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捏造探偵2~カラマーゾフの贖罪~正義と真実の狂信者【完結】  作者: 高山路麒


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1-3 憧れの背中は遠い場所へ

 変態を無事確保し、昔の知人と再会した俺達は警察署に向かい面倒な事情聴取を受ける事になる。警察官時代は取り調べをする側だったが今はされる側、特に俺はグレーな仕事をしているので少しばかり気が重かった。


 だがどのような対応をすれば正解なのか元警察官の俺は熟知している。今まで通りネチネチと犯人そっちのけで尋問してくる警察官の質問をのらりくらりとかわし、今回も上手い具合にしのぐ事が出来た。もうすっかり慣れたものである。


「ふひー」


 取り調べを終えた俺は缶コーヒー片手に堂々とロビーで一服する。ここは敵地みたいなものだが今更気にしていられない。このくらい面の皮が厚くなければ捏造探偵はやっていられないのだから。


 だがずっと寛いではいられない。何故ならば取り調べの最中俺は新たな事実を知ってしまったからだ。


 聞く所によると盗撮犯は彼だけではなく、変態はまだ他にいるらしい。つまり俺の仕事は残念ながらまだ終わっていなかったのだ。


「お勤めご苦労様です」

「おう」


 むすっとした表情の聖愛は出所したばかりの若衆に挨拶する様に話しかけた。向こうは俺の事を嫌いなはずなのにどうして話しかけてきたのだろうか。


「俺になんか用か」

「ええ、警察OBの堤さんと私は一応先輩後輩の関係性ですからね。警視庁のキャリアだった堤さんと直接一緒に仕事をした事は無いですし、今更懲戒免職になったあなたと話す事は無いですが……構いませんか」

「手短にな。代わりに離せる範囲でそっちも情報を提供してほしい。別に捜査情報を聞くつもりはない。既に公表されている変態絡みの事案で十分だ」

「それくらいなら。こちらも借りを作りたくありませんし」


 大方彼女は恋那の事について聞きたいのだろう。こちらももう少し変態の情報を知りたかったので会話をする価値はあるはずだ。



 俺達は人気のない警察署の屋上に移動し、最初に事前に購入した缶コーヒーを聖愛に押し付けた。


「何のつもりです?」

「今からする事は個人的な会話だ、問題はない。そしてこれを受け取れば個人的な会話しか出来ない。そういう事だ」

「そうですか」


 聖愛は俺の提示した条件を受け入れ缶コーヒーを受け取る。治安維持を担う警察官は他のどの公務員よりも清廉潔白が求められ、ルール違反をしないために細かいところまで法律で雁字搦めになっている。だからこそ俺みたいな悪知恵の回る人間からすれば扱いやすかったりするのだ。


「堤さんのお噂はかねがね聞いていますよ。あまりいい噂は聞きませんが……」

「そんなよそよそしい態度を取らなくていいぞ。俺とお前の仲じゃないか」

「昔の話です。犯罪者の分際で馴れ馴れしい口を利かないでください」

「まったく、泣けてくるぜ。反抗期の娘を持った父親はこんな感じなのかね」


 彼女は当然二代目捏造探偵という俺の異名を知っておりかなり刺々しい態度を取る。俺はなんとか距離を詰めようとしたが、悲しい事にまるで相手にされなかった。


「恋那の事なら話せる情報はそんなにないぞ。俺もそんなにあいつの事は知らない。ただ元々ヤバい事をしていたが比較的真っ当な別れさせ屋に転職したって事くらいだな。その辺の事は警察署にある記録でも調べればわかるんじゃないか」

「そうですか」


 俺は先に自分の持っている情報を渡す。約束を守る保証はなかったが、俺が欲しい情報は既に公表されているものであり、あくまでも手間を省くためで必ずしも即座に必要なものではなかったからだ。


「先ほど言っていた不審者情報ですが、最近周辺で不審者の目撃情報が多発しています。盗撮、公然わいせつ、痴漢と罪状は様々ですが、逮捕された人間のどれもが公務員や地元企業の役員等社会的地位の高い人ばかりです。多くはあえて目立つように行動しているのですぐに逮捕されていますが。詳しく知りたければ警察のホームページをご覧ください」

