第四章 -最終局面- 2 『2対の魔剣』
刹那、大気が震えた。
今まで青く透き通っていた空には、いつの間にか黒々とした厚い雷雲がかかり、破裂寸前の風船のように、ボンッ、ボボンッ と歪な音をあげて膨れ上がっている。
まさに、天変地異の前触れのような空模様。
おそらく、その原因は、加藤たち一行の目の前で 悠然と立ち上がった人物ーーー、アルフレッドにあった。
「・・・っ」
立ち上がったアルフレッドを前にした加藤は、身体を小さく震わせて、ひとつまみほと息を、ごくり と呑んだ。
アルフレッドから感じる、圧倒的なプレッシャーを前にして、完全に恐怖に飲まれてしまったのだ。
曰く、野生肉食動物は、手負の状態が1番 危険だと聞く。
ならば、手負どころか、1度 死んで蘇った魔道士アルフレッドは、どれほど危険なのか・・・わざわざ考える事もない。
「ーーー!」
瞬間、アルフレッドが無造作に手を振ったのを、加藤の双眸は捉えた。
「みんなーーー、離れ・・・っ」
加藤が振り向き、背後の仲間へ危険を知らせるーーー、その刹那だ。
ゴゥッ!! とアルフレッドの左右に漆黒の竜巻が 2つ出現した。
「ーーーなっ!!?」
突如、出現した竜巻から放たれる、まるで鞭のように荒れ狂った暴風に、加藤を除いた7人が足を救われる。
「ーーーうわっ!!」
「きゃっ!!」
「ーーーっつ!!」
「お前ラ、どっかに掴マーーーッ!!」
何人かの叫び声を置き去りにして、加藤の仲間たちを天高く吹き飛ばした竜巻は、ものの数秒で空気に溶けるように掻き消えた。
そしてーーー、
「ーーーぅ!!」
ドドドドォン!! という折り重なる音と共に、空へ飛ばされた7人の仲間は 容赦なく地上へ落下する。
「・・・」
加藤は、仲間ひとりひとりに駆け寄りたい気持ちを必死に抑えて、視線だけ彼らに向ける。
一瞬でもアルフレッドから意識を逸らしたら、その瞬間、身体をバラバラにされて殺されると本能的に理解していたからだ。
加藤が遠目で見た仲間たちは、1人として動いているようには見えなかった。
気を失っているのか・・・はたまたーーー。
いずれにせよ、ほんの数秒の間に、仲間たちは加藤ひとりを“戦場” に残してーーー、全滅してしまった。
「・・・っ。マジかよ・・・」
現実を直視できない加藤は、ぐぐぅ・・・っ と拳を握り込むしか出来ない。
だが、死地から復活したアルフレッドが、加藤に悠長に考える時間を与えるはずがない。
「ーーー《武器よ》」
アルフレッドが、ぼそり と粒いたのは、武器召喚の空間魔法だ。
瞬間、文言に反応して、アルフレッドの左右の空間が、ぐにゃり と捻れ出した。そして、数秒も経たないうちにーーー、
「なんだありゃ・・・?」
1辺が人の身長ほどある、真っ黒な正四角形の箱が、アルフレッドの両脇に出現する。
よほど重たい物質で できているのだろうか。
出現した瞬間、ズンッ! と地面にめり込んだ真っ黒な正四角形の箱。
実は この箱、武器を保管する保管庫のようなモノーーー、否。もっと厳密に言えば、剣を収める鞘のような存在なのだ。
「ーーーこの2対の剣は 使わんつもりだっだが・・・貴様の強さに敬意を表したので使わしてもらおう。あまり卑怯だとは言ってくれるなよ」
「・・・!」
「ーーー認めよう。認めようぞ、加藤 兵庫。私は、貴様の底力に感服した。よもや、私が劣等人種に《蘇生》の大魔法まで使わせられるとは思わなかった」
「・・・??」
妙な事に、アルフレッドの言葉からは恨み辛みなどの負の感情は感じ取れなかった。
普通、殺されかけた相手に抱く感情など、そのほとんどが憎悪に塗れた負の感情であるはずなのに、だ。
それが、つい先ほどまで、“劣等人種” と蔑んでいた相手なら尚の事のはずなのだが・・・。
「もはや、貴様を格下だとは思わん。1人の敵としてーーー、私の命を脅かす存在として、全身全霊を以ってして屠らせて貰おう!」
次の瞬間、アルフレッドの両脇に出現した真っ黒な正四角形の箱が、ガシュン と音を立てて割れた。
チープな表現だが、ルービックキューブのように、箱がズレたのだ。
中に収まっている “それ” を取り出すために・・・。
「・・・剣?」
ぽつり と呟いた加藤の言葉を肯定するように、割れた箱の中からは、西洋の剣らしき柄が覗かせている。
「・・・」
アルフレッドは、割れた2つの箱から覗かせた、2本の剣の柄を無言で握り込んだ。
その瞬間、2つの真っ黒な箱が、バァンッ!! と爆発四散して、2対の艶やかな剣の刃が戦場に姿を現した。
2対の剣は、まさに中世西洋の騎士が持っているような見た目をしている。宝石が あしらえられた柄に 両刃の剣。
だが、アルフレッドが把持している2対の剣には、独特な特徴もあった。
柄には、それぞれ赤色と透明な宝石か嵌め込まれており、赤色の宝石があしらえられた剣の刃の表面には、真っ赤な血管のごとし筋が何本も枝分かれして走っていた。
さらに、透明な宝石が嵌め込まれた剣の刃は、まるで深雪のように真っ白となっている。光も何も反射しない、ただ真っ白な刃なのだ。
「ーーーこれは・・・」
「ーーー!」
「この2対の剣の名は、《炎の剣》と《氷の剣》」
「イグニギプスに、、アルメダ?」
聞き覚えがある名前に、加藤は反応する。
確か、《怪物闘技》の闘技場で戦った《魔導騎兵》が同じような名前の剣を使っていたはずだ。
「そう・・・貴様が先の《魔導騎兵》との戦いで破壊した複製品・・・そのオリジナルとなる剣だ」




