第三章113 『決着。そして・・・』
《魔導騎兵》フェーズ2 が放った《8属性融合魔法》。
色とりどりに輝くエネルギー弾は周囲の空間を削り取りながら、加藤に向かって高速に飛来した。
視界いっぱいに迫り来るカラフルな光たち。その光景は、まるで万華鏡の中にでも迷い込んだかの様に幻想的で美しいものだった。
だがしかし、幻想的などと酔いしれている時間は加藤にはない。
「っ!!」
攻撃の規模から躱すのは不可能と判断した加藤。
そもそも、身動きが取れない空中では躱しようがないのだが。
「ーーー《付与》!」
ならば、と真っ向から《魔導騎兵》フェーズ2 の攻撃を破ると覚悟を決めた加藤。
自分の能力である《部分強化》を、装備する日本刀へ《付与》した。
「力を貸してくれよな ーーー佐伯さん」
恩人であり、加藤が持つ日本刀の持ち主の名を 口の中で転がすように呟いた加藤。
あと数瞬もしない内に、加藤の身体は《8属性融合魔法》によって消し飛ばされるだろう。
「ーーーふっ!」
加藤は小さく息を吐いた。
と 同時に、上段で構えた日本刀を袈裟斬りに振り下ろす。
刹那、加藤の日本刀から斬撃が放たれ、空間を裂き、天を割り、《魔導騎兵》フェーズ2 の《8属性融合魔法》と激突した。
その光景は、何とも言えない不可思議で幻想的なモノだった。
例えば、宇宙の只中で超新星爆発を目にしたような感覚だろうか。
詰まるところ、莫大な光の爆発が加藤の目の前で巻き起こったのだ。
「ーーー!」
だがしかし、加藤は不思議と衝撃の類を感じなかった。
まるで、最初から《魔導騎兵》フェーズ2 の攻撃が 加藤を避けるようになっていたと思える程にだ。
まさしく、光そのものを斬ったような感覚。
だが、加藤は確信していた。
その手応えがない斬撃が、《魔導騎兵》フェーズ2 に届くことを。
そしてーーー、
「ーーー殺った」
その斬撃が、《魔導騎兵》フェーズ2 のコアである《魔法結晶》を破壊することも。
『ピピッ、ピーーー』
天ごと《8属性融合魔法》を斬り裂いて迫る斬撃を、センサーでキャッチした《魔導騎兵》フェーズ2 。
咄嗟に、ジェットエンジンを吹かして回避しようとしたがーーー無理だった。
『ピ、、、ガッ!!?』
斬撃は《魔導騎兵》フェーズ2 の硬い外皮を豆腐のように斬り裂き、ヒビが入った《魔法結晶》にまで辿り着いた。
無論、そこで終わりでは無い。
外皮同様、《魔法結晶》を両断した斬撃は、《魔導騎兵》フェーズ2 のボディを突き抜けて、遥か後方にまで飛んでいく。
そのまま、数キロ先の天をも斬り裂いた斬撃は、旋風のように萎んでいきーーー、ようやく空気に溶けるようにして消えた。
『ピ、、ピピッ、、、ガガガガ、、、』
濁った機械音を不規則に鳴らしながら、両断されたボディから火花を散らせる《魔導騎兵》フェーズ2 。
「・・・」
加藤は強化した目で、そんな《魔導騎兵》フェーズ2 を見る。
どうやら、コアである《魔法結晶》が破壊された以上、もはや修復は出来ないようだ。
そう判断した加藤は、後は重力に任せて自然と落下していく。
スゥー と落ちていく加藤。不意にモヤのような物に視界が塞がれた。
どうやら雲の中に入ったようだ。
その刹那、上空で爆発音が聞こえた気がした。
うるさいくらいの風切り音で よく聞こえなかったが、おそらく《魔導騎兵》フェーズ2 が爆発四散した音であろう。
つまりーーー、
「勝ったな」
加藤たち一党の勝利を知らせる鐘の音だ。
***************
「ーーーっっつ!!!?」
加藤が《魔導騎兵》フェーズ2 と相対した空よりも、もう少し高い上空に揺蕩う飛空艇。
その甲板にて、事の成り行きを立体映像で見ていたアルフレッドは、驚きのあまり言葉を詰まらせる事しか出来なかった。
当然だ。
研究に研究を重ねて製造した《魔導騎兵》が、前時代の異物である《魔人》などに敗れたのだから。
「ーーーまさか《8属性融合魔法》を両断し、《魔導騎兵》を倒すとは・・・」
「ーーーはっ!?」
不意に、背後に立っていたマウロの声に振り向いたアルフレッド。
「マウロ殿・・・」
