発していた。
「き、君……良いのかい?」
「心配してくれてたみたいだけど……」
さっきまでピリカの質問攻めにあっていた男が声をかける。
「いいんですよぉ、あんな分からず屋なんて」
「……どうでも、いいんですよ」
そう言うピリカの表情は、先ほどとは打って変わり、影を感じさせていた。
(……レー君の……馬鹿……)
ピリカもまた、歩いていくレラに背を向けた。
レラ達はクロノと同じく、魁人の拠点に部屋を借りていた。このまま魁人の拠点に戻っても良かったのだが、そんな気分でも無い。
イライラとした気持ちのまま、レラは街中をうろついていた。
「……あの馬鹿、何だってんだ……人がせっかく探しに行ってやったってのに……!」
「大体はしゃぎすぎなのは事実だろ……逆切れも甚だしい……!」
「クソッ……イライラするな……」
「大体最後、何を言いかけたんだあいつは……」
昔の約束の事、そう言いかけていた。
(昔の事なんざ、忘れる訳ねぇけどさ)
エルフの寿命で言えば、別にそれほど昔の話では無い。自分達がまだ幼かった頃の話、今から30年ほど前の話だ。
エルフは人で言う20代ほどの姿が最も長く保たれる、200年はその見た目のままだ。幼少の頃は人間と変わらない速度で成長する、あの頃は互いに人で言えば10歳くらいの見た目だった。
あの頃も変わらず、ピリカは外の世界への憧れを抱いていた。殆どのエルフが相手にしなかったが、レラだけはピリカの傍にいた。
気が合った訳でも無い、外への憧れも、ピリカほど持っていなかった。レラが7歳の頃、毒蛇に噛まれた事があり、それを8歳だったピリカが解毒した。
言ってみれば命の恩人だ、それがきっかけで二人は一緒に居る事が多かった。あの日も、二人は木の上でいつもと同じ様に話していた。
「レー君レー君、こっそり外に出てみようよぉ」
「ピリカお姉ちゃん、またそんな事言って……怒られるから駄目だよ?」
「レー君のいい子ぶり!」
「あーあぁ……大人達はいいなぁ、外に出られて……」
「弓の材料とか、最低限の物資確保の為でしょ?」
「すぐ戻ってくるし、そんなに羨ましいかなぁ」
森の外での物資調達は、森の戦士の役目だった。最低限の戦闘能力を持たないエルフは、森を出る事は許されないのだ。
「羨ましいよぉ、ここじゃ見れない物だって見れるしさぁ」
「見てみたいなぁ、出たいなぁ、外に行ってみたいなぁ……」
「ピリカちゃんいっつも同じ事ばっかだよね……」
「そんなに出たいなら、ピリカちゃんも森の戦士になればいいんじゃないかな」
「パパやママみたいにぃ……? そりゃわたしはレー君より強いけどぉ」
「その一言必要だった?」
ナチュラルにメンタルを抉られたが、ピリカは我関せずと言った感じだ。
「わたしは戦いたいんじゃなくて、外を知りたいの~」
「いつか絶対に外の世界を旅するんだぁ……!」
目を輝かせるピリカ、正直着いていけなかった。
「ねぇ、レー君は着いてきてくれる?」
「うえ?」
心を見透かされたような言葉に、息が詰まる。
「わたしが外に出る時は、着いてきてくれる?」
「そんなの、分かんないよ……」
「レー君は冷たいなぁ、つれないなぁ~!」
「だって、外がどんな所か分かんないし……」
「分かんないから行きたいの、分かんないから知りたいの!」
「ねぇ、知りたいって事はそんなに悪い事なの!?」
「ピリカお姉ちゃん! 枝揺らさないでよぉ!」
「答えてくれないと枝折っちゃうぞ~」
「って……あれ……?」
ふざけていたピリカの顔が、急に真面目な物になる。恐らく感知の魔法を使っているのだろう。
その顔がどんどん青ざめていく。ピリカは枝から飛び降り、集落の方へいきなり駆けだして行った。
集落では、ピリカの両親の亡骸が横にされていた。
