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偽勇者は世界を統一したいのです!  作者: 冥界
第七章 『駆ける獣、吼える獣、差し伸べる人』
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第五十一話 『ウルフ族との話し合い』

 目の前の獣人種ビーストに気圧され、クロノは思わず後ずさりしそうになる。しかし、恐怖心を押し殺し、なんとかその場に踏み留まる。




「同盟の件は既に知っていますよね」




「あぁ、知ってる」




 どう切り出すか僅かに考えるが、ここはストレートに攻めてみることにする。




「同盟を組むつもりは無いんですか?」




「無いな、こっちはこの会話すら無駄と思ってる」




「出来れば、理由だけでも教えて貰いたいんです」




 その理由から切り込む隙を探さなくては、このまま追い返されるだろう。クロノは最大限集中してガルアと向き合う。




「人間とも馬野郎共とも、何が悲しくて手を組まなきゃならねぇ?」

「俺達の事は、俺達だけで十分なんとかできんだよ」




「土地が欲しけりゃ奪い取る、力があれば何だって出来んのさ」

「同盟なんざ、俺達には必要ねぇ」





「力云々では語れない利点も、同盟で得られると思います」

「他族同士の同盟は不明瞭な部分も多いですが、少しずつ探していければいいと思います」




「考え直してはくれませんか、既にケンタウロス族からの同意は頂いています」




 その言葉に、ガルアは眉をピクッと動かした。




「なるほどなぁ、ロニアはそっちと手を組むってか」

「いいんじゃねぇの? 雑魚同士で仲良しごっこしてな」




「ロニアさんは、最近のウルフ族の攻め込みに疑問を抱いています」

「そちらにも、何か事情があるんじゃないですか?」




 ここらで少し探りを入れてみる。




「攻め込んできたウルフ族には迷いがあったと聞いています」

「何かそうしなきゃいけない理由があったんじゃ……」










「グダグダうるせぇな、おい」










 空気が一瞬で凍りついた、凄まじい怒気が辺りを包み込む。背後からカルディナの『ひっ……』と言う声が聞こえた気がした。




「迷い? ……知らねぇなぁ、若い奴等が怖気づいてただけだろ?」

「理由なんざ一つだ、領土を広げようとしてるだけさ」



「強者が領地を拡大させるのは当然だろ?」

「それを深読みしてんのかどうか知らねぇが、ロニアの奴はマジうぜぇな」






「ロニアさんは、攻め込んできているウルフ族を良く見ています」

「あの人は、気づいてるんですよ」






「小僧、テメェはロニアと会ってまだ日が浅いな、匂いが薄い」

「何だって、アイツの言葉をそこまで信じる?」



「利用されてるかもしれないぜ? 良い様にな」





「あの人の目は、嘘を付いてる目じゃない」

「これから同盟を組む相手を、騙すような人じゃない」




 あのケンタウロスは、攻め込んできてる敵を本気で心配していた。甘すぎると言われても仕方ないのかもしれないが、クロノはその気持ちを信じたかった。




「……まぁ人じゃなくて馬だとは思うが……」

「とにかく、テメェらが思ってるほどの深い意味なんざ、こっちにゃねぇんだよ」



「近い内にケンタウロス族の領地は俺達が奪い取る、それだけは確かだ」






「させませんし、渡しません」



「そもそも、土地が欲しいなら何でケンタウロス族からなんですか」




 隙を見せた、危険な賭けだが、クロノは一気に踏み込んでいく。




「マークセージの方が近いし、圧倒的に人のほうが弱いんじゃないですか?」

「同盟を組むフリして内部に入り込めば、簡単に落とせるんじゃないですか?」




「『ケンタウロス族の土地』じゃないと、ダメな訳でも?」




 その言葉に、僅かだがガルアが怯む。ここを逃せば、チャンスはもう来ない。




「それと、気になってたんですけど……」

「後ろに見えてるのは、ウルフ族の集落ですよね?」




「随分ウルフ族が少なく見えるんですが、外にでも出払っているんですか?」




 目視出来る限り、人影は10にも満たない。会話中に風の力で探っていたが、動いている反応は僅かだった。




「ケンタウロス族を何度も攻めて、何度もそれが失敗してるのって」

「迷い云々と同時に、攻め込める人数が少なかったからじゃないんですか?」





「種族の中で、何か起きてるんですよね?」





 その瞬間、クロノの横すれすれにガルアの足が振り下ろされた。凄まじい衝撃音と共に踵落としが炸裂し、地面にヒビが走る。







「喋りすぎだ、殺すぞ」







 その目は、眼力だけで生き物を殺せるのでは無いかと思わせるほどの怒りを宿していた。正直クロノの内心は恐怖で一杯だ、それでも口を動かさなければいけない。





「……肯定と受け取りますよ」





「テメェらには関係無い、俺達の問題だ」





「関係あります」





 ガルアの目を真っ直ぐ見て、クロノは言う。




「これから同盟を組む相手の問題なんです、だから関係あります」

「それと、ロニアさんやマークセージの王様と約束したんです」




「だから、俺は貴方達と向き合います」

「何と言われても、絶対に」




 真っ直ぐ自分を見るクロノに、ガルアは拳を握る。……が、すぐにその握り拳は解かれた。






「くだらねぇ……」






 そう言うと、ガルアは背を向けて集落に向かって歩き出した。





