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捏造探偵2~カラマーゾフの贖罪~正義と真実の狂信者【完結】  作者: 高山路麒


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2-5 謎の観光客ミシェル

 ――堤三千世の視点から――


 転倒した来島先生を聖愛に任せ、俺は興奮したロッシーを追いかけてはぐれてしまったニナを探し息を切らしながら街を駆けずり回っていた。


 ……いや、嘘だ。実の所そこまで急いではいない。俺は非合法な事を平気で行う悪徳探偵、手段を択ばなければさほど苦労せずに見つけられるが、今回俺が用いた手段はスマホと首輪につけられたGPSを調べるというものだった。探偵なら推理しろとかロマンがないとか言うなよ。


 GPSを見る限りロッシーは一カ所にとどまり、ニナは大通りを歩いてこちらに近付いている。この様子だと向こうも俺がどこにいるのかちゃんと把握している様だ。


 子供の独り歩きに危険がないわけではないがそこまでの緊急性はなさそうだ。俺はもっぱら移動中、別の事を考えていた。


 事件の直前、ニナはまるで真矢の様な振る舞いをした。無論それが気のせいと言えばそれまでではあるが、俺はどうにも引っかかっていた。


 ドン・キホーテ事件の真相を伝えてからしばらくした後、一度だけ似た様な事があり、あの時はそこまで気に留めていなかったがあれは一体何なんだろうか。


(転生……)


 そういえば真矢と最後に別れた時に自分は転生したとかしょうもない冗談を言っていたっけ。俺は彼女の正体に辿り着く事が出来なかったが、結局真矢は何者だったのだろうか。


 異世界転生モノではしばしばその世界の人間に主人公の魂が宿る。そして転生した人間は自由気ままに幸せなセカンドライフを満喫する。だが肉体を奪われたオリジナルの人間にとって、望まずして器にされる事は死と同義であるに違いない。


(馬鹿馬鹿しい)


 俺はそこまで考えて思考を中断した。転生なんて所詮はフィクションの中の話だ。一応現実にも自称転生者はそこかしこにいるがそれを証明する事は事実上不可能であり、方法はいろいろあるがその気になれば誰であろうと疑似的に蘇らせる事は可能なのだから。


 それこそ最近は人工知能なんてものもあり、選挙でも党首の考えに基づいて答えるボットもある。AIキリストとか物議を醸しそうなものも結構あるけど、手段や倫理に拘らなければ割と簡単に再現は出来るだろう。


「パパー!」


 結論から言えばただの気のせい、それだけだ。実際目の前にラテン系の女性と共に現れたニナはいつもの様に無邪気な笑顔で駆け寄ってきている。その実に子供らしい振る舞いからは理知的な真矢を想起させる要素は一切感じられなかった。


 もしかすれば俺は無意識に真矢とニナを重ね合わせていただけなのかもしれない。だとすれば少しばかりシャレにならないな。


 まったく、ガチで娘に良からぬ感情を抱く変態にはなりたくないものだ。いや別に俺と真矢はそういう浮ついた関係じゃなかったけど。


「おう、ようやく会えたな。心配かけんなよ」

「ごめんごめん、パパ。それじゃあロッシーの所に行こうか。首輪のGPSはもう確認した?」

「ん、ああ」


 だがニナは妙に冷静で的確な指示を俺に出した。てっきりテンパっているかと思ったが、意外と成長しているんだな。


「ふふ、パパと無事に会えてよかったですね」

「うん、ありがとね、お姉さん!」


 きっとニナの面倒を見てくれたのだろう、高そうなスーツをビシッと決めたラテン系の女性は優しく微笑んだ。日本語も堪能だし外資系の高学歴エリートなのだろうか。きっと朝にはスムージーとか飲んでいるんだろうな。