四大陸で最も争いが少ない大陸、『最弱の大陸』・アノールド。そんな大陸でも、魔物の死は確認されている。
勇者が原因の場合もあるが、多くは別の大陸からの退治屋の仕業だ。退治屋の中には無害な魔物を狩った証で資金を稼ぐ者もいる。
ピリカの両親は森の戦士として外へ出向き、そんな退治屋に出会ってしまったのだろう。その耳は切り取られ、無残な姿になっていた。
泣き叫ぶピリカを、レラは見ていることしか出来なかった。
その夜、集落の中心に位置する湖の傍でレラはピリカと会っていた。
「……やっぱり、外は怖いところなんだよ」
「外になんか、出ない方がいいよ、お姉ちゃん……」
湖を眺めるピリカ、その背中に向かってレラは思いつく言葉を投げかけた。そんな言葉に対するピリカの言葉は、レラの予想とは違っていた。
「わたしは、外に出たいよ」
「知りたいんだ、何でパパとママが死ななきゃいけなかったのか」
「やっぱり、知らないままは嫌だよ」
「自分の眼で見て、自分で答えを出して、自分自身ちゃんと向き合いたい」
「わたしは、逃げるのは嫌だ」
その言葉は震えていたが、振り返ったピリカの目は本気だった。涙を浮かべてはいるが、その芯は未だに揺らいでいなかった。
「怖く、ないの?」
「怖いよ? わたしだってさ……」
「けど、自分に嘘はつきたくないの」
「自分を騙したら、自分で自分が分からなくなっちゃう」
「自分まで見失ったら、何も分からなくなっちゃう」
「それは、もっと怖いから……わたしは自分に正直で居たいの」
「わたしは、知りたい……知らない事を、知りたい」
震える少女は、それでも向き合っていた。
自分を、貫いていた。
その姿が、少年には凄く綺麗に見えて。
……壊したくないと、願ってしまった。
「わたし、戦士になるね」
「そしていつか、きっと外に出る」
「何年かかっても、絶対」
「……僕も、行くよ」
「え?」
自然と、声が出ていた。
「僕も一緒に行く、僕も一緒に戦士になる」
「……傍に居る」
「……どしたのさ、レー君……無理は駄目だよ?」
『震えちゃってさぁ、怖いんでしょ?」
「震えてるのは、お姉ちゃんも同じだよ……」
「怖いけど、それでも一緒に行く」
自分はピリカより弱い、魔法も武術もピリカに大きく劣っていた。そんな自分が言える立場じゃないのは分かっていたが、それでも……。
目の前の少女の強さに、憧れた。
目の前の少女の夢を、守りたかった。
「……弱いくせに、レー君らしくないよ?」
「強くなる」
「強くなって、お姉ちゃんを守るんだ」
「ずっと傍に居る、だから一緒に外に行こう」
「約束、ね?」
そう言って、無理やり笑う。根拠も自信も無いが、幼い少年に出来る精一杯の励ましだ。
そしてその言葉が、少女を支えたのは事実だ。
ピリカの両目から、ポロポロと涙が零れていく。
「弱い、くせに……わたしより、弱いくせに……」
「似合わ、ないよ……レー君のくせに……」
泣きじゃくるピリカ、その夜、二人のエルフは一つの約束をした。
二人一緒に、いつか必ず外へ出ようと。
どんな事があっても、レラはピリカと一緒に居る事を誓った。
何があっても、彼女を守る為、傍に居ると自分の胸に刻んだのだ。
「……俺の嘘つき野郎っ!」
レラは踵を返し、走り出して行った。
港でウロウロしていたピリカ、その周りには彼女にとっての未知が溢れていた。
普段の彼女なら影を置いていく速度で飛び付いているだろうが、今はそんな気分では無い。
「もう、何かつまんない……」
完全に冷めてしまったピリカは、俯いたまま歩を進めていく。セシルに吹き飛ばされて港に来たピリカには、帰り道が分からなかった。その為、適当な方向へフラフラと歩いていくしかないのだ。