「帰れ、これ以上は無駄だ」





「……! まだ話は!」





「何を言おうが、俺達は俺達以外信じない」



「大体、勇者なんか同行させて来てるテメェの言葉に、どれほどの価値がある?」





 背後で固まっているカルディナが勇者だと、ガルアは気が付いていた。




「腹割っての話し合いが、聞いて呆れるな」




「これ以上話す事なんざねぇよ、帰れ」




 そう言って歩いていくガルアは、先ほど自分が殴り飛ばした獣人種ビーストを蹴り付ける。




「おいこらハーミット! いつまで寝てる気だ!?」

「さっさと起きて見張ってろ、この糞犬が!」




「ゲボォッ!?」




 腹部を蹴られ、意識を強制的に戻された獣人種ビーストは痛みで飛び起きる。





「次サボったら承知しねぇぞ」





「いや、サボってた訳じゃ……ていうか頭領が俺を気絶させたんじゃ……」





「口答えしてんじゃねぇっ!!」



「それと、そこの小僧共を追い返しとけ、手は出すな」





「ガルアさん! まだ話は……!」





 クロノの言葉にも反応せず、ガルアは集落へ戻っていってしまう。後を追おうにも、目覚めたハーミットと呼ばれていた獣人種ビーストがそれをさせない。



 結局、これ以上の会話は不可能となり、クロノ達は引き返すしかなくなったのだった。






















 マークセージへの帰り道、カルディナが申し訳無さそうに口を開いた。




「ごめんね……クロノ君、あたしのせいで……」




「カルディナさんのせいじゃないよ」




「だって、あたしが勇者だから……」




 落ち込むカルディナに声をかけたのは、意外にもセシルだ。




「貴様が勇者だろうが、なかろうが、結果は変わらなかっただろう」

「それに、別に失敗したわけでは無い」




「え?」




 そう、失敗では無い。疑問は確信に変わった、ウルフ族は何かしらの問題を抱えているのだ。後半のガルアの反応が、それを教えてくれた。




「それにしても、貴様びびっていた割には饒舌だったな」




「え、あ……なんて言うか、無我夢中でさ……」

「この際言いたい事言ってやれーっ! って感じで……」



「それに……言葉の勝負は大事だって……ローが言ってたから……」




「正解だったと思うよ、少なからず相手の事を知れたしね」




 アルディがそう言ってくれる、正直自信が無かったので素直に嬉しい。




「けどこれからどうするのぉ~……?」




 頭の上でエティルが零す、追い返されたのもまた事実だ。




「とりあえずまた王様に報告だな、その後は……」




「考えて無いに一票入れておくよ」




「……ぐぬぬ」




 アルディの言う通り、考えていない。頭を抱えるクロノとそれをからかう精霊達、そんな姿を見てカルディナは思う。





(やっぱ、凄いなぁ)





 この少年は、前だけを見ている。自分の夢がきっと成せると、信じて疑わない。その姿がとても、とても眩しかった。



 先ほどの会話を見て、やはりカルディナには他族との共存が心の底から信じられなかった。それを信じたいとは思う、だが……。




「それを決めるのは、貴様自身だが」



「踏み出さないと何も変わらん、あの馬鹿はそれを知っている」

「それだけの違いだ」




 隣を歩くセシルが、カルディナに向かってそう言った。





「……踏み出さないと、何も変わらない……」





 自分の胸の内で騒ぎ出している気持ち、それに向き合える日は来るのだろうか。考えなかった、知ろうとしなかった、だが知ってしまった、考えてしまった。




 前の自分にはもう戻れない、それなら……。




 一人の勇者が、小さな決意をした瞬間だった。



























 ウルフ族の集落、岩で出来た幾つもの簡素な家が並ぶ中、黒い影が動いていた。ウルフ族の頭領であるガルア・リカントだ。



 クロノ達が帰ってから、ガルアは集落の家一つ一つを訪ねて回っていた。その表情は険しい。




「あ、頭領……」




 女のワーウルフが家の前でガルアに気が付いた。




「おう、邪魔するぜ」



「……容態はどうだ」




 ガルアの言葉に女のワーウルフは俯き、首を横に振る。そんな様子を見て、ガルアは無言で家の中を覗く。



 暗闇の中、数人のワーウルフが中に寝かされていた。荒い息をし、体には紫色の斑点が浮かんでいる。





「……心配する事はねぇ、すぐに良くなる」




「何も、心配する事はねぇ……」





 俯くワーウルフに、ガルアは優しく声をかける。




(そうだ、何も心配する事は無い)



(俺が、救ってやる……頭領である俺が……!)




 集落の中を進むガルアは、自らの爪が自分の手に食い込むほど強く、その拳を握り締めていた。




『だから、俺は貴方達と向き合います』



『何と言われても、絶対に』






「……っ!」






 あの人間の言葉が、いやに心に残っている。所詮人間の戯言だ、気に留める必要など無い。




 それなのに、何故だか忘れられない。




(今更、何を考えている……!)




(誰の助けもいらねぇ、俺達の問題だ、俺達で何とかする!)




 頭領として、一体のウルフ族として、迷いをプライドで塗り潰す。



 ……決断の時は、迫ってきていた。



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