「すみません、うちの娘の面倒を見てくれたんですか?」

「ええ、繁華街の方で迷子になっていたので。余計なお世話かとは思いましたが」

「いえいえ、滅相もないです」


 俺も一応大人だ、多少胡散臭くても社交辞令全開でへこへこと頭を下げた。そして最後に頭を上げた時、俺の笑顔は困惑したものに変わってしまう。


「ただそれは良いんですが、遠くからガン見している外国の方はあなたの友人ですかね。うちの娘がなんかしました? というか警察署から出たあたりからちょいちょい見切れてましたよね」

「おや、流石は名探偵さんですね」


 外国の女性はニコッと微笑みあっさり肯定した。ここでゴネても時間の無駄だし、素直に認めてくれたほうがこっちとしても助かるけど。


「私は通りすがりの観光客のミシェルと申します、以後お見知りおきを」

「通りすがりの観光客がなんで俺の事を探偵だって知ってるんですかね」

「それはあなたに依頼したい事があるからですよ」

「はあ、通りすがりの観光客なのに探偵に依頼したい事があるんですか。場合によっては断りますが、守秘義務は護るので話だけは聞いても良いですよ。うちの顧客は基本訳アリの方しかいないので」


 ミシェルという女性はどう考えても観光客とは思えなかったが、俺はあまり気にせず受け答えをした。金払いは良さそうだが、対応を間違えれば消されそうだし気を付けなければ。


「ではまず観光案内をしてもらえますか? いろいろこの辺を見て回りたいんですよ」

「うちはしがない三流探偵ですので生憎専門外ですね。そういうのは観光タクシーの人に頼んでください」


 彼女は探偵にするとは思えない頼みごとをしたが、本当に依頼したい事はきっとそんなものではないだろう。こいつは何が目的なのだろうか。


「ねえパパー、なにエキゾチックな美女に鼻の下を伸ばしてるの? 早くロッシーを探そうよー」

「ああ、そうだな。もし依頼したい事があるなら事務所に来てください。どうせ住所も知ってるんでしょう? 普通にネットで調べれば出てきますし」


 さっさとロッシーと会いたいニナはぐずり始めたので、俺はそれを口実に一旦その場を離れる事にした。この様子だとまたすぐにコンタクトを取るだろうが、身を護る対策をするための時間稼ぎは出来るだろうし。


「仕方ありませんね。ですがどうしても今すぐ行きたい場所があるのでそこだけ案内してください。すぐに辿り着くので」

「そうですか。ちなみにどこです?」

「この辺りで一番有名な心霊スポットです。娘が家族を惨殺するという凄惨な殺人事件があった家に行きたいのですが」

「海外からわざわざ観光に来る様な場所じゃないですね」


 しかし彼女が告げた言葉は俺を警戒させるのに十分だった。もちろんあの場所はよく知っているが、よりにもよってこのタイミングで言うとは……きっとミシェルは何もかも知っているんだろうな。


「意外と需要はありますよ。海外では幽霊の出るホテルは付加価値が付き心霊ツアーが組まれる事もありますし」

「いいですよ、どうせ今からその場所に行くので。お代は結構です」

「それは嬉しいですね」


 俺はげんなりしながら渋々申し出を受け入れる。こうなってしまっては抵抗しても無駄だし、言う事を聞いている間は手荒な手段は取るつもりはなさそうなので適当に機嫌を取っておこう。


「あ、そうだ。今からあのおうちに行くなら折角だから聖愛ちゃんに電話してもいいかな。ロッシーを見つけたから捕まえるのに協力してほしいって」

「構わないが。電話番号知ってたのか?」


 だがニナは不自然な程明るい口調でそんな提案をした。あの場所がロッシーにとってどういう場所なのかニナも知っているはずなのに、どうして彼女はこんなに楽しげなのだろう。


「うん、ちょっと人には言えない手段で調べたよ! じゃ電話をかけるね!」

「そうか」


 笑ってそう告げた彼女の笑顔はどこか歪で悍ましさを感じてしまった。親も親なら子供も子供って事か。


 ったく、教育を間違えちまったかなあ。子育てって難しいよ。

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