(レー君の馬鹿、嘘つき、カチカチ頭……)
(一人じゃ、ダメなのにさ……)
ブツブツとレラへの不満を呟いていたピリカだが、周りの雰囲気がおかしい事に気がついた。いつの間にか路地裏に迷い込んでいるらしい、暗く淀んだ感じを受けた。
「あれ、いつの間に……」
「おっとぉ? 随分可愛い子が居るじゃん?」
それと同時、目の前から男が歩いてきた。一人じゃない、7人ほどの集団だ。
見るからに良い印象は感じない、どんな国にも汚点は存在するのだろう。一人は鉄パイプまで持っている、はっきり言って非情にガラの悪い集団だ。
関わり合わないようにピリカは引き返そうとするが、2人の男が道を塞いでいた。合計で9人、完全に囲まれた。
「うはぁ、しかもエルフじゃねぇこの子?」
「もしかして儲けれるかも知れないぜ?」
自分はこう言った話に巻き込まれやすいのか……、とうんざりする。数で見れば圧倒的に不利だが、人間相手に負ける気はしなかった。
(思いっきりぶっ飛ばしちゃったら、流石に不味いですよねぇ~……)
「あのぉ、出来れば退いてくれないでしょうかぁ……」
「怪我をさせたくない気持ちもありますのでぇ……」
「へははははっ! 面白い子じゃねぇか!」
「でかい口聞くだけ強いのかなぁ!?」
そう言って一人の男が襲い掛かってきた。
(もう、今日は厄日ですよぉ!)
隙だらけの蹴り、軽く避けて魔法で気絶させればそれで終わりだろう。圧倒的な力を見せ付ければ、他の男達は逃げ出すかもしれない。
そんな考えとは違い、自分の足は思うように動かなかった。軽やかに避ける筈が、まともに横腹を蹴り飛ばされた。
「……ぐぅっ!?」
ただの人間の蹴りで苦痛を感じた、魔法による防御壁が作動しない。思えばセシルに吹き飛ばされたダメージを治療した時も、違和感を感じていた。
この違和感の答え、それは魔素切れだ。
森の中とは違い、魔素の量は限られている。その回復速度も、森の中とは比べ物にならないほど、遅い。
魔素の切れたエルフの能力は、人間以下だ。
(あっ……まず……!)
「呆気無いなぁ! 口だけじゃないかぁ!!」
そう言いながら、男は倒れこんでいるピリカの鳩尾を蹴り飛ばした。ピリカは壁際まで蹴り飛ばされ、複数の男達に見下ろされる形になる。
「お前容赦ねぇなぁ、傷つけたら売れなくなんじゃね?」
「一応魔物だろ? 弱らせとかねぇとやべぇっしょ」
「まずどうすんの、腕とか縛っとく?」
勝手な事を抜かしている男達だが、ピリカは痛みで立ち上がれない。
彼女の身体能力は魔法ありきの物、彼女は生まれ持った資質も含めて純粋な魔法使いタイプだ。その魔法が使えないとなれば、攻撃・防御……そのどちらも0になったに等しい。
(分かってたのに……森の中とは違うって……)
(分かってても……体験しないと分からない事もあるんだなぁ……)
視界がぼやける中、男がピリカに手を伸ばす。絶体絶命のピンチの中、一筋の風がピリカの髪を撫でた。
その瞬間、ピリカに手を伸ばしていた男の体が跳ね上がった。
一瞬でピリカと男の間に割り込んだレラが、男の顔を蹴り上げたのだ。レラは剣を鞘ごと腰から引き抜き、自分の顔の前に横向きで構える。
周囲の男達がレラの存在を認識する前に、レラは姿を消す。一瞬で3人の男の首筋に剣による打撃を叩き込み、その体を左右に蹴り飛ばした。
「な、な、な!?」
「んだテメェはっ!?」
ようやく何が起こっているのか理解した男達、その一人が鉄パイプでレラに殴りかかった。その鉄パイプをスレスレで避け、一歩の踏み込みで男との距離を0にする。
男の反応すら許さず、軽快な動きで凄まじい蹴りを叩き込んだ。その細身な体からは想像できない威力の蹴り、それを喰らった男の体は木の枝のように吹き飛んだ。
