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捏造探偵2~カラマーゾフの贖罪~正義と真実の狂信者【完結】  作者: 高山路麒


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1-8 着々と進む文化祭の準備

 盗撮カメラを仕掛けつつ、怪しまれない程度に用務員としての仕事を行っていると放課後になる。しかし今は文化祭の準備中、帰宅部も学校に残っているのでそれによって仕事がやりやすくなるという事は無い。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です」


 カモフラージュの仕事をしていると一部の生徒や教職員は労をねぎらう挨拶をしてくれる。品行方正で良い事かもしれないが、後ろ暗い事をしている俺からすればこの礼儀正しさは少しばかり困ってしまう。挨拶って不審者や泥棒の撃退に意外と効果的なんだよな。


「おつかれさまですー」

「お疲れ様、でっ?」


 続けてのほほんとした声の男性も挨拶をして自然に振舞おうとしたが、その異質過ぎる巨大なハムスターの様なもふもふした物体に俺は思わず歪な声を出してしまった。


 あれって確か近所に出来たスイーツ店のパティシエ兼マスコットキャラのもふもふ君だっけ。なんでもふもふ君がこんな所に……。


「あ、もふもふ君!」

「やあ、ようすをみにきたよー。じょうずにできるようになった?」

「はい! チーズタルトが焼き上がったので食べていってください! ゾフィーとも相談してちゃんと売り物になるレベルになりましたから!」

「それはたのしみだねー」

「そりゃもう、人気店の店主さんがわざわざ監修をしていただいたのに、お店の看板に泥を縫う真似は出来ませんって!」


 だが推理するまでもなくその理由はすぐに判明した。エプロンを着た女子生徒との会話から察するに、彼は文化祭で提供するお菓子の監修をしているのだろう。


 もふもふ君の店は主にチーズケーキやチーズタルトなど、チーズに特化したスイーツを販売している。


 彼の店は味もさることながら、もふもふしたパティシエと相棒のネズミ君が接客を行うという愛くるしさも相まってオープンしてすぐにたちまち行列店に変貌してしまった。


 この間もテレビで特集が組まれていたけど、そんな有名なパティシエを文化祭のために呼び寄せる事が出来るだなんて流石名門校である。


 しかし俺は作業服を着て周りに溶け込もうと工夫しているのに、何故あんな違和感しかないもふもふした物体が受け入れられているのだろうか。着ぐるみを着ても怪しまれないのならもう全裸でもなんとかなりそうだ。


(ゾフィー?)


 しかしさらっと飛び出たゾフィーとは何の事だろう。文脈からして人の名前なのだろうか。


「ゾフィー、喫茶店のシフト表を作って」


 だが別の男子生徒がスマホの音声入力機能を使いその正体が判明する。成程、ゾフィーとは生成AIの事か。


 個人情報や秘匿性の高い情報を入力してはならないし、解答に誤った情報が含まれている事もあるが、扱い方さえ間違えなければ人工知能はとても便利な代物だ。


 最先端技術を使いこなしてナンボの探偵である俺ももちろん活用している。二代目捏造探偵の俺が具体的に何に使っているかは言わないが、まったく便利になったものだ。


 聞いた話によると最近の若者はプライベートな質問も人工知能に相談し、むしろ現実の家族や友人よりも信頼している奴も多いらしい。


 当然評論家はその風潮に対してああだこうだ言っているが、若者が嫌悪しているのはむしろそんな喧しい大人なのでその言葉が彼らに届く事は無いだろう。


 人間は親しい人間であろうと平気で噓をつき他者を陥れるので、子供たちが全肯定をしてくれる人工知能をパートナーとして頼ってしまうのも無理もないかもしれない。その事に賛否はあるが、人生に悪影響を及ぼす人間と無理をして付き合うくらいなら人工知能のほうがまだマシだろうな。


 これからは人工知能を使いこなせない奴は時代に取り残されてしまうのだろう。かつてパソコンを使いこなせない人間が老害とされのけ者とされたように、良くも悪くも社会に大きな変化をもたらすはずだ。


 さて、めぼしい場所にはカメラを仕掛けたし次の場所に行くか。

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