無力
「……やめろって言ってるだろ!!」
路地裏に響いた声に、俺達は足を止めた。
その後、間髪を入れず短い悲鳴が聞こえる。
嫌な予感がして、全員で顔を見合わせた。
「今の声……あいつじゃね?」
誰かがそう呟いた瞬間、俺達は走り出していた。
曲がり角を抜けて、路地裏を覗く。
そこにいたのは——仲間のあいつだった。
地面に倒され、何度も蹴られている。
5人の不良に囲まれて、抵抗もできずに。
「ガキが。調子乗ってんじゃねぇよ。」
鈍い音が響くたびに、胸の奥が締めつけられる。
「……やめろ!!」
誰かが言った。
「あぁん?」
不良の一人がその言葉に気がつき、こちらをギロリと睨む。
誰かが「ひっ」と情けない声を発した。
足の震えが止まらない。
相手はたかが高校生。
だがそれは中坊なりたての俺達の目には強大に、そして凶悪に見えた。
「てめぇらも同じ目にあいてぇのか?」
金属バットを地面に叩き付けながら、俺達にそう問いかけてくる。
「っ……。」
全員、分かってる。
ここで飛び込めば、ただじゃ済まない。
それでも、目の前で仲間がやられてる。
助けなきゃ、そう強く思う。
なのに——足は動かない、動けない。
「仲間がやられてるのに見て見ぬふりか?情けねぇ。」
馬鹿にしたような笑い声が響く。
「なら黙って見てろ。」
不良の手のバットが仲間に振り下ろされる。
「うっ…!」
「っ……!」
その苦しそうな呻き声に、誰かが歯を食いしばる音がした。
でも、結局——何もできなかった。
やがて、不良達は去っていく。
静かになった路地裏に、重たい空気だけが残る。
俺たちはゆっくり近づいた。
「……大丈夫か?」
返事は無い。
ただ、微かに息をしているだけだった。
誰も、目を合わせなかった。
分かってるからだ。
自分達が、逃げたということを。
「俺達、何やってんだよ…。」
ぽつりと、誰かが言った。
その一言が、胸に刺さる。
悔しい。
情けない。
でも、それ以上に——腹が立つ。
こんな理不尽な世界に。
そして、何もできなかった自分達に。
沈黙の中で、俺は口を開いた。
「……変えねぇか。」
全員の視線が集まる。
「こんなのおかしいだろ。当たり前みたく人を殴るやつがいていいはずねぇだろ。」
拳を握る。
「不良のいない世界、俺達で作ろうぜ。」
少しの沈黙。
でも——
「……やるしかねぇだろ。」
「もう二度と、こんな思いしたくねぇ」
一人、また一人と、声が重なる。
その瞬間、全員の中の何かが変わった気がした。
弱い俺達は、まだ何もできない。
でも——
ここから、始める。
全員で、この腐った世界をぶっ壊す。




