第五章122 『人外バトル』
加藤の姿を見咎めたマルファーナは、自身の肉体に《大回復》を掛ける。
瞬間、マルファーナの身体中を淡い薄緑色の光が包み込み、ザックリと斬り裂かれた肩口の傷が瞬く間に塞がった。
「・・・」
切断されかけた右手をグッパッ と握り込み、感覚がある事を確認したマルファーナ。どうやら、《大回復》は成功したようだ。傷はもちろんの事、神経組織も繋がっている。
ならば、《小人族》が得意とする繊細な魔法も放てるというものだ。
マルファーナはその柔和な顔に、ニタリッ と意地悪く笑みを浮かべると、校舎の屋上に陣取っている加藤へ向かって静かに構えた。
「・・・調子に乗るなよ。前大戦での遺物ごときが・・・ッ。《小人族》が誇る精密魔法の前にひれ伏すがいい・・・ッ」
次の瞬間、素早く手印を結んだマルファーナ。
それを合図に、マルファーナの目の前に巨大な水の塊が突如として出現する。
「ーーー《水流蛇百》」
刹那、水の塊に無数の波紋が現れたーーー、その瞬間だ。
ボボボボボッ!! と空間に穴が開くような音が響き渡り、水の塊から無数の蛇が放たれた。もちろん、その蛇も水だ。と言っても、高魔力が秘められた水の蛇たち。岩ごときなら軽く貫通する。
「ーーー!」
マルファーナから無数の水の蛇を放たれた加藤は、《部分強化》で両目を強化して、高速で飛来する魔法を見切る。
見切る・・・と言ったところで、所詮は直線的で短調な攻撃だ。いくら早かろうが、数多の修羅場を潜り抜けた加藤が《部分強化》を駆使して躱せない攻撃ではない。
だが次の瞬間ーーー、
「ッ!!?」
飛来する水の蛇がギュンッ!! と向きを変えた。それも1つや2つどころではない。放たれた無数の水の蛇たち全てが向きを変えたのだ。
しかも、1つ1つが複雑怪奇な動きをしている。
こうなれば、いくら加藤の強化した動体視力と言えど、躱すのは容易ではない。
「やべ!」
加藤がそう小さく呟いた瞬間、四方八方から水の蛇たちが加藤を襲う。逃げ道などない。まるで、鳥カゴに囲われた鳥のごとき状況だ。
「鳥カゴに捕えるがごとき動きで獲物を付け狙う水の蛇たちだーーー死ねぇ!!!」
「ーーーチッ」
小さく舌を打ち鳴らした加藤は咄嗟に右手を強化して、校舎屋上の床に打ち付ける。瞬間、ボゴォンッ!! と土煙が舞って床が砕けた。そのまま加藤は、砕けた瓦礫に混じって階下に降りる。
「!」
どうやら、マルファーナの水の蛇は室内には侵入していないようだ。
加藤が瓦礫に混じって降りたのは廊下だった。素早く階下の床を蹴り、廊下を転がるように疾走した加藤。
次の瞬間、チュドドドドドドドドドドドォォンッッッ!!! と加藤が開けた屋上の穴からマルファーナの水の蛇たちが階下に降り注ぐ。
「ーーーぶね・・・ッ」
理外の方法で、多角的に迫り来た水の蛇たちを回避した加藤。
だが次の瞬間ーーー、
「ーーー痛ッッッ!!!?」
ズキンッ と心臓に激しい痛みが走る。
「・・・ぅグゥゥゥ・・・ッッッ、、!!」
心臓が鼓動するたびに、まるで胸を鋭い刃で突き刺されているかのような痛みが加藤を襲う。
《覚醒者》の能力を使用すると起きる発作ーーー、心臓の痛み。
それがある状態で能力の解放などという荒技に出た加藤には、やはり相応の代償があったようだ。
ガクンッ と膝を折った加藤は、その場に蹲る。
「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・ッッッ」
荒く繰り返される呼吸。痛みで苦しむ身体が酸素を欲しているのだろうが、呼吸するたびに痛みが生まれ出るためイタチごっこもいい所だ。
「や、、べぇ・・・ッ。マジで・・・俺の身体は・・・ッッッ」
室伏との戦いの時もそうだったが、肝心な時に動かなくなる自らの身体を酷く恨めしく思う加藤。
だがしかし、自らの力不足を恨んでも状況が好転する訳でもない。
加藤は右手を《部分強化》で強化するとーーー、次の瞬間、ドォォンッッッ!! と自らの胸を打ち鳴らした。
「ーーーご、、パッ!!!」
衝撃で競り上がってくる胃酸を吐き出した加藤。胃酸と言っても、血を大量に含んだ胃酸だ。
「はぁはぁはぁはぁ・・・」
目の前の床を赤く染め上げた加藤は、ギロリッ と鋭い双眸で虚空を睨みつけた。
「ちょっと、、踏ん張っただけで・・・根を上げてんじゃねぇよ・・・俺の身体ぁ・・・ッ」
自殺スレスレの気合いを入れた加藤は、ガクガクッ と震える足を叱咤して立ち上がる。そして、自分の手の骨が砕けるほど、日本刀をキツく握り込んだ。
「ふぅーッ」
と、加藤が深く息を吐いた。その瞬間だーーー、足元に違和感を覚えて顔下げる加藤。
するとーーー、
「!?」
床が水浸しになっている。
水漏れ・・・と思ったが、打ち捨てられて20年も経過した廃校に水気などあるはずがない。
となると考えられるのは、敵の攻撃。しかも、魔法による、、だ。
次の瞬間、ザッパァ・・・ッ と水が流れる音が校舎内に響き渡り、廊下がまるで小川のようになる。
「ーーーッ!? なん、、だ!?」
ピチャン・・・ッ と、加藤の足元の水が跳ねた。
その刹那、加藤は足元に何かの気配を感じる。




