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黒い魔法使いと死なない契約  作者: 日曜日更新
【第一章】
6/20

第6話 黒い魔法使いの探し物

 最近、黒い魔法使いとよく会う。

 偶然にしては回数が多すぎる。


 店内には焼きたてのパンの香り。


 そして背の高い男。


「ありがとうございました……」


 彼が店から出て行くのを確認すると、店長はパンを並べながら答えた。


「魔法団の仕事がこの辺りで増えたみたいだね」


 黒い髪や黒い服については、あまり気に留めていない様子だった。


 この国は『魔法使い』というだけで、立派な身分証明になってしまう。


「物騒ではあるけど、お店としては常連さんが増えてくれてありがたいよ」


「そ、そうなんですか」

(ベーグルだけ買っていった……好きなのかな)


 ---


 王都周辺の街は活気で溢れている。


「お嬢さん、新作の魔道具見ていかないかい?」

「あら素敵な輝きね! どれにするか迷うわ」


 人混みの中で、白い制服の男だけがすっと流れを変えた。


「ちょっと! 今の人見て!かっこいい!」


 視線の先で男は立ち止まり、道に迷っていた老夫婦へ声をかける。


「道に迷ったのか? それなら、この灯りを辿るといい。ヴェール王国第三図書館はその先だ」


 一本の道筋が開かれ、人々はその光に注目した。


「ママ見て! 道が光ってる!」

「パパがお仕事してるのかもね」

「うん!」


 老夫婦は帽子を外し、その男性に頭を下げる。


「ありがとうございます……ぜひお名前を……」

「私は国の名で働いています。名乗るほどのものじゃありませんよ」


 それを見た女性たちは再びこう話す。


「素敵だわ……!」

「やっぱり結婚するなら王宮勤めがいいわよね!」


 リアはその様子を遠くから見ていた。


(なんで黒なんだろ……。王族直属だから?オシャレが好きなだけ?)


 ---


 夜に会った際、思い切って聞いてみた。


「セドリックさんってどうしていつも黒い服なんですか?普通は、白い制服ですよね」


「俺は特例採用だからだ」

「特例……?」

「努力して職についた人間と同じ制服を着るほど根は腐っていない」


 その言い方が妙に引っかかった。


 まるで自分だけが、その制服を着てはいけない人間だと思っているみたいだった。


(そこまで言わなくてもいいのに)


 もうひとつ。


「今日もまた昼間に会いましたよね。私のこと……ひょっとして監視してますか?」

「何故?」

「最近会うことが多いなと思いまして」


 彼は魔法を唱え始めた。


 文字が次々に現れ、やがて任務状らしきものが浮かび上がる。内容を要約すると――


「近くに指名手配犯がいる」

「こ、怖い……それも魔法使いのお仕事なんですか?」

「魔法が絡んでいれば、そうだな」


(この人、こんなに働いて過労にならないのかしら。私との時間も任務みたいだし)


「じゃあ、つけられていたと思ったのは私の勘違いだったんですね」

「いや。つけていたのは事実だ」


 ついに、認めた――


 どうしてですか、と聞こうとした瞬間、首元に手をかざされた。いつもより近い距離で緊張が走る。


「始める。動くな」


 つまり、これ以上聞くなと言いたいらしい。

 そのまま手のひらに魔力の光が灯された。


(もう。いつも強引なんだから……)


 ---


 その時間はまるで湯船の中に沈み、音が遠のいていくようだった。


 ゴポゴポ……沈み込む。


 やがて光が止み、リアはゆっくり目を開けた。


「今日はこれで終わりだ。鍵をかけろ。魔物が侵入する前に」


 物騒な言葉を残し、彼は窓から消えた。


 それは“眠らない子供への躾”として語られるものだが、彼の言葉は冗談には聞こえなかった。


(もういない……魔物もいない)


 それを確認して窓に鍵をかけると、リアはすぐにベッドへ倒れ込んだ。


 ぼふっ、とベッドに体が沈み込む。


「はぁ……眠い……」


(……黒い理由、結局聞けなかった。あの髪も、少し気になっていたのに)



 * * *


 深夜零時。リアは不思議な夢を見た。


 羽の生えた小さな光が、リアの前をふわりと飛ぶ。その先には、大きく輝く木。枝には、宝石のような実がいくつも揺れていた。


「神話に出てくる光の実みたい……綺麗ね……」


 まるでセドリックの魔法のようだと思った。

 だけど。


「セドリックさんは、こんなに優しくないわ!」

「……聞いてくれる? あのね――」


 リアは小さな光に、彼との話をたくさん聞かせた。出会いから今日までのことを。


 すると、光は妖精の姿へと変わっていった。まるで、新しい命が生まれたのを見届けた気がした。



 * * *


 翌日。学院の中庭では生徒たちがざわついていた。気になって見に行くと……黒い髪の生徒。


 いや、――魔法使いのセドリックがいた。


「えっ……な、何してるんですか!?」


 つい大声を出すと、周囲の視線がリアに向けられた。彼は気にせず近寄ってくる。


「任務の一環だ。見て分かるだろ」

(また、それ……)


「もう、分かりませんよ……!」


 女子生徒たちから熱い視線を向けられる一方で、婚約者のいる男子生徒たちからは警戒されていた。


(どうしよう。トラブルになりそう……)

「こっちに来て下さい!」


 彼の制服の袖を掴むと、大人しくついてくる。そのまま中庭を離れ階段を上がり、また廊下を進み、ガラッと扉を開け、彼を押し込んだ。


 誰もいない空き教室。リアは思っていたことを伝えた。


「セドリックさん……目立ちすぎです」

「何故?」

「容姿も、佇まいも、仕草も……全部」


 整いすぎている。本来であれば良い意味だが、今は悪い意味で伝えていた。


「せめて……髪色だけ、変えられませんか?」


 国王陛下と同じ髪色では目立つ、とは言えなかった。


「あ。そうだ……ブロンド!」


 三年前の彼の姿を思い浮かべた。彼はその提案が意外だったのか、少しだけ目を丸くした。


「昔の色にできませんか?」

「……」


 彼は少し考え、魔法を使う。上から下へ色が染み込んでいくように、髪がやわらかなブロンドへ変わっていく。


 リアは思わず彼の前髪に手を伸ばす。


「うん……その方が、目立たない」


 三年前と同じ色のはずなのに……あの時の温もりだけがなかった。

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