第五章123 『召喚魔法』
ザァァアア・・・ッ と加藤の膝下ほどに水が流れるのは、廃校者の廊下だ。
まるで小川のせせらぎのごとき光景となった廃校者の廊下・・・次の瞬間、水が流れる加藤の足元に何かが跳ねた。
「ーーー!」
ピチャン・・・ッ と小さな飛沫を上げたそれはーーー、
「ーーー魚か?」
そう、魚だ。
体長にして10〜15センチほどの魚が、あろう事か廊下を泳いでいる。
加藤としては、突如として廊下が小川になった事が驚きで、そこに現れた生物の事にまで気が回らない。
「なんなんだ・・・この水? どっから流れてきてやがる・・・?」
学校中の水道を目一杯開いたとしても、廊下が川になる事などそうそうない。そもそも、打ち捨てられて20年が経った廃校者だ。水道から水が出る事じたい考えにくい。
ならば、この水はーーー、
「ーーーあのガキの魔法攻撃か・・・」
マルファーナの魔法によるものに間違いない。
瞬間、加藤は《部分強化》で両目を強化して、水が流れてくる廊下の奥を見つめる。
すると廊下奥に、ボコボコ と水が湧き出る水源らしき膨らみが見て取れた。
「ーーーはっ。水責めで俺を倒すつもりか? それにしては水の量がすくーーー、痛ァッ!!?」
次の瞬間、ズキンッ と鋭い痛みが加藤の足に走った。
何事かと思い咄嗟に目を落とすと、加藤の足元の水が真っ赤に染まっている。当然、水を染めるのは加藤の血だ。
「んな・・・ッ!?」
いつの間に攻撃を受けたのか・・・それすら理解できない。
だが刹那、加藤は真っ赤に染まる足元に、小さな影を数個見た。水の中を我が物顔で突き進む10〜15センチほどの影ーーー、そう、先ほどの魚だ。
「こいつら・・・ッ」
加藤が魚の危険性を理解した瞬間、廊下前方の水がバシャンッッ!! と激しく跳ねた。
反射的に視線を向けた加藤が見たのは、ギラギラに鋭く尖った歯を持った魚の大群だ。加藤はよく知らないが、ピラニアという魚に近い見た目をしている。
だが、加藤に迫り来るのはピラニアではない。それよりもより凶悪で、より凶暴な魚のモンスターだ。
「なんだよ、、ありゃ!!?」
ギリィッ と歯を食いしばった加藤は、向かってくる魚のモンスターたちに日本刀を一閃する。さすがは、《部分強化》で強化された加藤の動体視力だ。高速で向かってくる魚モンスターを的確に斬り落としていく。
だがしかし、それは水の上に跳ねた個体だけだ。
「ーーーイデェ!!!」
ズキンッ と足に痛みが走る。
見ると、足元に数匹の魚の影が見えた。
どうやら、水の上で激しく跳ねていたの陽動で、本隊と呼べる魚の群れは水中を突き進んで来たようだ。
然しもの加藤も、水中に隠れた魚モンスターを見切るのは難しいようだ。
「くそッ!!」
この魚モンスター・・・廃墟と化した加藤の母校に住み着いていた個体とは思えない。いくらモンスターと言えど、水性生物が水気のない場所に生息できるわけがない。
ならばーーー、
「ーーーあのガキ・・・ッ」
魔道士マルファーナの召喚魔法により呼び出されたモンスターという事だ。
加藤は、《部分強化》を武器である日本刀に《付与》する。次の瞬間、日本刀の切れ味と剣域が格段に向上した。
「フンッ!!!」
短く気合いを入れて、強化した日本刀を一閃した加藤。刹那、斬ッッッ!! と彼の目の前の床が斬り裂かれ、あろう事か斬撃は階下まで達する。瞬間、廊下を満たしていた水が床の切れ目から階下へと流れ落ちていく。
ものの数秒で、加藤の膝下まであった水位がくるぶし辺りまで下がった。
するとーーー、
「ーーー!」
充分な水場を失った魚モンスターが、ピチャピチャと廊下の床に干上がった来た。こうなれば、“水を得た魚” ならず、“水を抜かれた魚” だ。
斬々々ッッッ!!! と床を跳ね回る魚モンスターに素早く斬撃を放ち、全滅させた加藤。
「ふぅ・・・ッ」
モンスターを召喚してくるという、これまで経験がない理外の攻撃に焦っていたのか、加藤は思わず溜め息を吐いてしまう。
その瞬間だーーー。
「!!?」
加藤は、ボゴンッ! という歪な音を聞いた。
まるで、鉄がひしゃげたような音・・・どこから聞こえたのか・・・とても近くから聞こえた気がする。
加藤は咄嗟に辺りを見渡すが、音の発生源は分からない。
今は戦いの最中だ。関係のない音になど気を取られている暇など加藤にはない。
だが、先ほど聞こえた音がどうしようもなく気になってしまうのだ。
不意に、加藤は「ふぅふぅ」と息を吐いた。戦いの緊張からか、息が嫌に上がっている気がする。
その瞬間だーーー。再び、ボゴボゴンッ!! と、今度は2度に渡って歪な音が聞こえてきた。
「!!??」
どこからか・・・すぐ近くだ。
否。
加藤こそが音の発生源なのだ。
「ッッッ!!!!?」
視線を落とした加藤は、とんでも無い光景を目の当たりにする。
自分の胸に、巨大な穴がひとつ。さらに、小さな穴が2つポッカリと空いていたのだ。
「なっ・・・、、なんだ、、こりゃ!!?」
文字通りの穴だ。ポッカリと・・・血すら出ていない。痛みもない。
ただ、息苦しいだろうか・・・。
「はぁはぁはぁ・・・ッ!??」
思わず、荒く息を繰り返した加藤。
その瞬間、加藤が繰り返した息の回数分だけ、ボコボコボゴンッ!!! と小さな穴が胸に増えた。