レラはピリカとの約束の為、ピリカを守る為に戦士タイプの戦闘法を磨き続けた。それとは別に、一つの努力を惜しまなかった。
それは魔素に頼った戦闘法を辞める事。もし将来的に外に出られたとして、何かしらの戦闘になった場合の事だ。
その時お互いが魔素に頼った戦法を取り、お互い魔素が切れたらどうなるだろうか。それではピリカを守れない、それではダメなのだ。
だからこそ、自分は魔素を使わない。補助にも、攻撃にも、魔素を使わない。
自分の身体能力を磨き、その力だけで戦う。使うとしても本当に最低限、最小限の魔素だけに留める。
これがあの時決めた、レラの覚悟の証だった。
そして、自分が使わない魔素の使用法も考えている。
数人の男を一瞬でなぎ倒したレラは、一度飛び退きピリカに手を添える。その手が青白く光り、ピリカの体も薄く光り始めた。
自分の使わない魔素、溜めた魔素はピリカに渡す。それがレラの戦闘スタイルだった。
魔素が体に巡り、回復の魔術で自身を治療したピリカがゆっくりと体を起こす。
「……レー君、何で……」
「俺はお前の剣だ、お前を守るとあの時誓った」
「何があっても、傍に居ると約束した」
「……離れてごめん」
そう言うと、レラは残った男達を睨みつける。
「最後の慈悲で警告する、去れ」
「去らずに向かってくると言うのなら、その身を切り裂かれる覚悟を決めろ」
「我の剣はあまり優しくはない、警告はしたぞ」
その目は魔物の目、人とは違う威圧感を持つ目。溢れ出る殺気は、男達が逃げ出すのも当然と言えるほどだった。
レラはまだ回復しきっていないピリカに肩を貸し、裏路地から脱出した。
「また我とか、似合ってないよそれ」
「うるさい、俺の勝手だ」
「僕って言ってた頃が一番可愛かった」
「男にとってそれは褒め言葉じゃない」
「って言うか酷い目にあったんだけど」
「ごめん」
「約束忘れてたでしょ」
「死んでも忘れないよ、これは本当だ」
「……助けてくれてありがと」
「守るって約束した」
一言一言、目を合わせずに交わしていく。ふと、ピリカが足を止めた。
「……レー君、わたしにとってはね」
「守ってくれる事より、一緒に居てくれる方が大事なんだよ」
「一緒じゃなきゃ、意味無いの」
「一緒だから、わたしは外の世界が楽しいの」
「はしゃいでいられるのは、レー君が傍にいるからなんだよ?」
「……さっきは言い過ぎた、ごめん」
「……わたしも、ちょっと自重するね」
お互い素直に謝り、それが気恥ずかしくなって互いに顔を逸らす。
「レー君、肩貸すのはいいけどさ、魔素貸してよ」
「もう少し回復したら自分で歩くから」
「俺も空だ、ここは魔素が薄いな」
「荷物の中に『あれ』があるから、戻ったら使おう」
ちなみにこの二人、簡単に魔素を貸す貸さないと話しているが、それは特別な事だ。心の底から信頼し合ってる者同士でなければ、魔素の受け渡しなんて不可能なのだ。
それが可能なのは、確かな絆の証明でもある。
二人はそのまま、帰路についた。
魁人の拠点前まで戻った二人が聞いたのは、魁人の怒鳴り声だ。
「後片付けが終わってないのはいいさ、色々あっただろうしな!」
「けどなんで窓ガラスが砕け散っている!? お前は破壊神にでもなりたいのか!?」
「たまには言い訳くらいしてみろよ! 頼むからさ!?」
「うえぇぇん……すいませんすいませんすいませんー……っ!!」
先に言っておくが、紫苑に悪い点は無い。ピリカの暴走と、セシルの反撃が原因だからだ。
ちなみにセシルは知らん顔で傍観を決め込んでいた。
「……ピリカ、説明してあげようぜ」
「何か、不憫だわ……」
「あぅ……反省……」
二人のエルフは怒れる魁人をなだめる為、拠点へと入って行った。