「今は変態の季節じゃないと思うんだが。なんでわざわざエリート街道を突っ走っていたのにやらかすのかねぇ」

「それは皮肉ですか?」


 かつて俺は不祥事によって懲戒免職になった。大抵の人間が殺人と同じくらい嫌悪する重罪によって。やはり聖愛も俺を極悪人と認識しているのだろう。


「それ以外の何に思えるんだ。俺はやらかしてクビになった変態警察官だぞ」

「わかってますよ、全部」


 けれどため息をついた聖愛はどちらかと言えば憐みの眼差しをしており、そこに憎悪の感情は一切存在していなかった。俺をハメるためにでっち上げられたありもしない罪を彼女も当然信じていると思い込んでいた俺は、その予想外のリアクションに戸惑ってしまった。


「全部って……何をだ」

「堤さんのご想像にお任せします」


 結局聖愛は詳細に語る事は無く、その真意を伝える事は無かった。もう少し親しければ掘り下げる事が出来たのだろうが、生憎もう俺と彼女はその様な関係性ではなかった。


「最初は信じてたんですよ、堤さんが無実だって。道を踏み外したあなたをあの頃の様に慕うつもりはないですが」

「そうか。もう俺達は戻れないんだな」


 聖愛は寂しそうにそう告げ、俺はほろ苦いコーヒーで告げようとした言葉が形になる前に飲み込んだ。


 俺と聖愛はそこまで親しい関係かと言われれば微妙な所だし、彼女との関係はこれっきりにして再び闇の世界に戻るべきだろう。


 このコーヒーを飲んだら、とっとと仕事に戻る。それでいいじゃないか。


「じー」

「……………」

「じぃぃぃ」

「……………」


 しかしそんなハードボイルドな空気に似つかわしくないファンシーな物体が視界の片隅に入ってしまう。好奇心旺盛な彼女はこれでもかとガン見し、空気を読まずに突撃した。


「なになに、今のアダルティなやり取りは! ねぇねぇ何があったのパパ!? 不倫してたの!?」

「わわっ!? ええとニナちゃんだっけ?」

「何もない。家に帰ってロッシーと遊んどけ。あと独り身だから不倫でも浮気でもない」


 出歯亀根性溢れるニナはパパラッチの様に追及するが俺は一切相手にしなかった。いちいち相手にしていても疲れるだけだし、彼女がこうなった時は適当にあしらうに限る。


「不倫は良くないよ、パパ! 私の通っている学校の先生もホテルで給食センターの人とワンナイトラブをして大問題になったんだよ! それで修羅場になって給食にタワシコロッケが出てきたの!」

「昼ドラか」

「あと実は血のつながった兄妹で車に轢かれて記憶喪失になったの!」

「韓ドラか」

「で今はお笑い芸人になって韓国語っぽく聞こえるネタをやってるの!」

「ぺ○ん潤か」

「そんな人いたね。今何してるんだろう」


 どこかで聞いた様な話に俺は流れる様に適切なツッコミをし、こんな馬鹿馬鹿しい話を聖愛は事実として受け入れてしまう。ああいう流行物に乗っかった奴はプチブレイクしてもすぐに消えるからなあ。本家もすっかり見なくなったし。


「でどうなのお姉さん! アダルティなワンナイトラブしたの!? どこまでやったの!? A、B、C、D、E!? どれ!?」

「E、Eってなに!? そんなのないよ!?」

「ED! 限界を超えて一生勃たなくなるの!」

「ぴゃー!? 私と堤さんはそんな関係じゃないからー!」

「あ、待ってー!」


 清い心を持つ聖愛は下品極まるニナの言動に翻弄されとうとう逃げ出してしまう。しかしパパラッチと化した彼女が逃すはずもなく、彼女は執拗に聖愛を追い掛け回した。


「ふう」


 よくわからんが結果的には助かったし良しとしよう。俺はアンニュイな表情で缶コーヒーを一服し、再びハードボイルドな探偵っぽい振る舞いをした。


 まあさっきの言葉を使うのなら、散々好き放題やってきてもう何もかも手遅れだし、今更普通の世界観に軌道修正する事はもう無理なんだが。


 そういえばハードボイルドって語源は固めのゆで卵の事なんだっけ。差し詰め最初の事件の結末は柔らかい卵だったからこの物語はソフトボイルド小説ってか。


 ……うん、またしてもしょうもない親父ギャグを思いついてしまった。こんな下ネタがすらすら出てくるなんてもう俺も歳かな。

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