第6話 黒い魔法使いの探し物
最近、黒い魔法使いとよく会う。
偶然にしては回数が多すぎる。
店内には焼きたてのパンの香り。
そして背の高い男。
「ありがとうございました……」
彼が店から出て行くのを確認すると、店長はパンを並べながら答えた。
「魔法団の仕事がこの辺りで増えたみたいだね」
黒い髪や黒い服については、あまり気に留めていない様子だった。
この国は『魔法使い』というだけで、立派な身分証明になってしまう。
「物騒ではあるけど、お店としては常連さんが増えてくれてありがたいよ」
「そ、そうなんですか」
(ベーグルだけ買っていった……好きなのかな)
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王都周辺の街は活気で溢れている。
「お嬢さん、新作の魔道具見ていかないかい?」
「あら素敵な輝きね! どれにするか迷うわ」
人混みの中で、白い制服の男だけがすっと流れを変えた。
「ちょっと! 今の人見て!かっこいい!」
視線の先で男は立ち止まり、道に迷っていた老夫婦へ声をかける。
「道に迷ったのか? それなら、この灯りを辿るといい。ヴェール王国第三図書館はその先だ」
一本の道筋が開かれ、人々はその光に注目した。
「ママ見て! 道が光ってる!」
「パパがお仕事してるのかもね」
「うん!」
老夫婦は帽子を外し、その男性に頭を下げる。
「ありがとうございます……ぜひお名前を……」
「私は国の名で働いています。名乗るほどのものじゃありませんよ」
それを見た女性たちは再びこう話す。
「素敵だわ……!」
「やっぱり結婚するなら王宮勤めがいいわよね!」
リアはその様子を遠くから見ていた。
(なんで黒なんだろ……。王族直属だから?オシャレが好きなだけ?)
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夜に会った際、思い切って聞いてみた。
「セドリックさんってどうしていつも黒い服なんですか?普通は、白い制服ですよね」
「俺は特例採用だからだ」
「特例……?」
「努力して職についた人間と同じ制服を着るほど根は腐っていない」
その言い方が妙に引っかかった。
まるで自分だけが、その制服を着てはいけない人間だと思っているみたいだった。
(そこまで言わなくてもいいのに)
もうひとつ。
「今日もまた昼間に会いましたよね。私のこと……ひょっとして監視してますか?」
「何故?」
「最近会うことが多いなと思いまして」
彼は魔法を唱え始めた。
文字が次々に現れ、やがて任務状らしきものが浮かび上がる。内容を要約すると――
「近くに指名手配犯がいる」
「こ、怖い……それも魔法使いのお仕事なんですか?」
「魔法が絡んでいれば、そうだな」
(この人、こんなに働いて過労にならないのかしら。私との時間も任務みたいだし)
「じゃあ、つけられていたと思ったのは私の勘違いだったんですね」
「いや。つけていたのは事実だ」
ついに、認めた――
どうしてですか、と聞こうとした瞬間、首元に手をかざされた。いつもより近い距離で緊張が走る。
「始める。動くな」
つまり、これ以上聞くなと言いたいらしい。
そのまま手のひらに魔力の光が灯された。
(もう。いつも強引なんだから……)
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その時間はまるで湯船の中に沈み、音が遠のいていくようだった。
ゴポゴポ……沈み込む。
やがて光が止み、リアはゆっくり目を開けた。
「今日はこれで終わりだ。鍵をかけろ。魔物が侵入する前に」
物騒な言葉を残し、彼は窓から消えた。
それは“眠らない子供への躾”として語られるものだが、彼の言葉は冗談には聞こえなかった。
(もういない……魔物もいない)
それを確認して窓に鍵をかけると、リアはすぐにベッドへ倒れ込んだ。
ぼふっ、とベッドに体が沈み込む。
「はぁ……眠い……」
(……黒い理由、結局聞けなかった。あの髪も、少し気になっていたのに)
* * *
深夜零時。リアは不思議な夢を見た。
羽の生えた小さな光が、リアの前をふわりと飛ぶ。その先には、大きく輝く木。枝には、宝石のような実がいくつも揺れていた。
「神話に出てくる光の実みたい……綺麗ね……」
まるでセドリックの魔法のようだと思った。
だけど。
「セドリックさんは、こんなに優しくないわ!」
「……聞いてくれる? あのね――」
リアは小さな光に、彼との話をたくさん聞かせた。出会いから今日までのことを。
すると、光は妖精の姿へと変わっていった。まるで、新しい命が生まれたのを見届けた気がした。
* * *
翌日。学院の中庭では生徒たちがざわついていた。気になって見に行くと……黒い髪の生徒。
いや、――魔法使いのセドリックがいた。
「えっ……な、何してるんですか!?」
つい大声を出すと、周囲の視線がリアに向けられた。彼は気にせず近寄ってくる。
「任務の一環だ。見て分かるだろ」
(また、それ……)
「もう、分かりませんよ……!」
女子生徒たちから熱い視線を向けられる一方で、婚約者のいる男子生徒たちからは警戒されていた。
(どうしよう。トラブルになりそう……)
「こっちに来て下さい!」
彼の制服の袖を掴むと、大人しくついてくる。そのまま中庭を離れ階段を上がり、また廊下を進み、ガラッと扉を開け、彼を押し込んだ。
誰もいない空き教室。リアは思っていたことを伝えた。
「セドリックさん……目立ちすぎです」
「何故?」
「容姿も、佇まいも、仕草も……全部」
整いすぎている。本来であれば良い意味だが、今は悪い意味で伝えていた。
「せめて……髪色だけ、変えられませんか?」
国王陛下と同じ髪色では目立つ、とは言えなかった。
「あ。そうだ……ブロンド!」
三年前の彼の姿を思い浮かべた。彼はその提案が意外だったのか、少しだけ目を丸くした。
「昔の色にできませんか?」
「……」
彼は少し考え、魔法を使う。上から下へ色が染み込んでいくように、髪がやわらかなブロンドへ変わっていく。
リアは思わず彼の前髪に手を伸ばす。
「うん……その方が、目立たない」
三年前と同じ色のはずなのに……あの時の温もりだけがなかった。




