始まりの狼煙
「さて、これからどうするかだな。」
病院を出るとほぼ同時、壮志郎が皆に向かってそう言う。
俺は一瞬、何のことか頭にクエスチョンマークを浮かべるが、顔に出ていたのか、俺を見た壮志郎は「まじか」と言った表情を見せる。
「お前が言ったんじゃねぇかよ、不良のいない世界作ろうって。」
そこで何の話か俺はようやく理解するが、再び壮志郎に呆れられ、肩をガクンと落とされた。
これに関しては、主語を付けなかったこいつも悪いような気がするが、口には出さない。
「で、実際どうすんだよ。」
龍心がポケットに手を突っ込みながら言う。
夕暮れの光が、病院の白い壁を赤く染めていた。
ついさっきまで泣いていたとは思えないほど、いつもの空気が戻り始めている。
「片っ端から潰して回りますかぃ?」
柊輝が冗談混じりに言う。
だが、その目は笑っていない。
半分冗談、半分本気と言ったところだ。
「まぁそれが、一番確実だろうな。」
柊輝の言う通り、片っ端から潰すのが最も簡単であり、確実な方法だった。
ただ…
「何年かかんだよ、それ。」
壮志郎が不満そうに言う。
壮志郎の言う通り、片っ端から潰して回るとすると、途方もない時間がかかるのは明確だった。
なんせ、ここ北区だけでも何十という不良集団、暴走族が存在しているのだ。
それを全国規模にしていくとすると…
「駄目だ、頭痛くなってきた。」
俺はそう思わずよろけるが、旭が倒れそうになる俺を支えてくれる。
「なにも全部を潰さなくてもいいだろ。」
旭は俺を支えながら、静かに言った。
「どういう意味だ?」
「――俺達が、暴走族になればいい。」
夕暮れの風が、静かに吹き抜ける。
誰も、すぐには口を開かなかった。
「……は?」
龍心はやっとの思いで声を出し、眉をひそめる。
意味が分からない。
だが旭は、真っ直ぐ前を見たまま続ける。
「俺達がデカい族になればいい。それなら他を従わせることも、強制的に解散させることもできる。」
その瞬間。
バラバラだった考えが、一つに繋がった気がした。
「つまり――」
壮志郎が口角を上げる。
「俺達が、頂点を取るってことか。」
旭は小さく笑った。
「あぁ。そういうことだ。」
半ば強引な考えな気もするが、まだこちらの方が現実味があった。
確かにそれなら片っ端から潰すよりも何十倍、何百倍も早く終わらせることができる。
「ならまずどこを潰すかだな。」
龍心がニヤリと笑う。
その目は、まるで面白い玩具を見つけた子供みたいだった。
やはり喧嘩が好きというのはあながち間違いではないのかもしれない。
「淀川連合はどうですかぃ。」
柊輝が静かに口を開く。
「淀川連合っつうと……」
俺でも聞いたことのある名だ。
ここ北区よりまだ少し北の地域で勢力を広げる暴走族だったはずだ。
もともと、東淀川、淀川、西淀川で別々の族だったようだが、最近合併したと聞いたことを思い出した。
「ちょうどいいんじゃねぇか?ぱぱっとやっちまおうぜ。」
壮志郎はそう簡単に言うが、そんな上手くいくわけがない。
そもそも、こいつは淀川連合のヤバさを分かっているのかさえ怪しい。
「まぁ、ビビってても仕方ねぇわな。」
自分で決めた目標のためだ、ビビってなんかいられない。
夕暮れの空を見上げる。
始まりの狼煙が、確かに上がった気がした。




