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新約・アラジン  作者: シェーラザード
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鏡写しの二人



アラジンが獣のような声を上げて吼えました。


「この邪悪な魔法使いめ! どうせそのガラス玉もお前が何か怪しい術を仕込んだのだろう! 陛下、あのような詐欺師に騙されてはなりません!」


必死に叫ぶアラジンを完全に無視して、ファルザドはロクサーナのもとへ静かに近づき、その節くれ立った右手をそっと差し出しました。


「ロクサーナ王女殿下、アラジンの手を取り、彼と共に一代限りのうたかたの繁栄を謳歌するか。あるいは私の手を取り、三百年の盤石な繁栄をこの国の民に約束するか。どうか、貴女の確かな意思をお示しください」


ロクサーナの茶色の瞳が激しく揺れ動きました。彼女は一度、隣に立つアラジンを愛おしそうに見つめましたが、やがて後ろ髪を引かれるように悲痛な表情を浮かべ、ファルザドのもとへ向かって、ゆっくりと一歩を踏み出しました。


「駄目だ、行くなロクサーナ! 二人で広い世界を見に行く約束だろう? 僕なら、君の望むものすべてを一瞬で与えられるんだ!」


ロクサーナの瞳に大粒の涙がにじみ、彼女がファルザドの手を取ろうとしたその瞬間、アラジンは喉も張り裂けそうな狂おしい声で叫びました。


「こんな結末、認められるか! ジーニー、ロクサーナを邪悪な魔法で惑わすファルザドを、今すぐここで殺してしまえ!」


アラジンが懐にしまっていた煤けたランプから、爆発するように不穏な紫色の煙が立ち昇り、青い肌の大男が現れました。しかし、いつもは無表情だったその顔は、今はひどく悲しげに、苦痛に歪んでいました。魔人は動こうとはしません。


「どうした、ジーニー! 俺の命令だぞ! 早くあいつを殺せ!」


ファルザドは顔色を変え、慌てたようにアラジンに向かって叫びました。


「アラジン、やめろ! 魔人に人を傷つけさせようとしてはならない!今すぐその願いを取り消すんだ!」


「ハハハ、馬鹿め。この期に及んでまだ嘘をつき、命乞いをするつもりか!」


アラジンが狂ったように笑うのを見て、ファルザドは唇を強く噛み締め、無念そうに目をそらしました。もはや、どれほど言葉を尽くそうとも、目の前の哀れな若者に声が届くことはないのだと悟ったのです。


「……それはできません、ご主人様」


ジーニーが地鳴りのような声で重く口を開きました。その瞬間、ランプから血のように真っ赤な、禍々しい煙が噴き上がり、叫ぶアラジンの全身を容赦なく包み込んでいきました。


悲鳴を上げる暇さえありませんでした。赤い煙の中でアラジンの身体が奇妙に変形し、引き伸ばされ、凝固していきます。やがて煙が晴れたあとに残されていたのは、豪奢な装飾が施された、一枚の大きな手鏡でした。


「だから……あれほど警告したのだ」


悲痛な声でぽつり、と呟くファルザド。それと同時に、魔力の主を完全に失ったことで、宮殿を構成していた白い大理石が音を立てて崩れ始め、さらさらと冷たい砂の雨となって頭上から降り注ぎ始めました。


ファルザドは、先ほどまでアラジンが居たあたりの足元に、砂に埋もれかけた何かを見つけて拾い上げました。


「……これは、何だ?」


「それは宝石の実の種、最高品質のルビーとエメラルドでございます」


拾い上げた大鏡の表面に、すっかり感情の失われた、どこか遠くを見つめるようなアラジンの顔が浮かび上がり、淡々と答えを返しました。


「アラジンよ、お前は魔人の力など借りずとも、確かに自分自身の力で、価値のある本当の財産を持っていたではないか」


ファルザドは、激しくなる砂の雨が衣服を白く染める中、寂しそうに鏡に向かって語りかけました。


「アラジン、お前は鏡の魔人として、この先、悠久の時を誰かの問いに答えるだけのために生きていくことになるのだろう。……ただ人並みに幸せを夢見ただけだというのに、なんという憐れなことだ」


ファルザドは鏡をそっと抱え、崩壊する宮殿の中で泣き崩れるロクサーナを抱き起すと、悲鳴を上げて逃げ散っていく祝宴の参加者たちに紛れ、崩壊していく砂の宮殿をあとにしました。


それから、数百年の途方もない時が流れました。

主を失った魔法の鏡は、数え切れないほどの人々の手を渡り歩き、多くの国々の興亡を経て、やがて遠い異国の、ある高慢な女王の薄暗い私室の壁へと掛けられることとなるのでした。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは……」

ファルザド (Farzad): 「輝かしい誕生」「優れた知性」を意味します。

シャフリヤール (Shahriyar): 「都市の主」「王」を意味します。

ロクサーナ (Roxana): 「夜明け」「輝く光」を意味します。

シリン (Shirin): 「甘美な」という意味。「金」を意味する「Zar」を合わせシリンザル。

アラジン(Aladdin):「信仰の高貴さ」「宗教の栄光」を意味します。

バルドゥーン(Bardun):「外国産の馬」や「荷役用のたくましい馬」を意味します。

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