「アルフレッド殿。いくらなんでも、これはーーー」
立体映像を見たマウロ。ちょうど《魔導騎兵》フェーズ2 が空中で爆発四散する瞬間だった。
どうやら、当初 期待していた魔力爆発も、極大魔法である《8属性融合魔法》を放った後だったため、血中魔力濃度が減少していたのだろう。
大した威力にはならなかった。
「由々しき事態ですね」
「ーーーっ!! ・・・それは、ヘレナ法国への亡命の約束を反故にされる程、、、という事ですか?」
「いえ。それはヘレナ様の依代であるミユ様を頂いているので約束通り。《魔導騎兵》も破壊されましたが、その研究記録等は残っていますので、それも大丈夫でしょう」
「? ならば、由々しき事態とは?」
「・・・」
マウロは手を振って、立体映像の映像を切り替える。
そこには、空から落ちていく 1人の少年が映し出されていた。
「彼ですよ。《魔導騎兵》を倒せる・・・それはつまり、魔道士に匹敵する力を持った《魔人》が、この地に出現した事を意味します」
「ーーー!」
「まだまだ力は安定せず、荒削りですが、、、このままでは我々の大きな障害になる可能性があります。その前にーーー」
「マウロ殿」
アルフレッドがマウロの言葉を遮る。
「仰りたい事は分かります」
次の瞬間、アルフレッドの周囲を不気味な赤黒いモヤが取り巻いた。
「この劣等人種のサルも、その仲間と思しき闘技場の連中も・・・私が直々に殺します」
ゴウッ と赤黒いモヤの勢いが増した。
マウロは、そのモヤを避けるように半歩ほと背後に下がりながらも「お手伝いしましょう」とアルフレッドに賛同する。
「ーーーお待ちください!!」
だがしかし、地上に向かう2人を久留本 美優が止める。
「なんだミユ?」
「そろそろ帝国から本格的な追手が放たれる頃合いです。念の為、今すぐに この空域を離れた方がよろしいかと・・・」
「準備をしておけ。劣等人種を数匹 始末するだけだ。時間は取らせん」
「ーーーいや、ですが・・・仮にも《魔導騎兵》を倒した相手ですので・・・始末にしても、もう少し慎重になられたほうが・・・」
「必要ない。奴らは手負。そもそも魔力が無い下等な種族だ」
「ですが《魔人》です。異能の力を持つ者たちです。それに、《巨人族》や《獣人種》もおります!!」
「・・・」
「アルフレッド様が負けないにしても、下手に時間がかかったらーーー」
「何をそんなに熱くなっている?」
「ーーーっ!!」
不意に、アルフレッドから投げかけられた言葉に、肩を震わせた美優。
「いえ、、、そんな事・・・」
「やたら我々を引き留めているように感じるが・・・」
「・・・っ」
「まさか、奴ら下等な種族を庇っている訳ではあるまいな?」
アルフレッドの鋭い双眸が美優を射抜いた。
「・・・」
たったそれだけで、まるで金縛りにあったかの様に身体の自由が奪われた美優。
「まぁまぁ、アルフレッド殿」
「ーーーっ!!」
「ミユ様は、アナタの心配をしているだけですよ」
「そうですかね」
「えぇ。よもやミユ様がーーー」
今度はマウロの目が美優を射抜いた。
「劣等人種を庇う様なこと、する筈ありません」
「・・・」
マウロと視線を交差させる美優。
「おそらく、純粋にアルフレッド殿が劣等人種の討伐に時間をかける事を心配しているのでしょう」
「ふむ。確かに《巨人族》は守りが固く、《獣人種》は動きが素早い。《魔人》と同時に、この2種族を相手にするの面倒か」
「えぇ。と言っても、魔道士が3人いれば 全く問題なく瞬殺できると思いますが・・・」
「! ミユも連れて行くのですか?」
「はい。まぁ アルフレッド殿 1人で充分でしょうが、念には念を入れて・・・という事で」
「ふむ・・・」
アルフレッドは、指で顎を扱きながら数秒ほど考え込む。
その間、美優はマウロを睨みつけた。
(・・・この男、どういうつもりよ)
そんなマウロは、美優の視線に気づかないフリをして、不適に笑っている。
「ふむ! まぁ、いいでしょう。ミユ、貴様も着いて来い」
「ーーー! は、はい・・・」
「決まりですね。では、私の《空間転移》で地上まで飛びましょう」