2-4 深淵から現れる何か
突然興奮して逃げ出したロッシーを追いかけ、私はパパとも聖愛ちゃんともはぐれて迷子になってしまう。
私はまるで迷路のように入り組んだ路地を歩いていた。この辺りは繁華街の中でも光が当たらない場所なのか黒いゴミ袋が適当に捨てられており、コンクリートの壁に描かれたスプレーの落書きも色褪せていた。
ここには大人のお店も悪そうな人すらいない。本当に裏側の場所だ。出来れば今すぐにでもどこかに行きたかった。
「ロッシー……」
心細くなった私は大切な家族の名前を力無く呼んだけど、ロッシーが返事をする事は無かった。
光の当たらない場所を彷徨い歩いていると作業服を着た外国の大人の人を何人も見かけた。たったそれだけの事だけど、その人達は普通の人間とは明らかに異なる雰囲気を漂わせていて、とてもお近付きになりたくないタイプの人だった。
「あの子は……」
「っ」
私はその中の一人、ラテン系の黒い肌の女の人と目が合ってしまう。怖くなった私は急いでその場から離れてしまった。
「どこにいるの、ロッシー……?」
どうしよう、このままロッシーが見つからず二度と会えなくなったら私はまた独りぼっちになってしまう。
車に轢かれていないかな。悪い人に虐められていないかな。保健所に連れて行かれたりしていないかな。私の頭の中には次々と考えたくもない最悪の可能性が思い浮かんだ。
パパはいつも忙しそうだった。それが私を養うためとはいえ、私はずっと寂しかったんだ。
そんな私にとってロッシーは大切な家族だった。ただ食べて寝るだけのもふもふでも、私にとってロッシーはかけがえのない存在だった。
誰でもいい、助けてほしい。こんな時パパなら――お師匠さんならどうするのだろう。
(ふむ、ようやく僕を呼んでくれたね)
「え?」
けれど彼女の事を考えた時どこからか声が聞こえてきた。それは右隣の廃墟のアダルトショップの建物からだったけど、そこには誰もいなかった。
いや、違う。彼女はそこにいた。あの人は割れたショーウィンドウのガラスの中に、本来私が映っているはずのその場所に確かに存在していた。
(僕の声はちゃんと聞こえるね? 僕の力を借りたければ髪留めに指を添えて強く念じるんだ)
「ええと、そうすればロッシーを見つけてくれるの?」
(ああ。しばらく君には眠ってもらうけどね)
「うん、わかった!」
傍から見ればかなり異常な光景だったかもしれない。だけど私はロッシーを助けるために彼女の指示に従い、お師匠さんの形見でもあるお気に入りの組木細工の髪留めに触れて一心に強く願った。
(ありがとう。君は素直でいい子だ。それじゃあ人生のロスタイムを楽しませてもらうよ。愛娘の身体を借りる事になるけどこれは君達を助けるためだから……大目に見てね、サンチョ君)
そして最後に彼女の声が聞こえ――私の意識は次第に深い所に落ちていく。
消えゆく意識の中で私は上に昇っていく誰かを見上げた。その誰かは私に優しく微笑み、彼女に肉体を譲り渡した私は眠りについてしまった。




